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少女闘争  作者: からし
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少女闘争 その3 1:飯田悠という少女 (黎明の魔女)

品行方正。

美人で近寄り難い。

飯田悠という人物を、言葉で表現するなら、まさにそんな感じ。

切れ長の瞳に、肩までかかる長い黒髪。

授業を受ける時の、つまらなさそうに窓の外を見る眼差し。

そんな少女だった。


『君は他人と積極的に関わりたがらないね。孤独を好んでいる。でもそれは他人と積極的に関わりたいことに対する裏返しだ。君は他人との関わりに憧れを持っていて、それが幻滅するのではないかということを、怖れている。』

(全く、アイツはイヤなとこ、突いてくるわね)

教室で窓の外を眺めながら、飯田悠は憂鬱な気分になっていた。

国語の先生が喋る内容が、空気に漂ってどこからともなく溶けていく。

春の弛緩した空気が、暖かい日差しが、教室内を満たしていた。

この春で高校二年生になった飯田悠は、そろそろ進路を悩んだり、試験の結果に一喜一憂したり、あるいは恋愛ごとに悶々としてみたり、そんな事をすべき年頃であった。

しかしいたる所に漂う浮いた空気が、全てのやる気を奪っていた。

(本来、私はこんな穏やかな性格なのかもね。いや、怠惰な性格っていうのかしら)

そうだ。外部からの干渉さえなければ、こんなに穏やかでいられるのだ。

人付き合いは億劫だ。周りの出来事など、気にしたくはない。

他人からの刺激で起伏する感情を、飯田悠は好んでいなかった。

(でも、それも私。そうすると、穏やかな私は自分の中だけで構築した者であって、本来の私はもっと激しい性格をしているのかしら)

社会の中での飯田悠という人物は、社会との関わりの中でしか浮かび上がってこない。

『君は特別な中でも、さらに特別な才能を持っている。その理由を考えたことはあるかい?それをどうするかは、君の自由だ。そして君は他との関わりを怖れている。でも物事は落ち着くべき場所に落ち着くんだ。いいかい、それはどうあっても、だ。だから君は僕からの依頼を聞いてもいいし、聞き流しても良い。君の意思がどうあろうと、それは行くべき場所に落ちる。矛盾するようだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

飯田悠は、あの軽薄で飄々とした掴み所のない男、シンの依頼を受けるべきか、思案し、答えの出ない事にため息をついたのだった。


授業が終わり、カバンに筆記用具を片付ける。

顔を上げると、そこに可愛らしい垢抜けた女子生徒が立っていた。

「飯田さん、このあとカラオケでも行かない?」

可愛らしい垢抜けた女子生徒が、悠に声をかける。

悠は少し間を開けてから、

「いや、遠慮しておく。ちょっと用事があって。ごめんね。」

愛想笑いを浮かべながら、片手を振る。

「そ、そう…じゃあ、またの機会にね。」

そう言って、元いた男女数名のグループに帰っていく。

だから言ったのに、だの、別に誘わなくていいじゃん、だの、垢抜けた女子生徒を気遣う声が聞こえる。

悠は女子生徒が(名前は忘れた)気遣って、誘ってくれたのを知っている。

毎回断っているため、少し申し訳なくなる。

(一回くらい、行けばいいんだろうけどね。)

どうにもそんな気になれない。

馴染めないのだ。

クラスの人間と。

他愛のないおしゃべりをしたり、冗談を言い合ったり。

そんなひと時も、彼女にとってはどうにも嘘っぽく感じてしまってならない。

(やっぱ変なのかな、わたし。)

一息ついて、思考を巡らせる。

これがこの年頃特有の病気なのか、と思案し、

(うん、やっぱ変か。)

そう結論付ける。

そんなことを考えながら、片づけをすすめていると、噂話が聞こえてきた。

「知ってる?2組の朝田たち、学校来てないじゃん?あれ、キセノンのギャングにやられたらしいよ。」

「ああ、獣人混じりがいるところでしょ?こわっ」

それは二、三日前に担任から知らせのあった、ある事件のことであった。

この学校にいる不良少年たちが、大怪我をした、というもの。

大怪我、という言葉だけを聞くと、なんとも抽象的な表現になるが、具体的に言うとほぼ日常復帰が困難なくらいの怪我を負ったらしい。

噂では、手足の一部を食いちぎられた、だとか。


多様性を受け入れる世の中になっても、心の奥底にある、根本的な種の違いから来る区別意識はなくならない者もいるようだ。

もちろん、そうでない者もいるが。

この学校にも人外の種はいて、仲良くやっている。

みんな違って、みんないい。

そんな素晴らしい宣言のもと、統一した校則や規則でルール決めがされている。

そしてそのルールは、人間をベースに制定されている。

(気持ち悪い。)

結局は、力学的な多数優勢なものによって、世界は決められ、回っているのだ。

奥底にある区別意識は、少数派にも、多数派にも、杭のように突き刺さって抜けないのだ。

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