少女闘争 その2 本日の定例会
かなり遠く、近い未来。
ここではないどこか。
大陸にいくつかの都市。
人類が機械文明を発展させ、幅を利かせていた時代を超え、様々な種族が姿を現した時代を超え、しかし統治されるには至らない。
これはそんな世界の話。
無法の都市、キセノンシティ。
隣に並ぶ富裕の都市、アドバンスシティ。
アドバンスシティは、文字通り富める者の街。
都市は整備されていて、制度はできあがっていて、不満のある者はいない。
キセノンシティは崩壊した都市。
法がなく、あらゆる違法が蔓延し、犯罪、異次元、不正魔術、異人、魔人、危険魔獣が蔓延る。
しかし、それも過去の話。
キセノンシティは無法ではなく管理され、ちょっとした繁華街へ。
安全とは言えないが、学生に夜遅くまで歩き回らないよう、注意が出るレベルへ。
アドバンスシティは形骸化した理想の元、汚職と格差が滲み出る街へ。
時は良い方向へ進むのでもなく、悪い方向へ進むでもなく、たくさんの構成する要素により、進むべき方向へ進んでいく。
それはある種の理であった。
そんな二つの都市の境界の、ほんの少しアドバンスシティ寄りに立つ雑居ビルの階段を、神山沙希は登っていた。
(エレベーターくらいつければいいのに。)
4階建ての屋上のさらに上。
屋上に立つもう一つの小さな建物。
その建物の入り口は小さな建物の2階にあるため、屋上からさらに梯子を登る必要がある。
なんでも、昔、著名なデザイナーが建てたのだとか。
変わった構造の建物であった。
そうして梯子の先にあるドアを開けると、薄暗い灯りが灯された部屋がある。
外から見る限り、そんなに広くないはずだが、灯りのせいか、どこまでも奥行きがあって見える、不思議な空間。
「あ、真理ちゃん!」
沙希の呼びかけに、ソファーに座って読書をしていた少女が顔をあげる。
あどけない顔つき。肩口で切りそろえた、茶色がかった髪。
真理と呼ばれた少女は顔を上げる。、
「沙希ちゃんっ!」
はぁっと、顔を輝かせる。
(か、かわいい)
沙希は心の中でそう呟く。
沙希は彼女の心のファンであった。
「シンさんから無茶振りされたって聞いたけど、大丈夫だった?」
心配そうに眉を寄せる真理。
「結婚しよう」
「え???」
「おっとすまん、つい本音が」
「もぉ、沙希ちゃんは面白いなぁ」
沙希としては半分本気なのだが、とりあえず置いておく。
「まあ、なんとかなった」
へへへ、と笑う沙希。
「へらへらして、ホント緊張感のないやつ。」
部屋の奥からもう一つの声が聞こえてきた。
入ってきたのは黒髪ロングのキツめの美人。
制服姿の少女。
「あははは、悠は手厳しいなぁ。」
「で、結果は?」
「うん、勝ったよ。」
「マジ・・・」
悠が若干引きながら呟く。
「おお、そろったのね、みんな」
さらに奥から男が現れる。
金髪、短パン、白いTシャツの優男。
「シンさん、あれ、なんだったんですか?すっごくヤバそうな感じだったんですけど・・・」
「オーケー、その辺りも含めた共有も兼ねて、定例のアレ、始めますか。」
シンと呼ばれた男はヘラヘラと軽薄そうな笑みを浮かべ、どっかりとソファーに腰を下ろした。
「沙希ちゃんの出場したアレ、キセノンシティで有名な裏闘技場なの。」
「マジすか、シンさん・・・」
「いやあんた、あの案内見て気づかなかったの?」
沙希が驚愕し、悠が呆れた表情でそれを見る。
「まあ戦わせて、それをネットで配信するのさ。モザイクなし、規制なし、反則なしのなんでもあり。ただし、時々借金返すために嬲りもの役としてエントリーされる可哀想な人たちもいる。」
シンは笑顔でキセノンシティの裏側を語る。
「そんなクソみたいな事態がまかり通ってるのが謎だわ。そして、そんなところに送り込んだシンさん、鬼ね。」
悠が半眼でシンを睨む。
「管理されているだけだからね。そこに道徳や正義はない。言ってみれば、黙認されている。利益と秩序のためにね。」
それを聞いて、ため息をつく悠。
ロジックは通っているだけに、まるでわかっていて騙されることを強要されているようだった。
「それで、どうして沙希ちゃんがそんなとこに行ったのか、そろそろ種明かししてくださいよー。」
真理がしびれを切らして言う。
「そうさねぇ、まず、沙希ちゃんは今回、嬲られ役としてエントリーした。めちゃくちゃ借金あって、首が回らない可哀想な少女としてね。」
沙希が微妙な顔をする。
「わ、わたし嬲られ役だったの…」
「で、そこに高い登録料支払っているVIP様たちがアクセスしてくるわけさ。違法だけど、違法じゃないこの会の支持者、その中核の方々さ。」
「そいつら一網打尽にして、豚箱に放り込んでやんの?」
「はっはっは!悠ちゃんは乱暴だなぁ。」
むっとした顔をする悠。
「まあ、そうよね。なんか裏あんでしょ?」
「そうさねぇ。VIP様達は放置さ。狙いはもっと先にある。時に沙希ちゃんは、圧勝したみたいだね」
「そうですね・・・たぶん・・・実感ないですけど。」
沙希の回答にシンはニヤニヤしながら、
「さすが、神話級は格が違う。」
シンは天を仰ぐ。
「これも種まきさ。芽が出るのはまだ先かな。」
「毎度謎かけみたいなセリフ、マジむかつく。」
「まあ、話は次で終わりさ。悠ちゃん。」
その言葉にピクリと反応し、振り返る悠。
「ストレートに要件をお願い。謎かけだったらぶっ殺す。」
「おー、こわ。でも残念ながら謎かけです。殺されたくないなぁ。」
「・・・わかったから・・・、で、何?」
悠にとって、毎度、この男との会話は疲れる。
しかし、避けられない大きな問題が横たわっているため、聞かざるを得ない。
「さて。君に命ずるは・・・」