少女闘争 その5 列日の破戒者 怪物達の余興
「超人、いや怪物ね。」
「やめてよ、なんか可愛くない・・・」
悠の悪態に紗季は項垂れる。
兵隊たちの防衛を突破し、無人となった戦場を二人は歩む。
そうして辿り着いたのは、テレビや映画で見たことがあるような基地であった。
「っ!」
不意に紗季がよろめく。
「!」
悠の体の周辺が球状に光った。
遅れて銃声が耳に入る。
顔を上げた紗季は右斜め前方を見やる。
「狙撃ってやつかしら。」
悠は呆れたようにつぶやく。
どうやら紗季は頭部に銃弾を受け、悠は常時展開していた防御魔術が銃弾を弾いたようだった。(ただ、紗季はまったくの無傷であったが。)
「面倒ね。」
そうして右手を向けた。
「牽制のために、ちょっと派手にいくわね。」
「え、牽制なんてできたの?悠ちゃん」
「はっ倒すわよ、失礼ね。」
悠の周辺が淡く光る。
ついで、腕の周りに魔法陣が幾重にも展開されていく。
「光よ、大気よ、震えよ、讃えよ、この力に。」
「す、すごい、なんかわかんないけどすごい」
紗季が目を輝かせる。
「見せかけのやつよ。光や音を展開する魔術を編み込んでるの。無い方がコスト無いんだけどね。何回も打つより、」
少女の前に直径1メートル余りの大きな光の球が出現する。
「一回の抑止力ある一撃よ。」
その光球が辺りを昼間のように照らす。
熱量の塊は、一瞬の間を置いて悠の視線の先に伸び、駆けていく。
着弾した一撃は、轟音と閃光を撒き散らしながら、攻撃の元となった場所を徹底的に破壊したのだった。
火の手によって照らしだされた悠は、放った一撃とは対照的につまらなさそうな表情をしていた。
「どうしたの?悠ちゃん」
紗季が気になって訪ねる。
「紗季はさ、疑問に思ったことない?私たちの、この行動の意味を。」
軽薄な金髪男によって告げられた、今回のこの依頼。
悠には疑問が残ることがあった。
「悪いこと企んでいる人たちを、やっつけるんでしょ?」
相変わらず紗季はシンプルにしか考えていないらしい。
「あんたさ、世の中は正しいと、間違っているの二つだけじゃないの。それが斑に混ざって構成されている。だからある側面から見た物事は、別の視点から見ると違った面がある。」
「悠ちゃんて、難しく考えるんだね・・・。けど、なんというか、世界って自分の主観だから、別の視点なんてなくないかなー?」
むずかしい、と頭を抱えるそぶりを見せる紗季。
だが悠は少し疑問を感じている。
自分達の力が突出したものであることは、おそらく違いない。
しかしそれゆえに、それによって世界は塗りつぶされてしまう。
一方の視点に。
「決めたはずなのにな。わかったはずなんだけど。」
そう言った直後、またも悠の周辺が光る。
狙撃だ。
「まったく。仕方ないわね。」
悠は魔法を構成していく。
術によって、整理された摂理ではなく、乱暴な奔流。
それを流し込み、副次的な事象として彼女の周辺を淡い光で照らす。
「私、そっちの方が好きだな。」
紗季は半ばうっとりとした笑顔で言う。
それに対して悠は、視線を射線の向こう側へ向ける。
先ほどのような魔法陣も、精錬された呪文も、大いなる空気もなく。
ただただ力が錬成されていく。
最高に嗜虐的な笑みを浮かべ、一言。
彼女はトリガーとなる言葉を。
「▪️」
ただ、発した。
司令部である一室は騒然としていた。
狙撃で仕留める案を立案し、対象に攻撃を当てたまではよかった。
さらに狙撃元が破壊されても第二、第三の狙撃手が現れることで、侵入者の神経やら何やらを削る寸法であった。
そのはずであった。
「全域が破壊されました」
オペレーターの絶望的な声。
区域とかコードネームとか。
部分を表す表現があるはずだったが、現況を適切に報告するためにはその言葉が適切であった。
「正体不明、おそらく魔術系の攻撃で、ラインすべてが沈黙です。。。」
「ふざけるなっ!」
ついに基地の責任者がキレた。
「あんな出鱈目なやつがあるか!ふざけるなーっ!あーーー!!」
頭を掻きむしり、幽鬼のような視線を切り札に向ける。
「頼んだぞ。。。」
それを受けて、女は深く頷いたのだった。