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少女闘争  作者: からし
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少女闘争 その5 列日の破戒者

銃弾の雨の中、手作りの土豪の中で神山紗希はため息をついた。

「ため息なんてつかないでよ。誰の所為だと思ってんの?」

同じく土豪に紗希と座り込む飯田悠は文句をあげる。

「いやぁ、ごめんってば」

へらへらと緊張感のない笑みを浮かべる紗希。

その間にも銃弾はそばを掠め、地面を抉る。

「着地が派手なのよっ!何?あの隕石みたいな着地は?レーダーを誤魔化してきた私が馬鹿みたいじゃない!」

悠の怒りの目を、笑みで誤魔化そうとするが、追及についに折れ、紗季は腰を上げる。

「わかったよぉっ!なんとかすればいいんでしょっ!」

そう言って、土豪から顔、というか上半身を出し、射線の先を見据える。

時刻は23時。

あたりは闇。

その先からオレンジ色の線が断続的に降り注ぎ、銃弾が空気を掠める。

常人には闇しか見えないその光景。

当然、感知系の魔法を使わないと悠にとっても同様だ。

だが、

「あそこと、あそこね。」

紗季はつぶやく。

彼女には一体何が見えているのか。

突風が吹いた。

悠は一瞬、目を伏せる。

次に目を開けた時には、紗季の姿はなかった。


闇の中を銃弾よりも早く、弾かれた弾のように紗季は駆ける。

一瞬で間合いを詰められた、スコープ越しでしか視認していなかった兵士たちには何が何だかわからなかっただろう。

瞬時にして、いや、ひと踏みで100メートルあまりの距離を詰めた紗季は、一人の完全武装した兵士を右手でつかみあげ、大きく放り投げた。

まるで発泡スチロールを放るような軽さで。

あとはただ、それを繰り返す。

稲妻のごとく駆ける少女の姿をまともに視認できたものはいただろうか。

移動用のジープを、人間の侵入者に対して用意した訳ではなかろう大きな砲身を積んだ車体を、兵士たちを攻撃から守る目的で積み上げたであろう土嚢を。

紗季は軽々と放り投げていく。

砂塵と轟音(紗季の人間離れした脚力で蹴り上げられた地面が弾ける音)の中、最後に攻撃された兵士は、スコープなぞ覗く間も無く必死で射線を少女に合わせようとしたが、トリガーを弾きっぱなしの銃口から発射された銃弾はついに少女に掠ることすらなく、兵士の意識は刈り取られたのだった。


「何だ・・・!あれは!」

モニターを苦々しい顔で睨みつける男。

彼はこの基地の責任者であった。

数多の戦場を駆け、指揮し、勝利へと導いてきた。

色々な局面があった。

特にデルタシティとの泥沼の戦いは思い出したくもない。

しかし、それは確かに男の自信とアイデンティティの源となっていた。

それが今、揺らいでいる。

「ありゃあ、人間じゃありませんね。アドバンスドシティの生体兵器とかじゃないんですかい?」

武装した大柄の男がつぶやく。

彼は現場のリーダーであった。

戦場をさまざまな方面から、ドローンで撮影した映像をいくつものモニターで確認しながら、顎に手を当てて、思案する。

これは男がいつも作戦を考える時の癖だ。

「対抗できるのか?あれに。聞いてはいたが、想像以上だぞ。」

「問題ありませんよ。相乗以上であっても、想定内です。」

責任者の重い追求に、リーダーは軽く笑い、答える。

「蛇には蛇を。こちらも用意がある。」

そう言いながら向けた視線の先には、黒衣の女がいた。

闇から滲み出てきたようなその姿は、どこか不吉なものを感じさせた。

「私らの世界じゃ、ああ言ったのはよく見る。」

女はつぶやく。

「彼女があれか。例の魔女。」

責任者の男の言葉に、

「魔女という言葉は適切じゃない。魔法のような摂理に反した力はおとぎ話。我々は自然の摂理と世界の法則に従い、大いなるものの力を操るもの。魔術師よ。」

女は言葉を発する。

その言葉に魔の力が込められていたかはわからないが、男たちやその場にいたオペレーターたちは寒気を感じた。

「俺はどんな手段を使ってでも依頼された仕事は達成する。そのためには必要な手は惜しまない。それがどんなものであろうとな。」

リーダーは強い意志で言葉を発する。

「頼んだぞ。こんな月並みな言葉を使いたくはないが、この遺跡を死守することが、上からの命令だ。そのためなら蛇の道だって駆けてやる。」

責任者の男も、決意を口にする。

「わかった。あんな怪物ならば、こちらも出し惜しみなしだ。」

世界屈指の魔術師、『災厄のロザイア』はそう言って、その場を後にした。

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