少女闘争 その4 機械仕掛けの感情 終章
「マジでやばかったよな!」
悠人のテンションは、今日も絶好調のようだ。
朝の教室は賑やか。
ホメオスタシスのおかげか、あんな出来事があったのに、教室はいつもどおりだ。
人間とは案外強いものである。
同時多発テロから三日。
対テロ部隊の交渉により、誰一人傷つくことなく、クラスの生徒は解放されたことになっていた。
体育の先生が打撲を負ったが、今ではちょっとした笑い話だ。
「斉藤のやつ、いっつも威張り散らかしてるくせに、雑魚すぎだろー。」
隼人の言葉に、皆、笑う。
「まあ、俺たちを守ろうとしてくれたんだろ。そこは見直したけどよ。」
悠人は一言フォローを添えた。
「私、真里が外に出た時は生きた心地しなかったんだからねっ!全く、あんな時にトイレだなんて・・・。しかもしばらく帰ってこなかったし!」
もう二度としないで、と亜美は真里の肩をゆする。
「ははは、ご、ごめんってば」
平和な日常に戻った。
皆、そう実感していた。
しかし、真里は思い返す。
あの後の出来事を。
「やあ。僕がシンだよ。」
海を見下ろす崖に立つ真里に近づいた軽薄そうな男は、言った。
「ドッグを放ち、全ての人質を解放しました。」
真里は淡々と述べる。
シンはスマートフォンを取り出し、
「ああ、報告は受けているよ。皆、敵は突然脳震盪で昏倒したと聞いているよ。あの分身、ドッグって言うのかい?」
「厳密には分身ではありません。構成因子と物質は酷似していますが、まったくの別物です。」
むずかしくてわからないねー、とシンはひらひらと手を振る。
「それより、例の件です。二人と言いましたね。」
真里は目を細める。
「私も探しました。さまざまな暗部や機密にも潜りました。でも全く見つからなかった。本当にいるんですか?」
シンの口調を分析し、嘘は言っていないことは真里にはわかっていた。
しかし、まだ、半信半疑なのが正直なところだ。
「いるよ。」
シンは短く答える。
「世の中にはいるのさ。まったくの理解を超えた存在が。君もその一人だが。」
シンは軽く笑う。
「何が目的ですか?」
真里が瞳を鋭くする。
「世界平和。」
シンは短く答える。
はぁ、と真里はため息をついた。
「自分の能力に意味があると思ったことがありました。何のための力かと。それを良い方向に生かせるなら、私はこの力を使います。」
真里はもう一度、シンを瞳で突き刺す。
「あなたの言葉に嘘はない。でもすごく変です。荒唐無稽が過ぎる。」
あなたは狂っているか、真実をしゃべっているかのどちらかです、と真里は続けた。
「必要なんだ。君たちみたいな存在が。」
シンは手を差し出した。
「まあ、気負わずに、とりあえず着いて来れる範囲でいいから、手伝ってよ。」