少女闘争 その4 3 機械仕掛けの感情 日常の終端
〈エマージェンシーレベル 6を検知〉
〈対象物を形状分析開始…小型拳銃と確定。有意差、範囲内〉
〈対処シークエンス 36829を起動。物理演算開始
…終了。弾道予測より、致命的なダメージを予測〉
〈対処シークエンスを終了。続いて対応シークエンス 68249を起動。弾道逆反転システムを起動します〉
〈社会的論理起動。状況分析開始。終了まで3.2.1...完了。最適解を不当と判定。周囲への影響が大き過ぎます。〉
〈代替措置として高度構造破壊を起動。リスク高。対象の破壊を開始します。〉
男は拳銃の引き金を引いたが、カチンという乾いた音がしただけで、何も起こらなかった。
男は本来の役割を果たさなかった拳銃を眺める。
「・・・」
真理は乾いた瞳を男へ向けていた。
「おかしいね。弾は発射され、君に当たるはずだったんだが。」
男が困ったような笑みを浮かべる。
「あなたは誰ですか。」
真理が表情を無くした顔で問いかける。
「その顔が本来の君かい?」
「細く説明するにも面倒です。」
簡潔な真理の言葉を聞くと、男は満足そうに笑った。
「にわかには信じがたかったけども、どうやら情報は正しかったみたいだね。」
そう言うと、男は一歩二歩と距離をつめる。
真理の眼前で男が囁く。
「君に伝えることがある。」
真理は訝しげに眉根を寄せる。
「これから一時間後に、大規模な同時多発テロが発生する。君はそれを止めるんだ・・・」
旅行日程は滞りなく消化され、真里たちはバスに乗って帰路についていた。
生徒たちは旅行疲れが来たのか、段々とバスの中は静かになっていく。
途中、サービスエリアに到着すると、各々用を足したり、飲み物を買いに行ったりしていた。
「どうしたの?浮かない顔をして。」
亜美が心配そうに真里に問いかけた。
真里の耳にサービスエリアの喧騒が戻ってくる。
「ごめん、ちょっと考え事してた。」
自販機の前で我に返る。
「もー、普段に増してぼーっとしてるんだから。」
そう言いながら、亜美は自販機にお金を入れ、コーヒーを買う。
「進路悩んでいるって言ってたけど、あんまり思い詰めちゃダメだよ。」
コーヒー好きだったよね?、と言いながら真里に手渡す。
「ありがとう。」
亜美は友達思いのいい友人だ。
真理が大切にしたい日常の一コマ。
だが、そういった日常は一瞬で崩れ去ってしまうことを、真理はよくわかっていた。
2人がバスに戻った直後だった。
パン、っと乾いた破裂音が車内に響く。
生徒が音のした方を見やると、そこにはピエロの仮面をした人物が、片手に拳銃を持って立っていた。
「騒ぐなよ。このバスは俺たちが占拠した。」
もう1人のピエロマスクが車内に入ってきて宣告する。
皆理解できずに固まる。
一瞬の間。
即座に近くに座っていた体育教師が男に飛びかかる。
しかし肘打ちと拳を受け、あっさりと崩れ落ちる。
明らかにプロの動きであった。
体育教師が地面に伏すのを見て、近くの女子生徒が悲鳴をあげる。
それを皮切りに、ようやく現実感が生徒たちに戻ったようだ。
各所で悲鳴があがり、パニックが発生する。
しかし、それも2発の銃弾によって、制圧される。
ピエロマスクは天井に向け放った威嚇射撃の効果に満足すると、話を始める。
「いいか、危害を加えるつもりはない。ただ、邪魔をしようっていうなら、話は別だ。我々は障害物を排除する。容赦なくな。理解ができたなら、三時間ほど、おとなしくしてろ。」