少女闘争 その4 2 機械仕掛けの感情 日常の延長線上
いつからだったのかは覚えていない。
自分が人とは違う、ということに気付いたのは。
明らかに外れていて、他より優れている。
それは感覚的にわかった。
そして構造的に異なるということ。
肉体、精神的な構造が、他と異質で、根元から違っていた。
さらに彼女は最も重要な事に気付いていた。
それは、もしかしたら、他の人に気づかれてはいけないのかもしれない、ということだった。
「真理ってば!」
友人の声に、安藤真理は我に帰る。
しばらく空想の世界にいたようだ。
「もーっ、またぼーっとしてー。」
制服姿友人、亜美と久美子が、しょうがないなぁ、と笑う。
「次のお店に行くよー。」
「ごめん、ごめん。これ、かわいくて、ぼーっと見てた。」
「真理、いつもながら、ズレたセンスしてるわね…」
真理の持つキーホルダーを見て、亜美が引きつった笑みを見せる。
それはなんとも言えない、ご当地キャラクターのキーホルダーであった。
真理的にはストライクなキャラクターなのだが、他にとっては違うらしい。
「真理って変わってるよな。なんつーか、センスがおかしい。」
悠人と隼人が笑う。
ここは古都カーツェシティの有名な観光地にあるお土産屋。
中はたくさんの観光客でとても混んでいる。
「早く行こうぜ。集合時間に間に合わなくなっちまう。」
「ごめん!隼人。」
真理がキーホルダーを棚に戻すと、5人はお土産屋を後にした。
歴史の学習として、遠地へバスで移動し、歴史的建造物を見て回る授業。
転地学習というらしい。
アドバンストシティ第二学園の一学年丸々で、古都へ向かい、生徒達たちでグループを組み、自身が計画した場所を見て回り、後でレポートをまとめる。
真理はいつものメンバーである亜美、久美子、悠人、隼人とグループを組んでいた。
そして今は、自分たちの課題も終え、お土産屋を見ているところだった。
「このカーツェシティは歴史的に名高い建物が多く、、、」
どこかのツアーのバスガイドが説明している。
「意外とたいへんだったな。」
悠人が真理に話しかける。
「そうね。でも楽しかった。」
「学校の課題が楽しいなんて、奇特なやつだよ、おまえは。」
そういう悠人は、口ではそう言っていたが、顔は笑っていた。
「お会計してくるね。」
「真理、結局その変なキーホルダー、買うのか。」
その言葉にぷうっと頬を膨らませる真理。
「悠人にはわからないんだよ。この可愛さが。」
レジで会計をすませると、みんなのところへ戻ろうとした真理を、男が呼び止めた。
「やあ。」
金髪に軽薄そうな笑みを張り付かせた男が、片手をひらひらと振りながら近づいてきた。
白い無地のTシャツに黒の短パン、サンダルを履いた男は、いかにも「夏」といった出立ちで、それがさらに軽薄な印象を強めていた。
「・・・こんにちは」
真理は見覚えのない人物の馴れ馴れしい態度に警戒しながらも、失礼のない程度の挨拶をした。
「君が安藤真理さんだね。写真よりも可愛いじゃないの。」
まるでナンパのような男の言葉に、顔が熱くなるのを感じる。
「なっ、なんですか、誰ですか、あなた急にっ!」
両手をわたわたと振りながら、真理は一歩後ずさる。
面と向かって容姿を褒められるのはやはり恥ずかしい。
「それにおっぱいも大きい。」
「ななななっ・・・!なんとハレンチなっ…!」
さらに胸を両手で隠し、顔を真っ赤にする真理。
「あっはっは!聞いてた通りの性格だね。」
そう言って、男はごく自然な動きでポケットから小さな拳銃を取り出して、真理に向かって引き金をひいた。