それはずるいだろ・・・
ふときづくと俺は教室にいた。目の前には俺の机。それにはチョークやマジックなどで酷く汚れている。椅子を引くとびしょびしょに濡れた汚い雑巾が椅子の上に敷かれていた。それを呆然と見ていると周囲の音が耳に入ってくる。
「釣り合ってねぇんだよ、わかんないの?」
「穂華ちゃん、かわいそう」
「穂華さん、優しいよな。お前なんかに付き合ってくれるなんて」
うるさい。お前らに何がわかるんだよ
「うわ、こっちみてるしやだー」
「鏡みてきなよ、ほんとキモい」
なら俺のこと見るんじゃねぇよ。穂華と付き合うまでは俺のことなんて誰も見てなかったじゃねぇか
「身の程をわきまえろよ、ほんと」
「空気悪くしてんのわかんないの?学校くんなよ」
俺がお前らに何をしたってんだ?頼むから黙っててくれよ
そんな思いが周囲に伝わることもまた、理解されることもなく、悪意のこもった視線、言葉を浴び続ける。そのまま呆然としていると教室のドアが開かれる。俺は気だるげにそちらを見ると穂華が似合わない薄気味の悪い笑みを浮かべていた。
「ほの、か?」
口の中は乾いており、かすれた声が俺の口からでる。すると穂華はその笑みを浮かべたまま言葉を放つ。
「みんなのいう通りね。私に感謝しなさいね、如月君?」
は?なにいってるんだこいつ。
「私があなたのことを本当に好きだとでも思ってるの?あなたの頭はお花畑なのかしら?図々しい」
「え……」
穂華の言葉を聞いた俺は唖然とするしかなかった。聞き間違えとかでは絶対ない。確かにそう聞こえた。
「常識的に考えて、私があなたを好きになるはずないじゃない。」
頭がくらくらしする。吐き気もする。気持ち悪い。
「誰があなたみたいな人と好き好んで付き合うものですか。それによく考えなさい。見た目も中身も、地位も何もかも釣り合ってないじゃない。あら、ごめんなさい。頭の中、お花畑ですもんね。分からなくて当然よね」
穂華がそういうと、それを聞いたクラスメイトからどっと笑いが起こる。
もう、やめてくれ。
パキッ・・・
何かが割れる音がしたと思うと、俺の意識は暗闇の中へと引き込まれていった。
俺は跳ねるように体を起こした。汗のせいで髪や寝巻きで使っているTシャツは体に張り付いていて気持ち悪い。
ちっ、ひさびさにやな夢みたわ
昨日、大学のレポートを夜遅くまでやっており、明日が休日なのもあり昼頃まで寝るつもりだったが、すっかり目が覚めた俺は汗を流すために風呂場に向かう。Tシャツを脱いでいると、玄関の扉が開き穂華が入ってきた。
「ただいまー、って龍くんもう起きてたの?お昼まで寝かしてくれって呻いてたのに」
呻いてたってゾンビか俺は?日光が苦手って言う意味では同じか
きょとんとした顔で訪ねてくる穂華に対して、俺は脱いだTシャツを洗濯機の中に放り込みながら、
「なんか目が覚めたもんでな。んで、穂華はどこ行ってたんだ?」
「んー、家に忘れ物取りに行ってたの」
穂華は髪をいじり目をそらしながらそういった。長年一緒にいると分かるものだ。このしぐさは嘘ついてる時によくみせるものだ。ここ最近、穂華は休みの日に家を出ることが多く、行き先を訪ねるとこのようにはぐらかす。束縛をするのも嫌なのであまり深くは聞かないが、やはり気にはなる。
まさか浮気……いや、よそう。
夢のせいで気分がナイーブになっているので妄想に拍車がかかる。気持ちを切り替えるため、穂華にばれないようすっと深呼吸をしていると、先程とは真逆に穂華が俺のことをじっとみている。心なしか頬も赤い。
「どうした?」
俺がそうたずねると穂華はぷいっと目をそらすと
「いや、えっとその……いい体してるなって」
といい、さらに顔を赤くする。
そういや今、上裸だったわ
インドア派の俺に筋トレする甲斐性もないので太ってはいなくても、お世辞にも良いからだとは言えない。そんな体をまじまじ見られたら俺も当然恥ずかしいわけで顔をそむけ、
「まじで、みんなって」
というと、穂華は楽しそうな声で、
「龍くん、耳まで真っ赤だー、かわい」
俺はとっさに耳を手で隠し、そのまま風呂場に逃げ込んだ。
その顔はずるいだろ……




