放課後①
「湊。何でそんなに不機嫌なの〜」
桜子は湊のほっぺをぐりぐりさせながら、俺のことをからかっている。
「まぁ、色々あってな」
「ああ、わかった。クラスの人が平松さんの話題が中心だから。怒ってるんだ?」
桜子の図星を突く発言に湊の口が動いてしまう。
「まだ治ってないんだね。不機嫌になると、口が動くんだよ」
湊は堪忍したように、桜子の方に目をやる。放課後でクラスの人は、湊と桜子だけだった。
「桜子には勝てそうにないな」
「はい、私には勝てませーん」
桜子は人差し指で、自分の唇を押さえる。少し色ぽい桜子に湊は不覚にも動揺してしまう。
「何か悩み事?」
「悩み事ではなく、平松のこと」
「えっ。本当に平松さんのこと?平松さんは高嶺の花だから....やめておいた方が.....」
桜子は髪の毛をいじりながら、湊の様子を伺いながら話す。
「そういう恋愛の話ではなく、この前の入学式の日の放課後の話」
「あっ、そうだったのね。私てっきり、そういう恋愛の話だと思って」
桜子はもじもじしながら、大きく手を振り誤魔化している。
湊は桜子に恋愛の話をしたことはないが、挙動不審になった時はスルーをしている。
「その入学式の日の放課後、生徒会長に会ったんだ。その時に偶然、平松もいて、平松が生徒会の書記に勧誘されたのさ」
「それは、そうだよね。この学校の魔法学科の生徒も勧誘された話も聞くし。銃学科の首席、平松さんが勧誘されるのはおかしくないよね。......それがどうかしたの?」
「その時にあいつ、平松は生徒会長の九条先輩に私よりも適任者の俺を書記にしてくださいと言ったんだ」
桜子は、苦笑を抑えられずに、笑い出してしまった。
「湊が生徒会?次席の湊が?ないない」
「笑すぎだ」
湊は笑い続ける桜子の頭にチョップをする。
「いったーい。ジョークなのに。それでその後どうなったの?」
「九条生徒会長がやはり、主席の平松になって欲しいから、待っているという話で事なきをえたんだ」
「へー。湊は平松さんに推薦した理由聞いたの?」
桜子は手を伸ばして、あくびをする。
「ああ、それが『あなたの方が優れていると思ったから』だってさ。意味わからんよ」
桜子の方を見ると、顎に手をあてて考え込んでいた。
「うーん。わからないね。それは。その後、喋ってみた?」
「あの後は俺自身が平松に避けられるような感じ」
「まーた。湊が強い口調で何か言ったんでしょ」
桜子の疑いの目を向けられる。
「少し言ったかも・・・」
「女の子なんだから、優しく言わないとダメ」
何も解決はしなかったが、桜子の元気の良さに悩んでいる自分が馬鹿らしくなる。
「この話はもう終わり。湊は部活見て行く?」
魔法高等学校には、基礎体力づくりのために体育系の部活と、学習意欲向上のために文化系の部活がある。
「俺は、シューティング部を見ようかなと思う」
魔法の銃を使った対人射撃を競う部活だ。今年新たに新設されて、銃学科のほとんどの生徒がこの部活に入ったという噂だ。それに対して、魔法学科の生徒の大多数は対人魔法戦闘の「魔法戦闘部」に所属している。
「シューティング部ね。今年、新しくできた部活だし、先輩もいなさそうでいいわね。入部希望なの?武芸部もこの学校あるのに」
魔法高等学校でも武芸部はあり、魔法を使わない対人戦闘の部活はある。
「せっかく、銃学科に入ったのだから、俺としては新しいシューティング部に入部したい」
「お家の方は大丈夫なの?」
桜子が聞くお家のこととは、三井家の伝統的な武芸をいかす武芸部に入らなくていいのかということである。
「家も俺が銃学科に入学することを反対していたからな。もう、愛想を尽かされたし.....自由にやるさ。めぐみが道場を継ぐから問題ないよ」
「めぐちゃん一人で。可哀想だけどふーん。そうなんだ」
桜子とめぐみは昔からの知り合いでめぐみは桜子のことをお姉ちゃんと呼んでいた。桜子は少し微笑む。
「それじゃあ。私も.......」
湊は不味い表情を浮かべた。
「まさか。桜子も入部するのか?」
「何で、私は入部しちゃダメなのかな?」
桜子は湊の顔に限りなく近づいてくる。
「そんなこと思ってないです」
湊はまた、いつものように桜子のいいようにやられてしまっている。新たに湊の気苦労が増えた瞬間であった。
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