入学式②
去っていく会長の後ろ姿を見ていた湊は、平松と二人取り残された。
「お前、首席なのに、なんで俺を推薦したんだ」
目を合わせずに、平松と会話をする。
「あなたの方が優れていると思ったから」
皮肉としか、とらえられない言葉を耳の中でこだました。その瞬間に湊の心は怒りに燃え上がっていた。
「なんだよ。そんな冗談・・・ちっとも笑えねぇよ」
湊は初めて、平松の顔を見た。しかし、湊が思い描いた表情ではなく、平松は頼りなく、悲しげな顔をしていた。
「そう。ごめんなさい」
「おい、まだ、話は終わってねえぞ」
平松は顔を隠しながら、足早に去っていってしまった。
「ただいま」
「湊。お帰り」
「お兄ちゃん、稽古、サボったでしょ」
母さんと妹のめぐみが家にいた。
恵は湊の一歳下の魔法中学校の3年生だ。湊と違って、顔も可愛いし、愛想もいい。基本的にスペックとしてはめぐみの方が上だ。
「ああ、今日は入学式だったから、お休みの日〜」
めぐみは竹刀を持ちながら、ブンブンと怒って、振っている。危ないから、お家では振り回さないでほしい。
「めぐみ、お風呂入っちゃってね。湊、恵がお風呂上がった後に夕食ね」
「「はーい」」
「お兄ちゃん、お風呂、覗かないでね」
「誰が覗くか」
めぐみとのいつもの会話をして、湊は自室に入り、ベットに突っ伏した。
「あー疲れた。それにしても、意味わかんね〜。平松」
首席の平松がなんで、生徒会に俺を推薦したのか。
首席で入学して、生徒会に所属するのが魔法高等学校のエリートコースだ。誰もが、願っても手に入らない名誉と地位が得られる。それなのに、名誉と地位を手放してまで、俺を推薦したのはなんでだろう。
「うぅ〜、頭が痛くなってくる〜」
湊は頭を枕に埋めていた。
「お兄ちゃん。頭、大丈夫ですか?」
唸っている湊をお風呂から上がっためぐみが見ていた。めぐみはピンクの部屋着で、頭をタオルで覆っている。
「ノックもしないで、ドアを開けるなよ」
湊は不機嫌に枕から顔を上げて抗議する。
「だって、この部屋、兄さんと共用ですし。も、もしかして、見られたら、困ることでもやっていたんですか」
めぐみがニタニタと笑いながら、湊を挑発してくる。
「うるせぇ」
「スケープ」
湊は枕を投げたが、めぐみは魔法を唱えて、高速移動する。
枕は後ろにちょうど来た母さんの顔にクリーンヒットし、枕は床に落ちる。
「「あっ」」
「二人とも元気ね?・・・・・・・
あまりにくるのが遅いから、来
てみれば、また兄妹喧嘩なのね」
「母さん、これには訳があって、めぐみがノックもしないで、ドアを開けてね・・・」
湊は母さんの顔を伺いながら、話す。
「お母さん、聞いてよ。お兄ちゃんが、うめき声あげてるから心配して急いで、ドアを開けたら、急に枕を投げてきてさ」
めぐみは、必死に、弁明するがお母さんには届かない。
「今日は二人ともご飯抜きね」
「そんな〜」
「なんで〜」
母さんにドアを閉められた湊とめぐみは肩を落とした。
「もう、お腹すいて寝られないじゃんか。お兄ちゃん!」
「めぐみのせいだろ」
湊とめぐみは兄妹仲良く、二段ベットで寝る。上がめぐみで下が湊だ。
「・・・・・・・・それにしても、学校で何かあったんですか?」
めぐみは妙に察しのいいところがある。思い当たる事といえば、あのうめき声で何か悩んでいると思ったのだろう。
「なんでもねぇよ。めぐみには関係ない・・・」
薄明かりの中、二人の会話だけがこだまする。
「なにそれ、可愛くない。お兄ちゃん」
「可愛げのあるお兄ちゃんなんて、この世にいない。めぐみに対してはかっこいいお兄ちゃんでいたい」
湊は掛け布団を頭にかぶった。
昔からめぐみとは兄妹で色々と話し合ってきたが、高校生になった手前、話しづらくなった。
「なにそれ、キモい。まぁいいです。後から泣きついても知らないですから」
めぐみは常夜灯を消して、眠りについた。
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