C
早見は薄暗い部屋の中でアメリカの魔法工学部隊長のクリストファー・スミスと連絡をとっていた。
「ハハハ、咲、いつになく、乱暴だな?まだ高校生相手にぶっ放したんだって?」
「だってしょうがないじゃない。あまりにも生意気なんだし」
咲はドライヤーをかけながら、クリストファーと談笑する。お風呂上がりの咲は頬を紅潮させて、美人に一層、磨きをかけていた。
クリストファーは魔法工学部隊の同期で彼は傑出した才能と努力により、工学部隊の長となった。
「その生徒、大丈夫だったんだろうな?咲が編み出した、魔法は魔法工学部隊でも、使えるのはお前だけだからな。惜しい人材を日本にやったものだ」
クリストファーは冗談めかしく、咲がアメリカにいた頃のように芝居がかったセリフを口にする。
「ええ、大丈夫よ。加減したのだから。魔法の説明だって、電気魔法と伝えたのだから。本当は電気魔法ではないのに」
「誰もが見たら、電気魔法と思える代物だな。特にまだ学生なら、判断がつかないだろう。ところで、咲?」
咲は頭を梳かしながら、画面越しのクリストファーと向き合う。
お互い勝手知ったる仲だが、嫌な緊張が流れた。
「咲、お前を日本に向かわせた任務を忘れてないだろうな?」
クリストファーが、工学部隊長として真剣な眼差しになる。
「忘れてないわよ。核爆弾についてよね?今更、核武装したくらいで、魔法には勝てないわよ。・・・わざわざ、調べる必要ないんじゃないの?」
咲はコーヒーを口に含ませながら、冷めたような目でクリストファーを見る。
「咲、これは深刻な状況だ。核爆弾と言っても、魔法の核爆弾だ」
「ブッー」
咲は含んだコーヒーを通信用デバイスに盛大にかけてしまった。デバイスがコーヒーだらけで、見るも無残な光景となった。
「おいおい、そんなに驚くか?ハハハ、アメリカのコメディでも見ないぞ」
咲はコーヒーを吹きこぼして、盛大に咳をしている。
「驚くに決まってるじゃない?日本が、よ。平和ボケしてる日本が」
クリストファーは、書類を片手に目を通し、咲と向き合った。
「このレポートによれば、魔法高等学校内でその疑いがありということなんだが....」
クリストファーも眉間に皺を寄せて、困った表情を見せた。
「私も魔法高等学校に先月の3月から赴任したけど、そのような施設、噂なんて聞いたことないわ。私を日本に飛ばしたいがための嫌がらせだわ」
「このレポートによれば、本作戦を【C】と名付けて、長期任務とするそうだ。また帰るのが半年長くなったな」
クリストファーは輝く白い歯をグッドポーズをとる。咲は当初、夏に日本での任務が解除されてアメリカに帰国できる目論見であった。
「このレポートに書かれている内容は正直、俺も眉唾物としか思えない。だが、咲にとってはチャンスだ。少し、お前は人間関係でうまく対処する術を学べ。そうしたら、咲にも正当な評価がされるはずだ」
クリストファーは友人のよしみで、咲の未来を案じている。魔法工学部隊での咲はそれなりの実績を上げてきたが、上層部との人間関係での衝突が多かった。それがもとで、上層部に反抗的な態度と見られたため、今回の日本行きを命じられたと考えていた。それが原因で出世の道が閉ざされていた。今まで、クリストファーは咲のことに対して、口にしたことはなかった。
「クリスもお説教なのね」
咲はいつのまにか持ってきたペンギンのぬいぐるみに顔を埋めながら、寂しそうにいう。
「もちろん、オリビアも咲のことを心配してたさ。いつも、オリビアは咲を叱っていたが、それも君のためだ。今回の咲に対する処分もオリビアが掛け合ってくれたという話だ」
咲は親友であるオリビアのことを思い出す。オリビアは、魔法工学部隊の上部組織であるアメリカ国防総省で勤務している。咲やクリスと同期で一番の出世した女性だ。
「それを聞くと耳が痛いわ。長期に伸びたのもオリビアが関わっていたのかしらね」
かねてから、咲の処分はオリビアが動いていたことで事なきを得ていた。今回の一件もオリビアが関わっているかもしれなかった。
「それはわからないが、咲がアメリカに帰れないという話ではない」
咲は恨めしそうにオリビアを思い浮かべる。親友として、良きライバルとして見ていたオリビア。そのオリビアのおかげで工学部隊で首の皮一枚繋がってると思うと釈然としないが.....
「オリビア......う、うっーうっー」
咲がペンギンに顔を埋めて、悶々としている間に、クリスは腕時計を見る。
「それでは、早川咲隊員、今回の連絡はこれで終わりだ。C作戦を遂行してくれ」
クリスは、きちんと敬礼をする。
「しょうがないわね。やるわよ。仕事なんだから」
咲は、ペンギンぬいぐるみを床に置き、きちんと敬礼を返すのであった。




