会長vs首席②
平松のデバイスが炎を纏った刀になると、平松の眼が赤色に燃えているように見えた。
「紅焔」
あたり一面が異様な炎に埋め尽くされる。
「出てきたわね」
九条は待ち望んでいたように、話した。
「小和は実戦経験がまだまだ。俺がお前の相手をしてやる」
平松小和に変わって、陽炎が出てきたのであった。
「ずいぶん、過保護ね」
「俺が江戸時代で死んでから、初めての女の継承者だ。子孫でもあり、娘みたいなもんだ。過保護になるのは当然だろう?」
陽炎は九条を挑むように睨みつけながら、刀を中段に構える。
「娘みたいな存在に、随分、酷い運命を背負わせるのね?」
九条も、中断に構えながら、陽炎の動きを注視する。
「お前らを殺した後は、元の家業に戻る。そして、この家業は連綿と続く。それが、俺の存在理由だ」
湊がかろうじて抑えた陽炎は継承者を得たことにより、魔法力が溢れ出すように高まっている。
「死灰復燃」
陽炎の周りに水が蒸発したように見えた。
「これで湊の一水四見も完全に無くなったな」
陽炎は湊の方を向き、嬉々と笑う。陽炎の完全復活とともに、炎の勢いが増した。
「気焔万丈」
炎の中、その炎を刀のデバイスに吸収し、刀の柄が溶解しそうな程の温度となる。九条に一太刀を浴びせる。九条も太刀を受ける。すると、九条の魔法の刀身が焼けるように真っ二つに折れてしまう。陽炎は強烈な一太刀を九条に浴びせた。
「刀身が焼き切れるほどの炎なんてね」
傷口を治癒魔法で抑えながら、九条は話す。深々と斬られたのに立っていられるのも不思議な状態であった。
「九条も大したやつだ。全開の攻撃を受けても立ってられるなんてな。でも、次で終わらせよう」
「九条会長、俺が、やります」
湊が駆け寄ろうとするが、佐伯に止められてしまった。
「やめろ、三井。会長は覚悟のうえに、あそこに立っているんだ。その覚悟を無駄にするな」
「会長・・・」
「光焔万丈」
焔の色が変化して、白色となり、光のように輝きながら九条に太刀を浴びせる。
「私も本気を出すわ」
九条は新たに空中から刀を取り出し、今度は陽炎の刀を受け止めた。
その刀はデバイスと違い、刀身が綺麗に輝き、椀形鍔で柄は鮫の鱗のように白かった。
「そういえば、お前は九条家の者だったな」
「そうよ。それが?」
九条と陽炎の鍔迫り合いは両者一歩引かない。
「お前の家も古い。平松家が陰の家としたら、九条家は陽の家だ。お前の父から聞いていると思うが、お前の一族とは因縁の相手だ」
「因縁だか、どうか、知らないけど。あなた自身を殺すために、私たちも過去数百年に渡り、殺し合いをしてきたのは確かだわ。でもそれも今日で終わりにする」
「それはどうかな」
鍔迫り合いは陽炎が九条を押す形で終わるが、九条が刀を上段に構える。
「迅雷風烈」
九条は風を伴う雷で、陽炎は壁際まで飛ばされてしまう。刀身は輝きを増していた。
陽炎は起き上がりながら、
「その忌々しい刀。我ら一族がどれほど、技で刀を光らせても、その刀の輝きには及ばなかった。この通り、時代の流れによって、平松家の刀は刀身さえも無くなった。だが、九条家には輝くような刀がある。それが、陽と影の違いだ。九条家の仕事も日の目を浴びる役目、我らのような平松家は人斬りであるため、日陰のお役目になるのだ」
陽炎は、九条の握る刀を恨めしそうに睨みつけている。どれほど願っていても届かない羨望のような眼差しでもあった。
「陽炎、あなたは決して本物ではなく、あなたは偽りよ。偽りが私たち九条家を真似ても、本当の意味での陽や刀身の輝きがわかるはずないじゃない」
「若造が。お前に何がわかる?」
陽炎の600年以上の恨みが、白く輝く刀により勢いを持たせた。
「白焔烈火」
陽炎の前に太陽があらわれたように見えた。
その太陽を白く輝く刀剣で斬る。太陽が二つに割れたことにより、大きな衝撃波と音を放ち、九条に斬撃を浴びせようとする。
陽炎は光を追い求めた先に、太陽にその強さの根源を見出したのだ。
「私も終わりにしてあげるわ。」
「一切皆空」
九条と陽炎はお互いに太刀を浴びせた。
・・・九条の刀のつかの先には刀身はもうなかった。
「まさか、霊体だけを斬るとは・・・」
陽炎の霊体は、真一文字に斬られていた。霊体はこの世ならざるものであり、魔法が進歩したこの世界でも未だに解明されていない部分が多いものであった。
「お前、刀身はどうした?」
陽炎は最後の力を振りぼって、話す。
「刀身は霊体を斬るためになくなってしまったわ。もう、必要ないもの。あなたが羨望してきた刀はもう柄だけで彼方自身と同じだわ。そして、この技はあなたを倒すために編みだした奥義。もう、この刀もいずれ、あなたの消滅と一緒になくなるわ。これでお互いの家のことも終わるということね」
九条が話している間、陽炎の霊体はほとんどが無くなり、平松家の刀のデバイスと九条家の刀の柄は終焉を迎えたもののように朽ちていく。
「刀と家の仕事は同じだと思っています。刀という武器は相手を傷つけます。平松家の刀身が時代と共に朽ちたのも、相手を傷つけたくないからという優しさだとも思うわ。斬っていた者がたとえ極悪非道な者であってもです」
陽炎は無言で九条の話を聞いていた。
「陽炎、あなた自身も本当は傷つけたくなかったのではないにですか?」
「それは・・・」
陽炎は言葉を口に出そうとするが、本心は600年の昔に置いてきてしまった。自分のせいで家業を人斬りにしてしまったこと、本当は後悔しているなど、死んでいった子孫には口が裂けても言えなかった。
「あなた方の平松家が背負ってきた役目は、九条家当主、九条藍子が解きます。たとえ、人々から望まれる役目であっても、人を斬ることは、自分自身の身を斬ることと同じことですから」
そうに悲しげに陽炎に語りかける九条家当主、九条藍子は誰よりも強く、優しかった。
「ありがとう」
涙声の言葉がかすかに聞こえた。九条が見つめる先には、星砂のように消えていく陽炎という陽炎という刀が消えていき、九条自身の刀も形もなく、消えていった。
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「私は?」
平松はベットから起き上がった。すると、九条が思いっきり抱きついてきた。
「えっ」
わんわんと泣く九条の行動に戸惑ってしまう平松がいた。
「いったい、これは?」
平松はことの経緯を陽炎に意識を乗っ取られる前までしか覚えていない。
「ごめんなさい、ひどいことを言って、ごめんなさい。陽炎を表に出すためにはあなたの平常心をなくさせて、ああにするしかなかったの。陽炎をやっと倒せたのこれで、私たちの家の争いは終わりなの。でも、本当にあなたを傷つけたわ。ごめんなさい」
九条は泣きながら平松に謝る。二人だけで話すため、湊や桜子、佐伯はおらず、この医務室には平松と九条しかいない。
戦いの間の時までは、苦情に対して憎しみしか持っていなかった。だが九条を見ていて、平松は少しだけわかったことがあった。
「九条会長の優しさについて、少しわかった気がします」
涙で赤くなった九条は平松の顔を見る。
「許じてぐれるの?」
「そんなことより、会長、綺麗な顔が台無しですよ」
平松は少し涙を頬に垂らしながら、会長の涙を手で拭き取る。お父さんはどうにしても帰ってこないが、九条からの優しさを貰った。これから先、平松は生きていけると少しだけ思えた。
「生徒会の書記をやってほしいという話ですが、引き受けます。ぜひ、やらせてください」
「いいの?」
涙ぐんだ顔の九条は子供のように微笑む。
「はい、よろしく、お願いしますね。会長」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
新しい平松家と九条家の関係が新たにスタートしたのであった。
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