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いまどきのマーメイド  作者: 万実
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入江で練習

潮風がそよそよと吹く入り江に着いた私たちは、早速演奏の練習に入ることにした。


「マリン、何曲か歌を唄ってくれる?」

「私の好きな歌でいいの?」

「そうだよ」

「わかったわ。じゃあ始めるね」


私は歌を唄い始めた。

まず最初は『エターナルオーシャン』。大海原と、海底の生き物たちの壮大な歌だ。


「お!カッコいい歌だね。ところで歌詞はマリンの国の言葉なの?」

「そうよ。((人魚の言葉よ。))」

「ふーん。そうか。じゃあ次行ってみよう」


次は『セレナーデ』。恋人たちの歌で、しっとりと少し悲しく唄う。

大人の歌。


「うーん。君にはまだ少し早い歌だね」

「そう?じゃあ違う歌にしましょう」


次は『イルカたちの踊り』。とにかく楽しい、一緒に踊りたくなる歌だ。


「勝手に体か踊りだしそうだね。これはいいね。あっ、マリン見て!イルカたちが集まって来てる」


入り江にはイルカたちが集まり、ジャンプして一緒に踊っていたようだ。

わーい。

『みんな、ありがとう』

手を大きく降ると『キュイキュイ』と返事が来た。


「マリンはイルカと話せるみたいだね。いいなぁ」

「な、なんとなくよ」

(うゎ!まずい。私が人魚ってばれてないよね···。)


そして次は『光と海のアリア』。光と海の神に捧げる愛と恵みと感謝の歌。


「·····これはフルートが入らないほうがいいね。マリン。この歌はア·カペラで唄って」

「うん、わかったわ。ねぇ、リュカ。私、リュカのソロの演奏を入れたらいいなと思うんだけど、どうかな?」


リュカは嬉しそうに微笑んだ。


「いいの?よし。じゃあお言葉に甘えて一曲!」


そう言って奏でたのは、それはそれは美しい天上の調べのようで。


「リュカ!とても良かった。美しい曲ね。感動して涙がでてくるの」

「本当?よかった。マリンに喜んでもらえて嬉しいよ」

「なんていう曲なの?」

「この曲は『夢の彼方へ』というんだ」

「曲名も素敵。これで四曲は決まりね。後の一曲は『愛の歌』でいいよね」

「僕も最後に『愛の歌』を持ってこようと思ってたんだ。決まりだね」


なんとか五曲が決まったので、まだ二人で合わせていない『エターナルオーシャン』と『イルカたちの踊り』の練習をする事にした。


私の歌にリュカはすぐに合わせてくれる。アレンジも上手だ。

本当に凄いね。

プロの演奏家だね。


イルカたちも大喜びで、さっきからジャンプしたり、演奏に合わせて『キュイキュイ』歌っている。

みんなで演奏するのって楽しいね!


練習だけど楽しくてあっという間に時間が過ぎたようだ。太陽が海に沈み始めている。


「おっと、もうそんな時間?」

「うん。お腹が空いてきたね」

「そうだね。そろそろ帰ろうか」

「うん。続きはまた明日」

「だいぶいい感じだから、明日は調整する位でいいかもね」

「そうね」


イルカたちにサヨナラをしてホテルへ向かった。夕方の時間は少し涼しい潮風が吹く。石畳に自分の長い影が落ちる。影を踏もうとするけど、出来ないの。ふふ。


ホテルへ着いた。この時間は泊まり客の手続きが多いのか混み合っていた。食堂のホールに来ると、私たちは席に案内された。既に席は用意されていて、どんどん料理が運ばれて来る。

テーブルの上は料理で一杯だ。


「わぁ!これは何かな?」

「これはトマトのシチューだよ。沢山の野菜とお肉をじっくり煮込んであるから美味しいよ。ここの名物だ」

「へー美味しそう。いただきます」


リュカの食べるのを真似して、スプーンで一口食べてみる。

野菜とお肉は柔らかくてトロトロで、スープは野菜とお肉の旨味でとても甘いの。


「美味しいねー」


ニコニコしていたら、リュカもつられて笑って言った。


「ホントにマリンは何をするにも楽しそうで、こっちも楽しくなるよ」

「せっかくここに来たんだから楽しまないとね」

「あはは。そうだね」


それから、白いパンや子羊のソテー、貝のグラタン、彩りの綺麗なサラダなど沢山食べてお腹いっぱい。


そこへ支配人のバーレンさんがやって来た。


「どうだ?旨かったか?」

「相変わらず美味しかったですよ。ご馳走様でした」

「そうか。そりゃあ良かった。明日のステージの件なんだがな、明日の昼食後に打ち合わせしたいんだわ。少し時間をもらっても大丈夫か?」

「打ち合わせですね。お昼の後で大丈夫ですよ」

「そうか。明日の昼食後によろしくな。ああ後は衣装もこっちで用意しとくから楽しみにしとけよ」

「衣装も!···よろしくお願いします」


バーレンさんはにぃっと笑って丁寧に礼をして戻っていった。

そろそろ私たちも部屋へ戻ることにする。


「ねぇリュカ。明日の予定はどうするの?」

「あ、そうだね。相談しておこう。じゃあ、僕の部屋でいいかな?」

「うん」


リュカの部屋に入って椅子に座る。


「マリン、座って待っててくれる?」

「うん」


しばらくすると、リュカは何やらテーブルに広げた。それと一緒に温かいお茶を淹れてくれた。


「お腹はいっぱいでも、甘いものは別腹っていうからね?」

「?」

「木の実が入ったクッキーだよ。今日、お店で買ったんだ。よかったら食べて」

「わぁ。可愛いね。いい匂い。いただきます」


パリポリと頬張る。

口のなかに木の実が弾け、とても甘くて、これは何!?クッキーって言うの?


「ん~~~。美味しい」

「はは。いいね。たくさんで食べて」

「むぐむぐ···。うん」

「じゃあ食べながら聞いて。明日は朝食を食べた後に海の入り江で練習をしよう。さっきも言ったけど、少し調整する位で大丈夫だと思うんだ。後は、クレアさんの所へ様子を見に行ってみる?」

「うん。クレアさんが戻ってるかも知れないから、一応確認しに行きたいな」

「わかった。その後はお昼と打ち合わせが入る。打ち合わせ時間が読めないから午後は開けておこうか。時間があれば街を散策してもいいしね」

「·····うん」

「マリン?どうしたの」

「ん?ああ。今日は色々あって、初めてのことも多くて、ちょっと疲れてしまったの」

「ごめん。気が付かなくて!もう休もう。お風呂はわかる?」

「実はよく分からなくて」

「マリンの部屋に行こう。お湯を張りながら説明するから」


私の部屋に移動してリュカは色々と教えてくれた。私は疲れと眠気でぼおっとしながらお風呂に入った。

お湯は気持ちがいいよ。疲れが取れる。

今日買った寝間着に着替え髪の毛をタオルで拭きながら出てくると、リュカは心配そうに「頭はしっかり乾かして寝て」だとか「大丈夫?」「歯を磨いて」と言っていた。

んー、心配性のお兄ちゃんみたいだな。


「リュカ、もう大丈夫。今日は色々ありがとう。明日もよろしくね」

「そう?ゆっくり休んで。明日の朝は迎えに来るから」

「ありがとう。お休みなさい」

「お休み」


リュカは自分の部屋に戻っていった。


今日は初めて地上にやって来て、色々あったなぁ。

クレアさんとは会えなくてどうなることかと思ったけれど、リュカと出逢えた。

寝泊まりするところもあるし、ご飯も美味しかった。

リュカと一緒に演奏ができてとても幸せで楽しかった。

少し不安もあったけど、人間はいい人ばかりだと思う。リュカはとても親切で優しいもの。

明日の演奏会も楽しみ。

頑張るからね。お兄ちゃん。

そんな事を思いつつ、初めてのふかふかのベッドの中で、気持ちよく眠りについた。

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