ステージの依頼
「こんなに!?うーん····」
「どうしたの?何かおかしいの?」
「いや···。予想よりだいぶ多いから驚いた。六万クランはある」
「そうなんだ」
そう言って詳しく説明してもらった。
銅貨が十クラン
小銀貨が百クラン
銀貨が千クラン
小金貨が五千クラン
金貨が一万クラン
白金貨が十万クラン
なのだそうだ。
見ると金貨が二枚と小金貨が三枚もある。
あとは銀貨が二十枚と小銀貨が五十四枚。
一体これで何が買えるのか?
その辺も教えて欲しい。
「ねぇ、リュカ。このお金は半分づつにしようよ」
「マリン、僕ももらったからそれは君がとっておいて」
そう言ってポケットからお金を取り出す。
「じゃあ、遠慮なく貰うね。私、泊まるところを見つけたいんだけど、これで泊まれるの?後、服とか生活に必要な物も買いたいの」
「そうだね。ここの宿泊費は一泊二食付で三千クランだから取り敢えず七泊分くらいは押さえておいて、後は洋服と日用品を買ってもお釣りが来るよ」
「本当?良かった」
「じゃあ早速、ここの宿泊の手続きを済ませてしまおうか」
「うん」
私たちはホテルの受付へ向かった。
「こんにちは」
声をかけると、受付のお姉さんが感嘆の声をあげる。
「あら、あなたはさっきの歌の子ね!あなたの歌って最高よ。凄く良かったわ。何か心が洗われる感じだったのよ!是非また聞きたいわね。ええと、ちょっと待っててくれるかしら」
そう言って奥の事務室に駆け込んだ。
中から三十代後半位の男性が受付のお姉さんと共に現れた。彼は栗毛で藍色の目でがっしりとした体格の男性だ。
「私はホテル青い月の支配人をしておりますバーレンと申します。先程のあなた様とリュカ様の演奏、大変好評でして、次のステージはいつか?との問い合わせが殺到しております。それでご相談なのですが、明日、夜のステージに出演して頂けないでしょうか?」
わあ!またリュカと一緒に演奏できるの?凄く嬉しい。
目を輝かせてリュカをみると「わかった」といって頷いた。
「バーレンさん。いつまで遊んでるんですか?いつもの口調でいいですから」
「おっ!そうか?ほら、俺も支配人だからさ。たまには真面目にやらんとな」
支配人のバーレンさんとリュカは知り合いみたい。
口調も急に砕けた感じになって面白い人だな。
「それで、ステージの依頼って真面目に言ってます?」
「ああ。大真面目よ!おいリュカ。この逸材、どこで見つけてきた?さっきのステージは凄かったぞ。なんだあれは?」
「いやぁ、なんだと言われても。この子はマリンです。実はさっきのステージで初めて一緒に演奏したのもので」
「はあ?まじか!初めてであれか?すげえな」
「はあ、まあ」
「そうか。ステージで五曲頼もうと思っていたんだが···。お嬢ちゃん。マリンちゃんだったか?」
「はい。何でょう?」
「五曲持ち歌はあるかい?」
「大丈夫ですよ」
「おおそうか!おいリュカ。お前、一回歌聞いたら覚えて演奏できるよな」
「できますけど」
「じゃあ決まりだな。明日、ステージを頼むわ。何しろあの集客力だろ。楽しみだな!」
「ちょっと相談してきます」
リュカは私の手をとりバーレンさんから少し離れた。
「マリン。勝手に話が進んでしまったけれど、ステージの話大丈夫?」
「もちろん!私はリュカと一緒に演奏したいから、とても楽しみよ」
「今日、明日で合わせて練習出来ればなんとかなるかな」
「リュカは大丈夫なの?さっきも即興みたいだったけど?」
「ああ、それは問題ないよ」
「そうなの?凄いわね」
「じゃあ、報酬が問題ないようなら受けるけどいい?」
「うん。お願い」
「わかった」
バーレンさんの所に戻り、交渉を再開する。
「夜のステージは八時からスタートな」
「では、報酬の方はどのようになりますか?」
「そうだな。一日で一人三万クラン。プラス出演日までの宿泊費用と食事の提供でどうだ!」
「それは凄いですね。では、明日の出演依頼をお受けします」
「ようし!頼んだぞ」
なんと、いきなり凄い事になってない?
一番嬉しいのはリュカとまた演奏できる事だけど。楽しくなりそうでとてもワクワクする。
私は依頼の報酬でホテルに泊まれる事になり、早速部屋に案内してもらった。
七泊予定だったので、あと追加の五泊分もお願いした。
ちょうどリュカの隣の部屋が空いていたので、そこに決まった。
部屋はリュカの部屋と間取りは一緒だけど、部屋の備品類が薄いピンクの色彩で可愛らしい。
リュカの所はブルーだったっけ。
鍵をもらい、部屋の中の備品や使い方などの説明を受ける。
お風呂がある。これは楽しみ!
「マリン。時間が惜しいからこれからすぐに買い物に行くよ。洋服と日用品を見に行こう!買うのは最低限必要な物だけにするからね」
「そうね。行こう」
私は肩掛けバッグをかけてリュカと共にホテルを出た。
ホテル青い月からさほど離れていない所に洋服のお店はあった。
青い屋根に白壁で海に映える建物だ。
店内に入ると緑色の髪でそばかす顔の店員さんが近寄ってきた。
「いらっしゃい。何かお探しですか?」
「この子の普段着と下着、ソックス、寝間着それぞれ三着分。靴を一足欲しいんだけど、いいのを見繕ってくれる?」
「可愛い子ね。いいわよ。何着か持ってくるから試着して選んでちょうだい」
店員さんは店内にある服を何点か集めて持ってきてくれた。
試着室で着てみる。
私が気に入ったのは、薄い黄緑色のワンピースで、ウエストをバックのリボンで締めるようになっていて可愛いの。
次に白いレース付きのブラウスにベビーピンクのショート丈のキュロットスカート。
あと、丈が長めの水色のワンピース。
試着室からでて、黄緑色のワンピース姿を見てもらおう。
「どうかな?」
「あらぁ、可愛いわね!」
「とても似合うよ」
そう言うリュカの顔は少し赤くてどうしたのかな?
「本当?」
「ああ」
「じゃあ、これにします」
よし、決まった。
靴は焦げ茶色のローファー。
寝間着は青色でダブルガーゼのふんわりしたワンピース。色違いで薄いピンクとグリーン。
下着と靴下は良くわからないから、全部店員さんに選んでもらった。
「じゃあこれで決まりでいいかしら?」
「はい。いいです」
「お買い上げありがとうございます。たくさん買って頂いたからプレゼントよ」
そう言って渡されたのは、白いレースのリボン。
「あなたの髪に飾ってみて。きっと似合うわよ」
「わぁ!ありがとうございます」
代金は一万八千クランだった。
お会計を済ませて洋服店から出た。
可愛い物をたくさん買えたので大満足なんだけど、大荷物なんだよね。頑張って持とうとした所でリュカが軽々と持ってくれた。
「リュカ、ありがとう」
「どういたしまして。さあ、次は日用品を買いに行くよ」
日用品を扱っている雑貨のお店もまた、近いところにあった。移動距離が短いと助かるね。
お店は薄い黄色の漆喰で、間口が広い造りだ。
お店に入ってキョロキョロしてしまう。色々な商品が並んでいて面白い!
これは何に使うのかな?
柄のついた丸くて平たい物は少し重い。
何々?フライパン。首をかしげていると、「これはお料理の時に使う道具だから今日は買わないよ」と言われた。ふーん、そうなんだ。私はフライパンをそっと元のところへ戻した。
「マリン。必要なのは、ハンカチ、タオル、シャンプーと石鹸。歯磨き。ブラシ位かな?あ、あと財布か」
「うん」
「石鹸はお風呂用と洗濯用を買おう」
リュカがささっとかごに商品を入れていく。
地上のお店ってとても面白い。
何に使うのかわからない物が沢山あったけど、面白いからまた来たいな。
リュカも欲しいものが見つかったみたいで別に買い物をしている。何を買ったのかな?
お会計を済ませて外にでる。千クラン位ですんだみたい。
「じゃあ、荷物を一旦ホテルに置いてから演奏の練習に行くよ」
「リュカ?練習はどこでするの?」
「そうだな。僕らが初めて会った海の入り江はどうかな?あそこはあんまり人もいないし」
「そうね。そこにしましょう!またイルカたちに会えるといいな」
私たちはホテルに寄って荷物を置き、イアルマの入り江へと向かった。