表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いまどきのマーメイド  作者: 万実
2/55

歌とフルート

リュカの案内で歩きはじめる。

一歩、二歩。

歩くってこうするのか。

何をするにも新鮮で面白い。

ワクワクしたのが顔に出ていたのかリュカはにこやかにしている。

入り江から出て、大きな街道にはいる。家の数が多くなって来た。

初めて見る地上の街並みと石畳。

素敵。少しは地上のことを学んではきたけど実際に見るのは全然違う。

私はキョロキョロと見回した。

わ~!凄く大きな街。

屋台もたくさん軒を並べている。

いい匂いが鼻をくすぐる。


「マリン。お腹すかない?」


もうお日様は真ん中を過ぎたからお昼は回っているはず。


「うん。お腹すいたね」

「ちょっと待ってて」


そう言うと、リュカは近くの屋台に寄って何やら抱えて戻ってきた。


「はい。クロワッサンのサンドイッチだよ」

「わぁ、ありがとう。貰ってもいいの?」

「もちろん」


二人でサンドイッチを頬張った。

初めての人間の食べ物!


「美味しい!」

「そお?」

「これ、何が挟んであるの?」

「えーと。卵とトマト、レタスにかりかりベーコンかな」

「そうなんだ。ここの食べ物って美味しいのね!」

「喜んで貰えて嬉しいよ。これも飲んで」


渡されたのはなんだろう?

首を傾げていると「オレンジジュースだよ」と、答えてくれた。

一口飲んだら、甘味と酸味で後を引く。

これ、好きだな。

こくこくと飲んだ。

リュカはじっとこちらを見ながら呟いた。


「マリンは美味しそうに食べるよね」

「ホントに美味しいよ。全部初めて食べるものだから」


リュカは目を丸くしている。

ん?私変なこと言ったかな?

まあ、いいか。

ランチも美味しくいただいたし、さあ出発。


「随分楽しそうだね」

「初めてのことばかりで面白いの。ここに来て良かった」

「そうか。あっ、そろそろ目的地が見えてきたよ」


小さな家が何軒か並んでいるうちのひとつの家の前に来た。

小さな白い家の木製のドアの横には呼び鈴が付いていて鳴らしてみる。

しばらく待ったが何の返事もない。


「リュカ、ここであってるんだよね?」

「ここのはずだよ。メモと同じ住所だよ」


その後、何度呼び鈴を鳴らしても誰も姿を現さなかった。


「どうしよう···」

「マリン、隣近所に聞いてみないか?」

「そうだね」

「あんたたち。その家は留守だよ」


恰幅の良いおばさんが隣の家から出て来てくれた。


「何かトラブルがあったみたいでね。一週間前位から帰ってないようだよ」

「クレアさんがどこにいるか分かりませんか?」

「さあねぇ。私もそんなに親しい訳ではなかったからねぇ。でも、あの娘は綺麗だから変なのに引っ掛かってなけりゃ良いけど」

「そうですか。ありがとうございました」


お礼は言ったものの、どうしたらいいの?

当てにしていたクレアさんもいない、家にも入れない。困った事になった。

この地上でどうやって暮らしていけばいいのか?私は今、何も持っていないし····。

そんな事を考えたら悲しくなってきた。


「マリン、おいで」


困り果てている私にリュカは左手を差し出した。

私はおずおずとリュカの手を取った。

落ち込む私を気遣うように、リュカはゆっくりと歩む。手の温もりが伝わってくる。

しばらく歩いてとある建物に入った。

大きな木造の建物で看板が出ている。ここはホテル?大勢の人が出入りしている。

ホテルの中には食堂があってその奥のテーブルに案内された。

リュカは何か注文してくれている。

温かい飲み物が運ばれてきた。


「マリン、紅茶を飲んで。温まるよ」

「···ありがとう」


温かい飲み物を飲むと、ほっとする。

とてもいい香りで気分が少し回復した。


「リュカ。どうして見ず知らずの私にこんなに良くしてくれるの?」

「マリンの歌。あれを聞いたら感動してしまったんだ。それに、困っているマリンを放っておけないから、かな。ところでマリンは行くところがないんじゃない?」

「クレアさんを訪ねることになっていたから、他に当てはないの。今日泊まるところもないし、持ち合わせも荷物もほとんどないの。あっ、でも換金できそうな物があるからお金はなんとかなるかも」

「そっか。じゃあ乗りかかった舟ってことで、付き合うよ」

「リュカ。ありがとう。お昼もだけど、ここの支払いも後でさせて」

「それは気にしないで」

「え、でも····」

「うーん、なら、また歌ってくれる?お代はそれとチャラでどう?」

「そんな事でいいならいつでもいいよ」


リュカはぱあっと微笑むと「ちょっと待ってて」と言い、立ち上がって食堂の奥に行った。

程なくして戻って来た彼の手には銀色のフルートが握られていた。


「マリン。ここを使わせて貰えることになったから、これから歌ってくれる?」

「ここで?うん。わかったわ」

「曲は、うーん、そうだな。マリンが歌ってくれた『愛の歌』。あれでいい?こんどは僕も演奏に参加させて!」


そう言ってリュカはフルートを見せた。


「リュカ、もしかして楽器の演奏ができるの?わぁ!楽しみ」

「あそこにステージがあるんだ。あそこで演奏しよう!」

「うん」


私たちはステージに移動し位置についた。

夢だった地上の楽器をリュカが持っているのも驚きだし、一緒に演奏できるなんて!!


「じゃあ、マリン。歌い始めたら合わせる」

「わかったわ!」


私は愛の歌を歌い始めた。

私の歌声に合わせて、リュカのフルートも奏でられていく。

リュカのフルートの音色はとても美しく、私の心に鳴り響いてくる。

地上に来て初めて聞く楽器の音。私の心がフワッと暖かくなる。

歌声とフルートの音色はハーモニーになって広い食堂のホール一杯に広がっていく。

空間に響き渡り、虹色にキラキラと輝いているよう。

今は午後の空いている時間帯で人もまばらだったが、演奏が聞こえたのかどんどん人が増えてくる。

楽器と合わせて歌うのは初めてだ。それはとても心地好く、楽しく、ワクワクする時間だ。

まもなく曲が終わる。このまま歌い続けたい。

リュカのメロディーで演奏が終わった。

私たちは頬を上気させて目を合わせて微笑んだ。


「ワーーーー!!」

「良かったよー」

「ブラーボー」


大きな歓声と拍手が巻き起こった。気がつくと食堂一杯に人だかりができており、大変驚いた。


私たちは礼をしてステージを降りた。

自分のテーブルに行きつく間、何人もの人からお金を貰った。

リュカにいいのかな?と目配せしたけど微笑んで頷いたので受けとる事にした。

あまりにたくさんで持ちきれずにいると、お客さんの一人が「これ使って!」とハンカチを渡してくれた。

ありがたく、ハンカチにお金を入れさせてもらう。

やっと席にたどり着いた。


「リュカ、凄く楽しかった!楽器と歌声を合わせるのっていいね。また演奏しようよ」

「本当に凄かった!こんなにワクワクする演奏は初めてだ。僕もぜひマリンと一緒に演奏したいよ」

「ねぇ、リュカは何をしている人なの?私、あなたのこと、全然しらないのだけど、その、私の相手をしてくれて大丈夫なのかなって思って。忙しくはないの?」

「うん。今は夏の休暇中で時間はまだあるから心配しないで。僕は、フルートを吹いたり、たまに冒険したり、今はやりたい事をさせてもらってるんだ」

「冒険?楽しいの?」

「面白いけど、大変な事が多いよね。魔物と戦ったりするし」

「へぇ。知らない世界ね」


魔物っていうと、お兄ちゃんは王様の護衛で戦ったりしてたな。

確か強かったはず。

リュカも強いのかな?一人で冒険するなんて凄いな。


「ところで、今貰ったお金、かなりな金額になりそうだね」

「見てもらっていいかな?外国のお金はわからないの。数え方を教えてもらえる?」

「ああ、いいよ。でもここじゃ人目があるから一旦場所を変えようか?」

「どこに?」

「僕の部屋でどう?」


リュカは上を指差した。

なるほど、ここに宿泊してるのね。

頷いて私たちは支払いを済ませ席をたった。

リュカの借りている部屋はこのホテルの二階にあった。

リュカの部屋に入ると、ベッドとテーブルに椅子が二脚、タンスがある。こじんまりしているけれど、すっきりとした気持ちのいい部屋だ。


「さあ、椅子にかけて」


リュカは貰ったお金をテーブルに広げると種類毎に仕分けていき、数え始めた。

 

「えっ!!」


リュカが驚いている。どうしたのかな?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ