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森へ

「じゃじゃーん。似合う?」


ムリ言って加工屋に超特急で作らせたマリナの装備。


シルバーベアの皮を使った腰巻とスケープ、ブーツ。胸当てとグローブには革を使った。


同じく、心材とリムに牙と爪を使った、特注のショートボウ。


駆けだし冒険者にしてはかなりの上等な装備だ。というよりもオーバースペック感は否めない。


まあ、備えあれば憂いなし。


シルバーベアの銀色の毛皮にマリナの金髪がよく映える。


「ああ、よく似合ってる。ところでお前のその髪って地毛か?」


「ううん。染めてるよ。どうして?」


「ソウイチは黒髪だったなと思ってな。それだけだ」


アイテムも買い込んだし、これで出発の準備は整った。


「それじゃあ、冒険者らしくクエストに出かけるとするか」


「おー!」


と意気込んで出発したのが一時間ほど前。


先程まで元気いっぱいだったマリナは今、俺の後ろで馬の振動にやられて酔っている。


「おじざん。ぢょっと限界かも。うぇ」


「もう少し進んだら、休憩できる。我慢しろ」


「吐いたらごめんねぇ。うぴ」


うぴってなんだ。頼むから吐くなよ。


馬を飛ばして一時間。リンネルネを通りすぎ、すでに森に近くなってきた。


そろそろ降りて、痕跡から探していくか。


ちょうど川沿いに砂利のいい場所がある。あそこに馬をつないでおくか。


そういえば酔うのは三半規管が弱いかららしい。


ってことは。


「マリナ、ちょっと手を貸してみろ」


ふらふらと差し出された手を握り、身体強化の魔法を限定的に施してみる。


「どうだ、ちょっとはましになったか」


「あれ、気持ち悪いの治った。おじさん、何したの?」


「魔法使った」


「便利だねぇ、魔法。あたしも早く使いたいな」


魔法の練習か。まずは魔力を錬れないとどうしようもないしな。その練習からか。


「だったら、これ飲んでみろ。魔力を一時的に高めるポーションだ」


ポーチから紫の小瓶を取り出し、マリナに手渡す。


「毒じゃないんだよね。すごい色してるけど」


「確かに味はクソまずい。良薬口に苦しってやつだ。我慢して一気にいけ」


「うぇー。仕方ない!」


ごくごくのどを鳴らして、瓶の中身を飲み干す。


「まずぃー」


舌を突き出し、渋い顔になっている。そこそこかわいい顔してる割にはこいつは変な顔をしてる割合の方が多いのは気のせいだろうか。


「これ飲んでどうするの」


「そろそろ効果出てくるだろ。なんか体に変化あるか」


「うーん。なんか体がちょっとポカポカするような気がする」


「それだ。今は薬のおかげで体内の魔力が活性化してる状態。意識を集中してその熱を手のひらに動してみろ」


きゅっと目を瞑り、集中する。


もう少し時間がかかりそうだがこれで目的地までは静かになるだろう。



と思ったのも束の間。



「おじさん、こんな感じでいいのかな。なんか手光ってるけど」


そう言ってこちらに差し出された手の平には、体内から錬成された魔力がふよふよ漂っている。


正直こんなに早くできるとは予想外だった。


「そうしたら、この前やったみたいにその光を束ねてみ。光の魔法も使えるみたいだから、そっちで試してみてくれ。」


「てい!」


俺の話が終わった途端に、早速魔法を発動させる。


前回の炎とは異なり、今回は光の魔法。


「おおー、光ってるよ!」


ピコピコ明滅する光の玉がマリナの手の平に収まっている。


この光球は今はマリナの制御下にある。


「そいつはお前のイメージ通りに形や大きさを変えることができる。しばらくはそいつの制御を練習だな」


「分った。やってみる!」


これでしばらくはこっちに集中するだろう。


問題点を強いて挙げるなら、先ほどから後ろで光が強くなったり弱くなったり若干気が散るくらいだが、そこは我慢するしかないか。




そんなこんなで目的地に到着。


三十分そこいらの時間だったが、光の玉はずいぶん自由にいじりまわせるようになったようだ。


先ほどから、光の玉の色が変わっている。


「まずはこのあたりの森の調査から行うが、その前にマリナ。弓の腕前はどの程度だ?」


「うーん、しばらく触ってないからなぁ。一回試してみていいかな」


「ああ、その方がいい。簡単な調整ならできるように組んでもらったから慣らしておくか」


その辺の木に目印をつける。


「この木を狙ってみろ。五発くらいでいいか」


速射性を意識したショートボウ、あくまでけん制と自衛目的の装備と割り切るのであれば、射程は五から七メルで当たればいい。


弓を構える姿勢はなかなか様になっている。しかし、長弓を使うのであればあれでもいいが、戦闘時にはいかに即応できるかが肝。


その点で言えば姿勢は崩させた方がいいか。


放たれた矢はしっかりと気に命中する。


「狙いは悪くない。今度はできるだけ素早く二発、今矢の刺さってる上下を狙ってみろ」


すぅ。と小さく呼吸し、タンタン。小気味よい音を響かせ、矢が命中する。


今度もしっかり狙い通り。


「いいぞ。次はしゃがんで打ってみろ」


「しゃがむの?」


「ああ、片膝付く程度でいい」


ああかな、こうかな、と言いながら、打ちやすい姿勢を探すマリナ。


落ち着いたのは右ひざを地面につけ、左足を明いっぱい伸ばす姿勢。


上半身を半身に構え、ちょうど左足が射線に重なる。


そこから放たれた矢は再び、木に命中。


「もう一本、同じところに」


放たれた矢は同じ軌道で木に吸い込まれていく。


「久しぶりに使ったけど、意外とできるもんだね」


「これだけ狙えれば問題ないだろ。あとは、動く的に当てられるかどうかってところだな」


「それはどうなんだろ。やったことないからわかんないよ」


「俺も弓の扱いはそこまでじゃないからな。一つアドバイスするなら、狙う対象の動きを先読みすることだな」


「先読み・・・」


「そのためには、モンスターを観察することだ。戦闘は基本的に俺が前に出る。だからお前はまずは観察しろ。


筋肉の動き、息遣い、足運び。細かい動作に集中して、モンスターがどんな動きをするのかをよく学ぶんだ」



魔法と弓。マリナの実力もある程度知れたところで昼食にする。


ちょうど川があるから魚でも取って焼くとするか。


「マリナ。魔法の練習だ。そこらへんから蒔を拾ってきて、焚火を起こしてくれ。俺は魚取ってくるから」


「はーい」


昼食も無事終わり、いよいよ森の調査に乗り出す。


調査といっても何を調べたもんか。


そんなことを考えながら、森の中を歩いていると早速気になる痕跡を発見する。


血痕。血液だけでなく、動物の毛も混じっている。


白銀の毛だ。


血の乾き具合から見て、二、三日といったところか。


先日のシルバーベアのものと考えるのが妥当か。


あのクラスのモンスターが複数この辺りにいるとは考えづらい。


問題は、シルバーベアに傷を負わせるほどのモンスターが他に存在するということ。


血痕は森の奥からリンネルネの方に向かって伸びている。


ということは謎のモンスターは森の奥にいる。


「森の中は騒がしいな。マリナは何か感じるか」


「うーん。鳥も鳴いてるし、虫の音も聞こえる。森ってこんなもんじゃないの」


「そうだな。こんなもんだ。つまり、森の中には今は異変はないってことになる。少なくとも今は」


「意味ありげなこと言うね?」


「ああ、異変の原因がいなくなったのならいいが、そいつが森の中に馴染んで異変があるのが当たり前の状況になったら


そいつはもう森の一部。異変じゃなくなる。自然はあらゆるものを包み込むんだ」


「違和感がなくても安心できないってことだね」


「むしろより一層警戒する必要がある。どこから攻めてくるかわからんからな」


俺たちはシルバーベアの痕跡を追い、一歩一歩森の奥に向けて歩を進めていく。



しばらく痕跡をさかのぼっていくと、木々が切り倒され、開けた場所にたどり着く。


「ここがでシルバーベアと何かが争った。シルバーベアは状況が悪くなり、逃亡を図ったといったところか。


このあたりを重点的に調べるぞ」


なぎ倒されている木は十本程度。


そのうちの一本を見てみると銀色の体毛が付着している。


吹っ飛ばされて木に激突したのか。


「おじさーん。これ見てー」


少し離れた木を調べていたマリナから声がかかる。


「これ、毛じゃなくて鱗みたいなんだけど。何かわかる?」


確かに鱗だな。サイズから見てかなり大型の爬虫類か。鱗はくすんだ緑色。トカゲとしてはオーソドックスだが。こいつが犯人か?


「トカゲか何かの仲間だろうが、決定打に欠けるな。状況から見るに尻尾で木をなぎ倒したときに付着したか」


「尻尾で木をなぎ倒すってどんだけでかいの」


「なんとも言えんが、シルバーベアよりもでかいんじゃないか」


マリナの顔がサーっと青ざめる。


「それはもうトカゲじゃないと思う。怖っ」


「ドラゴンじゃないだけましだろ。足跡でも見つかればいいんだが」


不思議と足跡らしきものは見当たらない。


足跡が残らないほど軽いモンスターがシルバーベアを吹っ飛ばせるのか?


この辺りの地面は森の中で基本的に腐葉土で柔らかい。木々をなぎ倒すほどの戦闘を行ったのなら、踏ん張りは確実に必要だろうが。


逆に考えるか。


地面に足を着けないで戦える。


飛び回るのは無理がある。ということは


「樹上か」


木の上を飛び回る。緑の鱗。シルバーベアに勝る力。


もう少しヒントがあれば特定できるが。 


「マリナ、倒れていない木の幹を調べて、傷や穴がないか確認してくれ」


「分ったよ、うああああああああああああああああああああああああ」


急に悲鳴を上げる。


「どうした!?」


「あそこ!」


指さす方向を振り向くと、木の上にそいつはいた。


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