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クエスト1 山の異変の調査

見慣れた占い机を3人で囲み、マリナの診断結果を分析する。


「爺さん、結果はどうだったんだ」


「結論から言うと、マリナの属性は炎と光じゃな。イメージはワシも共有したが、しっかり心精のイメージも現れておった。紋章もでておるしな」


たしかにマリナの左腕には紅の紋章が浮かんでいる。


心精紋


魔法の才能がある程度の域に達することで、身体の何処かに現れる。

術者の能力を図るひとつの目印になる。


紋章は術者の成長とともにその複雑さを増していく。


「ねえねえ、この紋章がすごいのはわかったけど、あたしまだ魔法なんか使える気がしないんだけど」


「魔力の練り方を学べばすぐに使えるようになるじゃろう。それはアートから学ぶがよい」


「俺よりもジイさんの方が教えるの上手いだろう」


「バカモン。マリナはお主が面倒をみるんじゃろ。他者に教えることもまた修行の一環じゃ。お互いに高め合うが良い」


教えるのはあんまり得意じゃねえが。


「お陰で素質の方もはっきりしたし、これでギルドに行けるか」


「ちょっと待て、素質ははっきりしたが、この子はストレンジじゃろう。禁術由来の才能も発現するはずじゃが」


「そこは今は大丈夫なんじゃねえか。どのみち、魔法もまだ満足に使えないんだし、そこはおいおい見つめ直す方がいいだろ」


「そこはお主らの判断に任せるがな。さてマリナよ、何か聞きたいことはあるかの」


「聞きたいことって言われても、多分半分も理解してないよ」


「ふぉふぉふぉ、そんなことは無いじゃろう。初めて聞く言葉を

咀嚼できておらんだけで、心はしっかりと理解しておるよ。

顔にはしっかりそう書いておる」


たしかに先程からマリナの表情は、困り果てたというようなものではなく、好奇心に突き動かされている。新しいおもちゃをもらった子供みたいなもんか。


「あたしって、炎と光の魔法が使えるんだよね?それってどんな魔法なの?」


「魔法ってのは、体内やそのへんの魔力を変換して何かしらの現象や事象を起こすものだ。炎だったら火が出るし、光ならそのまま光る。これはあくまで基本的なもので、あとはその力をどうやって使うかっていうイメージ力の方が重要なんだ」


「これは実際に見せた方がわかりやすかろう。ワシの属性は水と風じゃ」


「水よ来たれ」


シンプルに水を生成する魔法。コップには澄んだ水が注がれる。


「風よ」


締め切った部屋に微かに風が吹く。


「今の二つはただ単に、魔力を魔法に変換したものじゃな」


ウンウンと頷くマリナ。


「そしてここにイメージを加える訳じゃ」


ジイさんの腕に微かに魔力が練り上げられる。


「アクアウィップ」


変換された魔力は、一筋の水のムチとなる。


ジイさんはムチを一振りさせる間に新たに魔法を詠唱する。


「サイクロン」


普段はバカみたいな威力の魔法だが、小さく制御されたそれは部屋の中でも

風を感じる程度だ。


そして、水のムチの制御を外すとサイクロンに吸い込まれていき、空のティーポットに吐きだ出されていく。


「こんなもんかの」


パチパチ。思わず拍手するマリナ。

ジイさんの魔法を見るのは久しぶりだが、相変わらず制御にかけては一流だ。

膨大な魔力を突っ込んで、大規模な魔法をブッ放すのは魔力さえあれば正直誰でも出来る。

逆に、少ない魔力でいかに効率よく魔法を使うか。戦闘においては何より重要な要素だ。


「さて、今日の勉強会はここまでかの。お主らもそろそろギルドに向かわんとな」


「それもそうだな。そろそろお暇するとしようか。マリナ、今度は逸れるんじゃないぞ」


「うん。気をつける」


壁に立てておいた装備を身につけ、準備を整える。


「それじゃあ、ジイさん。すぐにくたばるんじゃねえぞ」


「ふぉふぉふぉ、お主こそしっかり世話してやることじゃな。マリナさんも、このバカのことよろしく頼む」


「まかせといて!」


調子のいいやつだ。


ジイさんの家からギルドまではそう距離もない。


流石に今回は逸れることは無いだろうが。


ギルドが近くなると、武器屋や防具屋の数が多くなる。マリナの分も一式揃えないとまずいか。


「一応聞いておくんだが、今まで武器を使って戦った経験てあるか?」


「ある訳ないじゃん」


ですよね。


「あ、でも弓ならちょっと使えると思うよ。昔だけど弓道やってたの」


弓か。パティーを組むことを考えれば悪くないな。


「なら、あとで武器も見ていくか」


「やっぱり私も戦うんだよね」


「採取とかをメインでやっていくのもアリなんだが、最低限自衛はできないといざという時にどうしようもないからな」


「いざってときか」


神妙な面持ちになるマリナ。だが、弱いものは強に食われる。それ世界の理だ。


石畳の道を進み、ギルドの集会所の旗が見えてきた。


赤地の旗に黄金の刺繍で、盃をクロスするように剣と杖がデザインされている。


「さあついた。ここがこの町のハンターギルドだ」


「おっきい建物だね」


「まあな、協会と並んで此の街の中では最大級の建物だしな。集会場というだけあって、規模的には300人くらいは入るんじゃないか」



俺はこっちの集会所には滅多に顔を出さないが。


正面の大扉は一旦スルーして、職員用の通用口に回る。


「あれ、おじさんあっちの扉は使わないの?」


「今日はクエスト受けにきたわけでもないしな。こっちの方が話しが早い」


グレイグに頼んだ書面はしっかりギルドマスターのところに届いたらしく、通りかかった職員がそのまま、マスタールームまで通してくれる。


「ようやく来たか。待ちわびたぞ」


あいも変わらず殺風景なマスタールームに通されると奥の椅子から声がかかる。


「申し訳ない。少し前座が長引きました」


「まあいい。その子が例の?」


そして、ギルドマスターが俺たちの前に歩いて来る。


ギルドマスター。本名 イングラム・デクラフト


面の作りは良いが、いかんせん恰幅が良くなったせいで若干残念になっている。


一緒に冒険していた頃は、それはそれはよく女にモテたもんだが。


他の冒険者への心象もあるので、最低限オープンな場では取り繕う。


「はじめまして、サガミ・マリナです!」


こいつ敬語なんか使うの初めてじゃねーか。


「おい、お前なんでそんな畏まってんだ?似合わねーぞ」


「だって、おじさんも敬語使ってるし、えらい人なんでしょ?」


「偉い人ではあるが、俺の旧友だしそこまで気にしなくていいぞ」


「いや、お前は少し気にしろ」


横からツッコミが入る。


職員も出て行ったし敬語はもう終わりだな。


「自己紹介が遅れたな。私はイングラム・デクラフト。アートから話しを聞いてるかもしれんが、昔はこいつと一緒にパーティーを組んでいた。


今ではこの街のギルドマスターをやっている。よろしく、マリナ君」


と、自然と握手を求めるイングラム。

太ってもタラシの頃の癖はなかなか抜けないようだな。


しかし、差し出されたのは利き手ではない、左腕。


最終決戦の時に食いちぎられた右腕は治療できずに今では義手だ。


ドワーフお手製の義手だけあってパッと見ただけでは義手かどうかの判別は付かない。


こちらこそと握り返すマリナ。


「ストレンジだとは聞いたが、それは間違いないのか?マスターが見つかっていないだけとか」


「その可能性は現状否定はできないが、少なくとも召喚自体は失敗だろうな。なんせ空から降って来たし」


「空か。拾われたのがアートってこと以外は幸運だったな」


「どういう意味だ」


「トラブルメーカー、歩く事件簿、お前の通り名を思い出してみろ」


それを言うんじゃねえ。


「おじさん、ツイテナイ系の人じゃん」


ほれみろ食いついた。


「普通の冒険者が一生に一度出会うか出会わないか、ってレベルの事件に何度遭遇したか分からない。ってのがギルド内でのこいつの評判だな」


「それって良い意味?悪い意味?」


「両方だな。温泉を掘り当てたこともあれば、ドラゴンに丸呑みにされたこともあったな」


ドラゴン?とハテナ顔のマリナ。


そのうち見せてやるさ。


「俺の話はいい。まずはこいつをどうするかだよ」


「そうだな。身分証はあらかじめ俺が発行しておいた。形式上はアートの養子だ」


「俺子持ちになんのか」

「あたしおじさんの子供なの」


二人の声が重なる。急に子供と言われても、俺は所帯を持ったことなんかないぞ。



「形式上だ。保護者がいないと色々不便だからな。ついでに、冒険者の登録もしておいた方がいいだろ」


「それは最初からそのつもりだ。素質の鑑定も済ませてある。炎と光で頼む」


「仕事が早いな。光ってのは珍しい属性だ。俺もギルドマスターになってから数人しか見たことがない」


「え、あたしレアキャラ?」


嬉しそうにはしゃぐがいいことばかりでもないんだよな。


レアな属性ということはその分先人達が見出した活用法が少ないということだ。


そういう点ではありふれた属性の方が汎用性は高い。


「レアなことは確かだな。それはそうとイングラム、こいつを」


昨日はぎ取ったシルバーベアの皮を机に広げる。


「シルバーベアか。こいつがどうかしたのか」


「ああ、昨日こいつがリンネルネの村の近くに出た。こんな人里まで下りてくるようなモンスターじゃないだろ」


神妙な面持ちのイングラム。


「お前のところにも出たか。これはいよいよ調査を進める必要があるか」


「どういうことだ」


イングラムが壁に貼っている地図を指さす。地図には赤いピンがいくつかさしてある。


「この赤い点はここ数日、強力なモンスターが目撃された地点だ。今のところ犠牲者の報告はないが、この数は異常だ」


地図にプロットされているピンは五本。俺のも合わせると六。そこそこ強力なはぐれが現れるにしても、一月に一回程度。


赤いピンは街の西から南にかけて集中している。


街の南西には俺の村リンネルネ。さらにその先にはラクオン山とその麓には大きな湖がある。


山から下りてきた。そう考えるのが妥当か。


「今腕利きの冒険者はこの街から離れている者が多くてな。頼れる者が少ない。この調査お前に頼めるか」


「そういうことなら仕方ない。俺も調べる気だったしな」


「助かる。調査の拠点はリンネルネに置くのがいいだろう。ギルドの出張所に数人派遣しておく。報告は随時そちらへ頼む」


「今日中に街で準備して明日には出る。俺はいいとして、こいつの装備を整えないとな」


「あたしもついて行っていいの?」


「当たり前だ。一人で家に置いておくよりも、俺と一緒に動いた方が経験も積めるだろ」


「話は纏まったか。装備を整えるなら、これを」


イングラムが手渡してきたのは、金貨の入った袋とギルドからの推薦状。


推薦状は各店に便宜を図ってもらえる。重要なクエストの準備などを行う際に優先的に加工や調達を行える。


正直金には困っていないが、クエストの前報酬として受け取っておく。


「それでは、ギルドマスター、イングラム・デクラフトから、冒険者、アート・ヴィンドラム並びにサガミ・マリナに


緊急クエストを命じる」


クエストの用紙にイングラムが記入し手渡してくる。


「お前、相変わらず字汚えな」


「言うな。利き手じゃないんだ」


締まらない奴だ。




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