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シルバーベア

モンスター


この世界に存在する、人類の敵対者。


モンスター、魔獣と呼び方は地域や人によって異なるが、その定義はシンプルだ。


魔法由来の力を使える生物。


牛や鳥など、その辺にいる動物の中には魔力と無関係に生きているものもいる。


こいつらはただの動物だし、その辺に生えている樹木も特に魔法と関係があるわけではない。


しかし、魔獣の定義は魔法を使えることである。


その点においては人間もまた魔獣の一種。


中には、先天的に魔力の精製を行えないものや、人体の中を流れる魔力が少なく魔法が使えないものもいる。


そういう意味では人類の中には魔獣と人が共存していることになる。


そこでギルドでは、魔法が使えるものは例外なく冒険者としての登録を義務付けている。無論、冒険者の中にも魔法が使えないものもいる訳だが。


つまり、冒険者を管理するギルドには二つの意味合いがある。


1、住民の困りごとなどを取りまとめ冒険者に仕事を斡旋する機関


2、国内に存在する魔獣を管理する抑止機関


というわだ。


「つまり、魔法が使えた以上は明日からお前も冒険者になるってことだな」


「うんうん。さっきおじさんのおかげで魔法使えたもんね。それはいいけど、


おじさんはなんであたしの面倒見てくれるの?すごくありがたいんだけど、そうしてもらう理由が思いつかないっていうか」


「そうだな。正直俺自身にもお前さんに親切してやる義務もなにもないんだが。


強いていうなら、俺はお前の国から来た男に随分世話になった。

俺だけじゃなく、この世界も全員がそうなんだが。だから、俺はお前の役に立ちたい。ただそれだけだ。」


「それって、さっきからおじさんが言ってるソウイチって人のことだよね。どんな人だったの?」


「優しい奴だったよ。この世界で一番な」


パチパチと焚き火の弾ける音が辺りに響く。


茶を啜りながら辺りの様子を伺うと、ふと違和感を感じる。


太陽はまだ高く、辺りに獣の気配はない。


しかし、気配がなさすぎる。


鳥の囀りすらも聞こえない。


「マリナ。俺の後ろへ下がっていろ」


「え、うん。分かった」


マリナを背後に庇いながら、森の奥へと意識を集中させる。


パキ。


微かにだが、枯れ木を踏み抜く音が響いている。


この森に生息する魔獣で、このような音を発するものはいない。


ということはさらに奥地から渡ってきた流れか。


縄張り争いで生き場所を失った程度であれば大した問題ではないが。


それは調査をしないと決断は出せないか。


パキパキ。


徐々に森の奥から音が近づいて来る。


今手持ちにある武器として使えそうなものは鍬くらい。マリナに持たせたところで、返って危険か。


さあ、何が出てくる。


正体が分からない以上は下手に動けないが、準備するに越したことはない。


気休めに鍬を構えて、魔力で補強し、森の奥からの来場者に備える。


森の奥でギラリと赤い閃光のような瞳が瞬く。


どうやら俺の心配は、杞憂とはならなさそうだ。


「ようやくお出ましか」


遂に森の奥からモンスターが姿を現わす。


白銀の体毛に覆われた、赤い瞳の巨大熊。


今は四足歩行歩行の状態であるが、その体長はおよそ3メル、かなり大型のシルバーベアだな。


普段は森の奥でひっそりと暮らすモンスターだ。人里に降りてくることは滅多にない筈だが。森に食料がないか、強力なモンスターに追いやられたか。


「相手してやるよ」


俺の挑発が効いたのか、腹が減っているのか低いうなり声と共に、一直線にこちらに向かってくる。


「マリナ、下がってろ」


背後の足音が遠ざかるのを肌で感じつつ、突進してくる熊を迎え打つ。


鍬の柄は只の木だが、強化魔法でどうにか強度は問題なさそうだ。


首筋に向けて繰り出された鋭い牙を柄で受ける。


熊の強力な咬合力にもなんとか耐えているが、このままではジリ貧だ。


向こうには爪もあるしな。


案の定振るわれる爪を躱しつつ、魔力を練る。


右腕をの身体強化を引き上げ、ついでに拳の強度も上げておく。


「力比べだぜ、熊公!」


再び繰り出された左の前足の爪に対して、拳を打ち付ける。


ガキンっ


とまるで金属同士がぶつかるような甲高い音が響く。


俺の拳はともかく、こいつの爪はかなりの強度を誇るということか。


大したもんだ。


相手が俺じゃなきゃ楽勝だったと思うぜ。


右腕にさらに力を込め、前足ごと熊を殴り飛ばす。


人間相手に純粋な力比べで負けたことが不服だったのか、グルルと吼え、


二足歩行に転じる。


熊にとってはこの状態こそが格闘形態。


強靭な膂力と二本の腕にる攻撃。機動力を失う代わりに攻撃力を得る。


なんとも合理的な手段だ。


鍬の柄は先程熊の噛みつきを防いだせいで少しヒビが生じている。


長くは持ちそうにないか。


こんなことなら武器持ってくりゃあよかったな。


そんな思考を巡らせながら、数号打ち合うと遂に鍬が限界を迎え、柄の前から三分の一ほど折れる。


あんまり遊んでる余裕もなさそうだ。


「おじさん、大丈夫!?」


いきなり、背後からマリナの声が響く。

鍬が折れたのが衝撃だったのか、思わず声が出てしまったのか。


だが、悪手だ。


その声に熊が反応し、ターゲットを俺からマリナに変え、マリナに一目散にかけて行く。


「マリナ!伏せろ!」


瞬時に魔力を解放する。


「疾風!」


身体強化と風の魔法による加速を併用し、

疾走する熊を一気に追い抜く。


「お前の相手は俺だぜ」


両者の間に割り込みマリナに嚙みつこうと、牙をむき出しにした大口に折れた柄をねじ込む。


牙が封じられたのもお構いなしに両前足の爪を振るい、襲いかかってくる。


繰り出される爪撃に拳を打ち付け、拮抗状態に持ち込む。


牙と爪を封じられた熊は、次の手がない。


俺も手はない。


「足は出せるけどな!」


地面を蹴り上げ、宙返りの要領で熊の顎を蹴り抜く。


いくらモンスターといえど、動物である以上は脳震盪には抵抗出来ず、その体が地面に落ちる。


これで暫くは動けもしないだろう。


「マリナ、大丈夫か?」


振り返ると、コクコクと首を振るが、完全に腰を抜かしている。


まあ、いきなりのモンスターがこれじゃビビるのも無理ない。


漏らさなかっただけよしとするか。


この熊をどう処理するか、思案していると


ようやくマリナが口を開く。


「やばい、ちょっとチビったかも....」


漏らしたんかい。

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