リビングメイル
「ポチ、行くぞ」
「うん!」
二人で肩を並べて、リビングメイルに向けて歩を進める。
一歩進むごとの鎧はガシャガシャと音を立て、人型に組みあがっていく。
金属のこすれる音が泣き声のように響き、戦闘が開始される。
俺は攻撃を捌くことに専念し、ポチの攻撃が通り易いようにサポートしていく。
リビングメイルの攻撃事態は単調な斬撃の繰り替えしであり、弾くのも容易だ。剣筋を逸らし、地面に叩きつけるように誘導する。
「今だ!」
俺の合図とともに、ポチが大上段から大剣を振り下ろし、肩口から一気に切り裂く。
「ギイイイイイン」
金属の摩擦音と火花をまき散らしながら刃が食い込んでいくが徐々にその速度に陰りが見える。
一刀では難しかった?俺が疑問を浮かべた瞬間、
「やあああああああああ!」
気合と共に、ポチが大剣にさらに体重を加え、一気に振り下ろす。
ガタンと音を立て、右肩から先が地面に落ちる。
「よくやった!次行くぞ」
「わかった!」
一旦距離を取り腰だめに構えるポチ。
今の一撃でリビングメイルの標的がポチに移る。
奴にとってはポチの方が脅威だと判断したようだ。こうなることは想定内だ。ガシャガシャと音を立てポチに向かって走り込んでいき、斬撃を繰り出す。
切っ先がポチの首筋に到達する瞬間に槍で弾き飛ばす。
ポチは微動だにせず、力を貯めることに集中し、隙だらけになった胴体に横なぎの一撃を叩き込んだ。
そこまで信用してくれるってのも悪い気はしないな。
振るった刃はその胴体を綺麗に真っ二つにし、切り飛ばされた上半身からは砕かれたコアが赤い光を明滅させながら砕け散っていくのが見える。
思ったよりも楽勝だったな。
どちらかというと、ポチの剣の扱いが上達したのが大きいか。
「お前、こっそり剣の練習してただろ」
「ばれちゃった。ししょうといっしょにれんしゅうしてるの」
ちらっとメルトの方を見ると、ぽりぽりと頬を掻いている。内緒の特訓ってところか。
あんまり驚いていない辺り、マリナも知ってたのか。
みんな結構勝手に強くなっていくもんだ。
「大剣はあまり覚えがないので簡単な扱い方しか教えていませんが、今まで基礎もなかったので効果は大きかったみたいですね」
「狼が剣術ってのも変な話だがな。できることが増えるの良いことだ」
「けんをつかうのもたのしいから、ポチはすきだよ」
「そいつはよかった。今後も頑張って訓練しないとな」
「うん!」
五層のボス、リビングメイルも無事に討伐しようやく一息つける。
幸いボス部屋はボスを倒せばしばらく何も湧いてこないので、ここでしっかりと体を休めておく。
久々に温かい料理を食い、睡眠をとる。
心休まる時間というのは、こういう時にこそ必要だなと実感する。
「そういえば今までにいたのってアンデット系のモンスターばっかりだったけど、さっきの鎧ってアンデットなの?」
「アンデットの定義で言えば、不死やら既に死んでる奴やらいろいろ入ってくるからぎりぎりアンデットって感じだな。生物かって聞かれたらノーって答えた方がいいような気もするが」
「スケルトンとかもそうだけど、コアがあるからモンスターになるの?」
「卵が先か鶏が先かって話になる気もするが、ある程度魔力が貯まると形成されるらしいぞ」
「あれ、でも武器とかダンジョンに置いとくと強くなるんじゃなかったっけ」
「いいところに気付くじゃないか。簡単に説明すると武器や防具にも俺たちと同じようにレベルみたいなものがあるらしくてな。使えばその分成長していくんだ。レベルが高ければより多くの魔力を蓄えられるようになる。逆にレベルが低いと濃い魔力には耐え切れずにモンスターになるってところだ」
「なるほど。じゃあ、装備ってずっと同じものの方がいいんだ?」
「それが、完全にそうとは言い切れないのが痛いところですね」
と、メルトも会話に参加する。
「私も道具の鑑定を行う身ですので専門家としての見解では装備のレベルには上限があるのです。素材や職人の腕はもちろん使用者の腕でも変化するようですね。ですから、使用者が成長する限りは武器の性能を引き出していくことは出来るのですが、その労力を考えると、初期能力の高い武器を鍛えた方がより強くなる可能性が高いのです。勿論、武器に対する愛着や執着もあるでしょうから変えることが必ずしも正解とは言えないのですけれどね」
そこで俺たちは自分の武器に目を落とす。
確かにそれぞれ思い入れはあるだろう。
師匠に託された俺の斧槍。
ソウイチの形見であるメルトの紫雷。
本人がどう思っているかは分からないが、マリナが打ち取ったモンスターの素材で作られた武器はマリナのこの世界での軌跡を現す生き写しのような存在だと俺は思っている。
「武具のレベルということに関してはそんなところでしょうか」
「それじゃ、師匠の魔法使えば武器のレベルの上限も見れたりするの?」
「お安い御用です。と言っても、この前こっそり鑑定しているのでマリナさんの武具は当分更新する必要もなさそうですよ」
「そうなの?結構気に入ってるからラッキーなのかな」
「むしろ装備の更新ということであれば、私の防具が一番ネックですかね」
「そういえばその鎧も随分くたびれてるよな」
継ぎはぎの目立つメルトの鎧。もともとが動きやすさを重視し、急所のカバーに重点を置いたものであるので正しい運用方法ではあるのだが、肝心の部分も結構なダメージが蓄積している。弓の取り回しを意識した右側の欠けた胴当てにはオーガをはじめ強敵たちとの戦いの後が目立つ。
「デザイン的にはあまりよろしくないが、丁度良さそうなのがそこに転がってるけどな」
ポチが仕留めたリビングメイルの亡骸。
元は鎧でモンスター化したとはいえ、コアを破壊した今ではただの鎧に成り下がっている。
ちょうどポチが叩き切ったのも右肩で、機能的には今のものとそう変わらないだろう。
「その手がありましたか。少し合わせてみましょう」
メルトが鎧を着こむと同時に形状がメルトの体に合うように変化していく。
魔力を多く取り込んだ鎧は魔道具のような性質を得ることがある。丁度、ポチやピイ助に装備させている服と同じような機能だ。
「これは中々の業物です。材質はミスリルでしょうね。魔力の伝達率が高いですし」
メルトが魔力を注ぎ込むことで、鎧に付いた細かな傷が修復されていく。
ミスリル鉱は魔力の伝達率が非常に高いだけでなくメルトがやって見せたように疑似的な魔法陣のような使い方が可能だ。今のであれば回復魔法といったところか。メルト自身が回復魔法を使えるが、人体と物体では根本的に違う部分が大きいため術者によってはどちらか片方しか使えないという場合も大いにある。メルトは人体専門だ。。
そうして魔力を通しながら形状の微調整を行い、新たな防具がその身を包む。
透き通る深い碧色の装甲は流麗な曲線を描き、攻撃を逸らすことに特化した形状に姿を変えた。
軽く丈夫なミスリル鋼の特性のお陰で、装甲部分は以前の鎧よりも増したが重量はむしろ減少している。前の鎧からはクロークを拝借し、その魂を受け継ぐ。
前の鎧はそのまま持ち帰ることにし、コウコウの荷物に括り付けておく。
徐々に装飾品が増えていくパンダだが、本人は笹さえ食べられれば特に気にしないらしい。




