突入
パンダ改めコウコウ。小規模とはいえ、ダンジョンのボスとして君臨していたその実力は確かなものだった。
あくまでパラメータ上の話だが。
数値だけ見れば大したものなんだが、実態は伴わない。まず何より手がかかるのは、移動が極端に遅い。
本気を出せばそこそこ素早く移動はできるのだが、非常に燃費が悪いことと本人の怠ける気質も相まって長距離の行軍が大の苦手だ。
仕方がないので、俺とピイ助が風の魔法で浮かせながら運ぶことになる。デカいままだと邪魔なのでピイ助に小さくしてもらった上でだが。
空飛ぶパンダ。非常にシュールな光景だ。しかも本人はメルトに笹をねだりずっとむしゃむしゃとやっている。
とはいえコウコウの素質の氷はこの暑い砂漠では非常に有効だ。パンダはもともと寒冷地に強い動物らしくその性質が素質として受け継がれたのだろう。
適度に冷気で体を冷やしてもらいつつ、氷を出してくれる。
「こんなんもあるけど食べてみる?ワシは食べたことないねんけど。みんな美味しそうに食べてたで」
と氷を細かく砕いたものを出してもくれた。マリナ曰くかき氷。ニホンの氷菓らしい。これが美味い。適当にフルーツの絞り汁をかけてやると絶品だ。屋台でも出せば確実に儲かると思う。
随分快適になった旅路を続け、ようやくお目当ての遺跡に到着した。
町からの距離もさることながら、遺跡自体もかなり巧妙に隠蔽されている。
切り立った岩場の中にひっそりとその入り口を晒している。
周囲に人影こそないが、魔力の濃度が濃い。深いダンジョンの周辺では魔力濃度が高くなる傾向があることから、大規模なダンジョンであることが予想される。
「中で何泊かする必要がありそうですね」
メルトの所感としても結構深いらしい。
「ダンジョンの中で寝るのって危なくないの?」
「もちろんその辺で寝るよりは危険だ。だから休憩は交替で行いながら見張りは最低二人体制だ。幸い人数は六人分だからローテンションで回せばそこまで辛くもないだろ」
「よーし、それじゃあ早速ダンジョン攻略に行きますか!」
「待った。この遺跡は出入りしてる集団もいるらしいから、今日は偵察も兼ねて周辺で待機する。丁度あそこの岩陰なら他からの死角になるし、遺跡の監視もできるだろ。俺とピイ助は周辺の捜索を行うから4人は見張りと遺跡突入の準備をしておいてくれ」
「りょーかい。中での食料も必要だよね。なんか作って持っていけるようにしとこうか?」
「頼む。さっきのトカゲの肉なんかを乾かしといてくれると助かる」
最近はこういう場面に応じた動きが自然にできるようになったマリナ。成長してるなと実感する。炎の魔法の有効活用術として燻製や干し肉をごく短時間で作れるようになった。最近料理スキルばかりがメキメキと向上しているのは旅だと料理が適当になりがちな俺にとっては大変ありがたいが本人にとってそれでいいんだろうか。
ピイ助の遠見を利用し、周辺の状況を探りながら移動する。
周囲ニキロ程度には人影もない。モンスターはちょこちょこいるが、見慣れたものばかりらしい。
「特に何もないか。手がかりの一つでも見つかればと思ってたんだがな」
「もしかしたら何かあるのかもしれないけど、僕が見た感じだと特にないよ。ご主人が自分で見れたら変わるかもしれないんだけど」
「どうだろうな。俺も視力の強化で多少は見えるようになってるが、そこまで変なところも見当たらないしな」
「でもさ、あそこらへんだけモンスターが全然いないの変じゃないかな」
「ん?モンスターがいないのがそんなに変か?」
「あそこだけポカんてモンスターがいない感じなの。ほら、あのモンスター見てて」
そう言ってピイ助が示したモンスターの挙動を観察すると、急に何かを思い出したかのようにもと来た道を引き返していく。
「引き返した?」
「やっぱり変だよね。もしかしたら罠かもしれないけど、見に行ってみる?」
「そうだな。いざとなったら引き返せばいいし行ってみるか」
「はーい」
ピイ助が睨んだポイントの付近に近づくと、若干の魔力の気配を感じる。
「ここまで近づかないと感知できないほどの魔法か。ピイ助は何か見えるか」
「ううん。魔法の感じはするけど、罠とか攻撃する感じじゃないみたい。僕の魔法にも特に反応しないよ」
確かに何か脅威を感じるというものではない。
強いて言うなら若干近寄りたくないと思う程度のもの。この感覚は人払いの魔法や結界の類か。しかし、こんな砂漠のど真ん中に設置する意味はなんだ。
そのまま嫌悪感を若干抱きながら進んでいくとポツンとスペルスクロールが放置されていた。
効果が発動していることを考えると誰かが魔力を注いで発動させてものであることは確かなんだが、辺りには人影はおろかモンスターもいない。人払いが効いているなら当然なんだが、持ち主はどこだろうか。
しかし、このスクロールは結構高価なもののはずだ。
通常スクロールには二種類が存在する。
使い捨てと再利用が可能なもの。
前者は魔法の発動と同時にスクロール自体が消滅するのだが、後者はスクロールの材質と魔法陣を描くインクの条件を整えることで使用しても消滅せずに手元に残り続ける。魔法を発動しつつもスクロールの形を保持するこれは間違いなくそれだ。
キャラバンが行軍中に落としたとかは考えられるか。
砂漠に放置したところで特に誰かが得をすることもないだろうし、回収しておくか。
「お目当てのものじゃなかったが、思わぬお宝ゲットってところで満足しとくか」
「だねー。ご主人、あそこにちっちゃなオアシスがあるから水飲んでから行こうよ」
少し離れたところにほんの小規模なオアシスがある。
直径にして1メル程度の水たまりと申し訳程度に、ナツメヤシの木が一本生えている。小休憩には丁度いいか。
ナツメヤシは栄養価も高く、一粒食えば栄養素としては一日分にもなる。
保存も効くしダンジョンのお供には最適だ。少し土産にしていくとしよう。
「ピイ助これ食えるぞ。食っとけよ」
「いいの?頂きまーす」
二人で実をつまみに水を煽る。さすがに冷えてはいないが汗をかいた体にはありがたい。
「ご主人この果物すごく魔力が豊富だね」
「普通はそこまで魔力をため込むような性質は無いんだが、この周辺にはこの一本しか生えていないみたいだし、周りの魔力をため込んでるのかもな」
一応周囲も見回りしてみたが、他に目ぼしいものも見つからなかったのでマリナたちと合流した。
メルトが纏めてくれた探索用の装備をバックパックに詰め込み、いよいよ突入となる。バックパックは非戦闘要員のコウコウが担当することになる。巨大な背負いものをしたちっさいパンダというよく分からない存在が付いてくることになる。
中の作りは平凡なダンジョンなのだが、空気感が違う。ダンジョン特有のどんよりとした空気は当然ながらその中に、異様な血生臭さが混じっている。
「なにこの匂い。すごい嫌な感じ」
顔をしかめるマリナ。ポチも思わず鼻を摘んでいる。
「血の匂いだが、異様に濃いな」
「ええ、そこら中に血の匂いが染みついています」
人間の血でないことを祈るが。
まずはマッピングを行いつつ、先に進むことにする。
俺たちの目的はダンジョンの攻略ではなく、ダンジョンを根城にしている団体を調査することだ。分岐点を初め虱潰しに捜査を続けていくことにする。
罠を突破しながらダンジョン内部を隈なく探索していく。
道中で遭遇するのはスケルトンを主体としたモンスターだ。
装備もなく骨だけの身体を見る限りは冒険者がモンスター化したものではなく自然発生したものらしい。
中には錆びた剣をもっているものもいるが。
スケルトンがいるということはやはりこのダンジョンはアンデット系のモンスターが闊歩しているということで間違い無いだろう。マリナの太陽の魔法は効果抜群。骨のボディに対してはポチの重量級の一撃もかなり有効で、一太刀でその身を粉々に砕く。
俺とメルトは探索に専念する方が相性が良さそうだ。
こうして一層目を念入りにマッピングして進んでいく。
全ての分かれ道を探索した時点で下層に続く階段に差し掛かった。
「ここには目ぼしいものはありませんでしたね」
「うん。僕も気になるところはなかったかな」
「俺もだ。ポチはどうだ」
「ポチもいじょうなしだよ」
ここの階層は収穫なしか。
大体ここまでで6時間程度。
ぶっ続けで動き続けるのは得策では無いか。
いったん休憩にしておくとしよう。せっかくなのでさっき拾ったスクロールに魔力を注ぎ展開してみる。
1時間くらい効果が続くように魔力を注いでみると思ったよりも魔力が吸われる。
再利用可能なタイプだとこんなもんなのか。




