パンダ
ダンジョン探索は久しぶりだ。
冒険者の中にはダンジョン専門もいるが俺はもっぱらフィールドだ。
理由はいろいろあるが、一攫千金を狙わないというのも大きい。ぶっちゃけ金には困らないし。
今回の肩慣らしはピイ助の罠発見能力の調査が目的で入ってみたんだが、これが思ったよりも有能だった。
まずは罠のある場所はほぼ確実に見破れる。
罠の種類の特定までには至らないが、発動範囲が視覚化できるらしくどこからどこまでに罠が存在するかを的確に言い当てる。
罠の発動範囲が分かれば、俺とメルトが解除に当たることが容易だ。
わざと発動させてやり過ごすこともできるし、範囲外を通り抜けることもできる。
解除方法方についても粗方叩き込んでおく。
転ばぬ先の杖だな。
順調に攻略を進めていき、二層に到達する。
所詮3層構造のダンジョンでは出現するモンスターの強さもたかが知れている。一層目ではツノウサギがポツポツ湧いてきたくらいだ。
二層目も良いとこ山狼位だろう。正直ポチだけでも十分攻略できるんじゃないかと思う。
「なんでダンジョンの中に動物がいるの?」
マリナの質問が飛んでくる。
「なんでと言われてもなあ。ここのモンスターは湧いてくるものだからとしか言いようがないんだが」
「え、じゃあ何食べるの?」
「基本的には仲間の死骸を食うな。ダンジョンのモンスターが外に出て野生化したのがそこらへんにいるモンスターだっていう説もあるが、真相は分からん」
モンスターが定着したのなんて竜の時代の話しだし、今から何千年も前のことだ。それらしい証拠は見つかってるいるが確証はないんだとか。原因を突き止めたところで根絶できるわけでもないからな、そこまで躍起になっているわけでもない。学者連中の中には新たなモンスターを生み出す研究を行なっている奴もいるが、そういった過程の中で発生を調べることで人為的に生み出す研究を行う手法もあるらしい。
「ご主人、あそこの天井罠だよ」
ピイ助が羽で刺したさきの天井にはこれ見よがしに落下式のトラップが仕掛けてある。あれは俺でも見破れるぞ。
「あれは俺でもわかるぞ。解除しとくか」
俺だ一歩踏み出そうとしたところ、
「待って待って。そこの床も罠だから」
今度は目の前の床を示す。
分かりやすい天井の罠は囮で、本命は床ってっところか。地味に嫌らしい。目を凝らすと、たしかに床の材質が違う。落とし穴か。
適当に踏み抜いて罠を発動させてみると、穴の先には無数の槍が設置されていた。うーむ、そこそこの冒険者なら普通に助かりそうな感じはする。全体的に殺傷能力が低いダンジョンだな。作ったやつは何が目的だったんだろうか。意外と練習用とかかもしれんが。
罠を抜けると予想通りというか、山狼が群れで出現する。
ポチがいる手前、若干やり辛い。そんなことを考えていると、ポチが狼に姿を変え、一際大きな遠吠えをあげると、山狼の群れは全員がその場に伏せる。
そして群れのボスと思しき多きな個体が腹を見せ服従の姿勢。
正攻法で攻略する冒険者には怒られそうだが、大人しくなった狼達はその場で適当に待機させておき、先を進む。
そんな感じで戦闘という戦闘もなく、最深部へ続く階段に到着した。
今までの傾向を見る感じだと、獣系のモンスターがボス扱いだろう。
単体の戦闘能力を考えると、クマかイノシシあたりだろうか。
臨戦態勢を調え、階下へ向かうと予想通りクマが居た。
ただ、初めて見るモンスターだったが。
白と黒の体毛。目の周りは黒く縁取られており、俺たちの姿を目撃すると、ひどくゆっくりした動作で そっぽを向いて。
なんだこいつ。
「パンダじゃん」
マリナのツッコミで思い出す。そういえば別の大陸にはそんな感じの名前の動物がいるとかなんとか聞いたこともある。確か雑食性なはずだが笹ばっかり食ってるという不思議な食生活クマだとかなんとか。
「それにしても全く襲ってくる気配がないんだが」
「パンダだしね。あいつら基本的にやる気ないじゃん」
「マリナはパンダ知ってるのか。こっちの大陸には居ないから俺は詳しくないいんだ」
「上野動物園には居たよ。みんな可愛いって言ってよく見にいってた。たしかに可愛いけどちょっとデカすぎない?」
たしかにデカイ。
シルバーベアと同じくらいの体格で大体4メルくらいか。あ、寝っ転がった。
「おじさん、これどうすんの」
どうするかなぁ。完全に敵意がない奴を相手にするのもどうかと思う。
「あ、そうだ。ポチあの子と話せる?」
「できるとおもうよ。ちょっとまっててね」
ポチがテクテク近づいていき、何度かやり取りする。
「うん。うん。え、うん。ちょっとごしゅじんさまにきいてみる」
ととと、と戻ってくる。
「あのね、あのパンダさんたたかうつもりはないんだって。でもおなかすいたからたべものほしいって」
「干し肉なら少しはあるが、それでいいのか?」
「にくでもええけど、ささくいたいわって」
笹なんか持ってるわけないだろう。ダンジョンに笹持ってくるってどういう状況だよ。というなぜ訛ってる。
「笹ってこんな感じでしたっけ」
するとメルトが魔法で笹の枝を出現させる。あー、出せばいいのか。
攻撃されるとでも思ったのか、メルトの魔法の気配に反応したパンダが出現した笹に目を奪われ、のそのそと近づいてくる。
若干緊張しながらメルトが笹を口元に近づけるとムシャムシャと咀嚼を始めていく。メルト本人は少し緊張しているのはわかるんだが、側から見ていると可愛さも相まって微笑ましい光景にしか映らない。
なんだこれ。
笹を一本食い終わると、つぶらな瞳でメルトを見つめる。
「ししょう、もっとたべたいって」
しっかり食い意地が張ってやがるな。
その後小一時間、ひたすら餌やりを続けるとようやく満足したのか、その場でゴロンと横になるパンダ。
「あー、美味かった。こんな美味い笹は初めてくうたわ。おおきにって」
通訳するときは本人の口調になるポチ。最近モノマネがマイブームらしい。とりあえずパンダは満足させられたが、これはダンジョン攻略できたことになるんだろうか。
「せやせや、笹食わしてくれたお例にこれ持っていって。だって」
ごそごそと懐から、指輪を取り出すパンダ。どっから出てきたんだろうか。とりあえずメルトが受け取る。パンダが何か言いたそうなのでポチを通してメルトが会話を続ける。
「自分らこんなとこに何しにきたん?」
「ダンジョン攻略の練習ですね。特になにかを探しているわけではないのですが」
「練習やったらここのダンジョンはちょうどええかもなあ。簡単やったやろ」
「そうですね。むしろ簡単すぎて拍子抜けという感じです」
「そらあれや、自分ら結構強いからそう思うだけやで。初心者の冒険者もたまに来るけど、ワシの体見たらみんなビビって逃げていくんやで。ホンマ根性ないわ」
「初心者度合いにもよるとは思いますが、このサイズのモンスターと戦うのは結構骨が折れますからね」
「いうてもワシ戦う気はないねんけどな。痛いん嫌いやし。できたらこっから出てゆっくりしたいねんけど、体デカすぎて出られんへんねん。困ったもんやで」
「ずっとここにいてもいずれ討伐されるかもしれませんしね」
「そうやねん。ワシかて殺されるんは嫌やから攻撃されたら反撃はすんねんけど、冒険者っちゅうんはなんでイキナリ襲ってくるんや。」
「あなたが珍しいモンスターというのもあるのかも知れません。レアな素材はそれだけで価値がありますからね」
「えー、なんなんそれ。やめて欲しいわ。毛とか爪とかやったらなんぼでもあげるけど、毛皮剥がれるんは困るわ。死んでまうやん」
確かに皮を剥がれるのは死ぬのと等しい。というか、殺してから剥ぐ。それにしてもこのパンダほんとにやる気ないな。
「ほんでな、ワシもここ出たいねんけどなんかええ方法ない?出してくれるんやったなんでもするで」
「そうは言っても、我々も冒険者の端くれですから、人に害を成す可能性のある存在を無闇に野に解き放つ訳にいきませんので」
「人に害を成すかぁ。人間襲わへんって言うても信じてくれへん?人間て食うても美味しないし、ワシは笹しか食いたないねんけど。そもそもやで、ワシこの世界に生まれる前は普通に動物園におってんで。人間さんには美味しい笹食わしてもうたから感謝はしても襲う気はないで」
「この世界に生まれる前って、貴方前世の記憶があるのですか」
「せやで。死んでまう前にもっと笹食いたいなあって思てたら、神さまが生まれ変わらせてくれたんや。前は興興ってよばれてたで」
「それ神戸の動物園にいるやつじゃん」
「せやで。お嬢ちゃんよう知ってるやん。ワシは初代やで」
衝撃の事実。パンダも転生するらしい。もうなんでもありだな。パンダを
助けてやる義理はないが、マリナと同郷なら考えてやらんでもないか。
「そこまで言うならしばらくは俺たちの旅に付き合ってもらうことになるが、一応出してやれないことはない」
「ほんまに?ほんまに連れてってくれるん?いやー、めっちゃ嬉しい!」
テンション爆上げのパンダ。さっきの笹のお陰でメルトのテイム条件もしっかり満たしていたようで、すんなりとパーティー入りを果たすことになる。
しかし、これで一人一ペット体制になってしまった。
この調子だとそのうち本当に動物園を開くことになりそうだ。




