アート対シャナク
俺とシャナクのレースの番だ。
先ほどピイ助とのレースでシャナクの速さは理解できているが、果たして最後の直線で見せた速度がトップスピードだったのか。保証はない。
「見たところ冒険者のようだが、先ほどの鳥の加速はお主の力か?」
「なんでもありってことだったんで少し助け船を出してやったんだが、まずかったか」
「いや、良い。あそこまでの速度で自分を見失わないその精神力。なかなか良いものを見せてもらった。お主も全力で向かってくるが良い」
自身満々のシャナク。なら俺も全力で行くとしようか。
「それじゃあ行くよ。位置について」
審判はピイ助。翼を大きく振りかぶり、
「よーい、どん!」
振り下ろされると同時に駆ける。
飛べないことはが速度を重視するのであれば、やはり地面を蹴っての加速は必須だ。
地面、壁、を次々と蹴り推進力に変換して爆走してく。
さすがに空を駆けるシャナクと比べると直線距離でない分少し不利だが、速度は俺の方が上らしい。
一つ目のポイントを俺が抜け、そのすぐ後をシャナクが続く。
「やるではないか。少し速度を上げるとしよう」
並走していたシャナクのスピードが上がり、追い抜かれる。
俺も加速するか。
「疾風!」
並走したまま、第二、第三のポイントを通過する。
続くポイントは高度にすればここより高い。
そろそろ次の手だ。
「ブラストエア!」
風の噴出で推進力を生み、空中で加速を行う。これが俺にできる最大限だ。
「流石だ。よもや人間がここまでの高みに達するものとは思わなかった」
シャナクを追い抜き、第四ポイントを通過する。
追い抜かれても余裕を崩さないシャナク。まだ隠し玉があるんだろうか。少し楽しみになってきた。
「それでは我も本気を見せようではないか」
シャナクの魔力が膨れ上がり、新たに魔法を発させる。
「風よ。我が呼び声に答えよ」
シャナクの移動が目に見えて変化する。翼と魔法の加速のみだった今までからさらに、空中を蹴って加速するようになる。
風の魔法は変化が目視し難いのだが、圧縮された風が目視できる。
それを足場に空中を駆けている。
そんな使い方をするとは。
俺も試してみるか。
「コンプレッションエア!」
見よう見まねで同じように足場を作るが、そうそう上手くはいかない。
足場として使うには強度が足りずに踏み込んだ瞬間、逆に足を取られてしまう。
もっと強度が必要か。
身体強化、疾風、ブラストエア、既に三つの魔法を使いながらの操作はかなりの集中力を要する。
不慣れな状態でより高度な魔法の操作は堪えるな。
更に密度を高めた足場を作り踏み込む。
今度は成功で少し加速できる。
だが、このままでは弱い。
一つの足場を作るにも時間がかかる。シャナクのように駆けるという域には達していない。
考えろ。
足場一つでもっと爆発的な加速を得る必要がある。
爆発。
試してみるか。
次の足場を生み出し、踏み込む。
足が離れる瞬間に足場の圧縮を開放し、推進力へと変える。
予想以上の風圧で崩れる姿勢をブラストエアで立て直す。これは今まで幾度もやってきた芸当だ。これで追いつける!
第五の光点を過ぎ、俺たちの距離は腕一本分。
行けるか!?
爆発一つにつき、指一本ぐらいの距離が縮んでいく。
「ご主人頑張って!」
ピイ助の声援が届く。そういえば敵を取ってやるんだったな。気張るとするか!
圧縮の開放に指向性を持たせる。足裏に伝わる暴力的な爆発に耐えるため、身体強化も足に重点的に回す。
衝撃で全身が軋むが、今は気にしない。
ただ、前に。
一瞬でも早くゴールにたどり着くことだけを考えろ。
ゴールは目前。
これが正真正銘最後の一歩だ。
ありったけの魔力を込め、駆け抜ける。
さて、結果はどうだろうか。
勢い余って、ゴールを思いっきり通り過ぎる。
体勢を立て直そうとしたところで、魔力が切れていることに気づく。
まずいな、流石にこの高さは死ねる。
身体が重力に囚われ、落下を始める。
「ご主人、大丈夫!?」
ふわりと体が宙に浮く。いや、ピイ助がつかんでくれたのか。
「助かったよ、ピイ助。ちょっと魔力使い過ぎた」
「無茶しすぎだよ。ちょっとじっとしててね」
ぱたぱたとゴール地点の足場に運ばれていく。
最後の最後で締まらなかったな。反省だ。
「見事だ。よもや我を追い越すとは思いもよらなかったぞ」
出迎えてくれるシャナクが拍手を送ってくる。
「最後はほとんど博打だったんだけどな。満足してくれたか」
「うむ。想像以上だったぞ。大満足である」
「ご主人めちゃくちゃ速かった。すごい!」
ピイ助も随分テンションが高い。速さに自身があるからな。
「しかし、ここまで風の魔法を極めている人間もそうは居まい。よほどの修羅場を潜ってきたのであろう」
「それ程もないさ」
「謙遜するでない。風を司る精霊を下したのだ。誇るといい。とはいえ、そこまでの力を持っているのであれば我と契約したとて大きな進歩は見込めまい」
「そんなもんかね。だったらこいつと契約してくれないか?」
ピイ助を指さすとシャナクは見定めるような視線を送る。
「でも、僕負けちゃったよ?」
「ふむ。つかぬ事を聞くが、お主は元はモンスターであろう。いかにしてその姿に至ったのかは判らぬが、その姿になって何年立つ?」
「えーと、これに成れるようになったのは三日前かな?」
シャナクが口をあんぐりと開け、目を見開く。そこまで驚くか。
「三日か。三日でそこまで物にしているとは。であれば今後の成長が楽しみだな。あい分かった。お主名は?」
「僕は、ピイ助だよ」
「ピイ助か。良い名だ」
そうか?名前に関してはマリナなのセンスは結構ひどいと思うんだが。
「ピイ助よ、我と契約し共に歩むことを望むか?」
「うん!」
「良い返事だ。我も汝と共に歩むと誓おう。我が友ピイ助よ、願わくば我が力が汝の力とならん事を」
シャナクが腕を差し出し、ピイ助がそれに答えると、シャナクの体が光に包まれ、足首のリングに吸い込まれていく。
銀色のリングに鷹の紋章が刻まれ、嵌め込まれた宝玉が緑に変じる。
無事契約は完了。
「良かったなピイ助。これで目的達成だな」
「うん!」
ピイ助
レベル18
素質体積変化 鷹
筋力700
魔力600
器用100
瞑想600
パッシブ 魔力開放
絆
加護
種族 ウインドスパロー
ピイ助には無事に鷹の素質が付与されていた。
ついでに種族も進化していた。ぱっと見は分かりづらいが、翼に銀色の羽毛が増えている。スズメ状態の大きさが一回り大きくなるが、自分で大きさを変えられるので、あまり目だった変化ではない。
ウィンドスパロー。野生で見かける個体は風の魔法を操り、獲物を仕留める姿が目撃されている。
人間を襲うことも少なく、積極的に狩られるモンスターでもないのであまりメジャーではないが。
これで斥候問題も解決したので、いよいよダンジョンに乗り出すことになる。




