ピイ助も
マリナにしこたま集られた翌日。
資料はメルト共に読み込み、準備に時間を当てることにした。
遺跡はここから丸3日。砂漠を横断していくことになる。移動は夜間に行い、休息できそうなスポットは予め頭に入れてとくことにする。
荷車は必須になる。キャラバンに依頼することも選択肢に上がったが、遺跡の情報自体がまだギルドの管轄下のトップシークレット扱いで迂闊に部外者を協力させることが難しい。
ただ、遺跡の探索を行うのであれば斥候は欲しい。
どうしたもんか。
そんなことを考えながら資材の調達を行なっていると、奴隷商のマーケットが目につく。
斥候の能力がある奴隷がそこまですぐに見つかるか。
望みは薄いが、ものは試しだ。
テントを潜ると檻に入れられた様々な奴隷の姿がある。
ざっと見たところ健康状態は良さそうだが。
「いらっしゃいませ。本日はどの様な奴隷をお求めですか」
胡散臭い見た目の店主が声をかけてくる。どうにも奴隷商人ってのは足用が悪い。
「目端が効いて罠の解除なんかができるよう奴がいいんだが。」
「見たところ冒険者様のご様子。用途は偵察ですかな?」
「偵察兼斥候だな」
「なるほど。いくつか見繕いましょう。こちらへ」
テントの奥に通されると、獣人の多さが目立つ。入り口付近は比較的素直そうなのが多かったが、ここはなんというか、ヤサグレてるな。
「こいつらは?」
「ここにいるのは身売りをした元冒険者というところですな。技術は確かですが、借金の方に身売りしたもの、家族に金を作るため自ら奴隷になったもの、理由は様々です」
亜人は人間よりも寿命が長い。その分技術を磨くという点では人間よりも有利に働く。人間のメリットなんてのは世代交代が早い分技術の継承を行なう術にたけていること、天才と呼ばれる様な逸材が多く誕生しやすいということくらいのものだ。
「素質と経歴のリストはあるか?」
「少々お待ちください」
奴隷の顔を見渡す。
犬、猫といった獣人はもとより、ハーピーやラミアといった亜人、中には普通の人間も混じっている。
奴隷か。
昔、俺の師匠と冒険をしていた頃はお付きの奴隷が一人いた。
名前はヘイゲル。アライグマの獣人だった。師匠とは浅からぬ縁があったらしく奴隷という身分ではあったが優秀な冒険者だった。師匠が命を落とした際に、俺には冒険者としての装備や道具を残し、ヘイゲルには幾ばくかの貯えを残した。
その戦いで、師匠は命を落とし、ヘイゲルも片腕を亡くし冒険者としての生命は絶たれたに等しく、少しでも生きる術をという配慮だったのだろう。戦後のどさくさで離ればなれになり、その後はお互いに連絡もとれておらずどこで何をしているかもわからんが。
そんなわけで俺の中でそこまで奴隷に対する嫌悪感といものはないが、メルト達がどう思うかはわからん。特にメルトは一時期奴隷扱いされていた訳で思うところもあるだろう。
リストを見渡したところ、目ぼしい素質持ちの奴隷はあまりいない。
氷、千里眼、感知、この辺りが居れば話は早いんだが。残念ながらここは望み薄か。
「これで全部か?」
「ええ、当店でご用意出来るものは以上です。如何でしょうか、ご希望に叶うものはありますでしょうか」
「あまり探索向きの奴がいないな」
「申し訳ありませんですな。残念ながらこの辺りでは需要が低いのですよ。と言いますのも、この辺りはダンジョンが豊富にございますのでそういった素質は、既に精霊と契約し身に着けている冒険者が多いのですよ」
ああ、成る程。自分たちで持っているから要らないのか。となると精霊探すのも一つの手か?
店を後にして、精霊の情報を集めてみると鷹の精霊がいるらしい。
適正次第で素質が変化するらしく、最高位はそのまま鷹という素質。概要を聞いた感じだと風と遠見と直感の複合といった感じだ。あとは個人の適切で下位のものが一個か二個複合のものになる。
風と遠見で風見。
風と直感で虫の報せ。
直感と遠見で鷹の目。
遠見は目に関する強化魔法。使い方次第で可視光線の幅を広げたり出来る。
直感は一種の未来予知。例えば俺が1秒後にどんな動きをするかを見ることが出来る。
風は説明するまでもないな。
俺の場合風は素質としてあるから、マリナみたく進化させることもできそうだが。
どうにも話しを聞く限り、鷹というだけあって鳥系の獣人は結構適正が高いらしい。
うちには鳥系というか鳥はいるがどうなんだろう。要検討。
ピイ助は偵察や上空からの捜索なんかは普段からやってるし相性はよさそうだけどな。
あとは、鷹以外にも動物系の精霊は多いらしい。猫なんかもメジャーだそうだ。
精霊の情報を集める傍ついでに収集できたのは、この辺りの遺跡のこと。
砂漠という土地柄未探索の場所は多いが、結構な数の遺跡が発見されている。
遺跡とは竜の時代に天使や悪魔が活動の拠点ととして作ったもの。製作者の趣味が多分に反映されるとともに、長い年月を経てその内部は姿を変え、ダンジョンと呼ばれるようになっている。
ダンジョンの定義は様々だが、必ず共通する点としてその最奥にはコアと呼ばれる一種の動力源があり、そこから生み出される魔力を糧にモンスターが蔓延る。
モンスターが生息しているのはあくまで副産物であり、コアには別の働きがあるというのが通説ではあるが、その役目は未だ解明されていない。
厳密には、竜の時代の魔法系統はいまの魔法の理論系統とは根本が異なるので、大戦の影響で失われたというのが正しいが。
その失われた魔術系統の一部が魔法陣だ。
素質による魔法は、個人によって発動する現象が異なる。同じだけの魔力を用いても俺なら風、マリナなら太陽と結果が異なる。
逆に、魔法陣は込める魔力さえ同じなら結果は誰がやっても同じだ。作り手が工夫すれば様々な効果を発揮する。もちろん難点もある。
同じ結果をもたらすのであれば、素質の方が圧倒的にに効率が良いという点だ。
例えば、俺が俺が自分に身体強化を施す場合の消費魔力を1とすると、マリナやメルトに施す場合が3程度。魔法陣で同じ効果を発動させるとなると10程度。
それくらい非効率なのが魔法陣だ。
とはいえ、必要な魔力さえぶち込めば即座に発動出来る点。現象を自分でコントロールする必要のない点。などメリットも多い。
そのため研究は今も盛んに行われている訳だ。
と、そんなことを歴史の勉強がてらマリナに教えていたのだが、そろそろ頭がパンクしそうとのことで今日の授業はお終いだ。
「それじゃあ、ダンジョンに潜る前に鷹の精霊のところ行ってみるの?」
「そのつもりだ。方角的にはダンジョンの方角と一緒だから寄り道ついでにいくのがいいだろうな」
「ピイ助良かったね、パワーアップイベントだって」
「ぴい!」
ピイ助もやる気らしい。折角だしチャレンジさせてみるか。損するものじゃないし。
善は急げ。
気温が低くなり始めたころに移動を開始。
町の周辺はモンスターが狩り尽くされているので移動もスムーズに進み問題なく、目的の洞窟に到着できた。
砂漠の移動は夜に限るな。
日が登り始めたところでしばらくは休憩だ。
そういえば、ピイ助の首元にスカーフが巻き付けられている。
「お前それどうしたんだ。おしゃれか?」
「ぴい」
胸を張るピイ助。スズメのくせに鳩胸。どうでもいいな。
「おじさんやっと気づいたんだね。それじゃあ、ピイ助行ってみよう!」
マリナがパチンと指を弾くと、ピイ助が魔力を練り始める。
そして、ぽんと音を立て煙に包まれる。
羽毛がひらひらと舞い落ち、その姿が露わになる。
ああ、ついにこいつもモンスター辞めたのか。
そこにいたのは小さなハーピーの姿。服はしっかり着ている。あのスカーフはそういう魔道具か。
「ご主人、びっくりした?」
見た目はポチとおんなじくらいなんだが、言葉はしっかり喋れるらしい。鳥だからか。
「びっくりはしたけどな。いつからできるようになったんだ」
「昨日の昼間だよ」
俺が奴隷商のところにいた間か。メルトも満足そうな辺り共犯か。
「なあ、ポチなんで教えてくれなかったんだよ」
「おねえちゃんが、おやつあげるからひみつだよって」
くそ、こいつも買収されてやがったのか。
話を聞いたところ、変身した際の特徴はポチと大体一緒らしい。
ただ、ハーピーという種族の特徴に関して言うと、腕が完全に羽になっているので、武器を扱ったりはできないらしい。
メリットで言うと話せることになったのと、足の筋力が発達したことによる攻撃力の上昇くらいか。
足指は器用らしく、ものを掴んだりはできるらしい。
飛ぶ速度を利用して攻撃すればそこそこの威力にはなりそうだな。試しに弓を持たせてみたら器用に足で発射できている。
元の筋力には依存するので、マリナを掴んで飛行も可能。
足元が怖い以外は弓なども狙いやすいらしい。
とはいえこれで俺たちのパーティーに遂に五人目が加入したわけだ。




