閑話 マリナの日課
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃいですよ。ご飯用意して待ってるですよー」
今日も日課のトレーニングを行うために家を出る。
この世界に来てからほぼ毎日欠かさずに行っているトレーニング。
モンスターが闊歩するこの世界で生きていくためには腕っぷしは絶対に必要。いざって時に自分の身くらいは守れないと話にならない。
おじさんも師匠もおんなじことを言ってた。
まずはランニング。
走るペースよりも、走りながら魔力を練ることに意識を集中する。
これはおじさんの教えの一つ。
戦いの最中に選択肢を増やすこと。引き出しはいくつあっても困らないからどんどん増やしていくこと。
全力で攻撃しながら魔力を練れば、攻撃の後に魔法を使うという選択肢が生まれる。
魔法の種類が多ければその後の選択肢が広がる。
そういうことらしい。
だからあたしは暇さえあれば魔力を練るようにしている。
たまーに寝ながら変な魔法を使っちゃうこともあるけど、それは許してほしい。
最初のころはテントの中で光の魔法を使ってめちゃくちゃ眩しかったってこともあった。
最近はそんなことはないけど。
まあ、お漏らしみたいなもんだね。
赤ちゃんだって漏らしちゃうんだし、魔法初心者のあたしは赤ちゃんみたいなもんだったんだから仕方ない。
村を一周回る感じで走っていく。
リンネルネの周囲はそんなに距離もない。
正確に測ったことはないけど多分4キロくらいかな?
ちなみにこの世界の距離の単位はメル。1メルは1メートルだし分かりやすい。
ランニングしていると、村の人は結構朝から起きて仕事をしているところを見かける。
そんなに大きい村じゃないから、武器屋さんや雑貨屋さん、簡単な薬草やポーションを取り扱う店、食料品店、必要最低限って感じ。
店の前の掃除だったり、商品を並べたり、みんな朝から忙しそうにしている。
珍しい商品や別の地方の食べ物なんかは行商の人とぶつぶつ交換をすることも結構ある。
お金に関して言うと、銅、銀、金の4種類。銅1000枚で銀貨1枚というように1000倍で単位が増えていく。
日本円に換算すると銅1枚が100円くらいのイメージだと思う。果物のバスケットが中身にもよるけど銅貨3~10枚くらい。
「あ、リンちゃんおはよー!」
「マリナさん、おはようございます!」
ギルドの脇を通るとお掃除中のリンちゃんに出くわしたので挨拶代わりに耳と尻尾をモフる。ちょーきもちい。
「マリナさんくすぐったいですよ」
「ごめんごめん。そうだ、何か簡単なクエストある?」
朝はトレーニングがてらこうやってクエストもこなすことが多い。
「そうですねー、ツノウサギの肉集めなんかだとすぐに終わると思うのですが」
「うん。いいね。何匹くらい?」
「依頼としては5匹ですね。パーティー用にお肉が欲しいそうなので終わったらそのまま持って行ってあげるといいと思いますよ」
5匹か。それくらいならすぐに集まるかな。
「よーし、じゃあそのクエストちょーだい」
「はーい。すぐ持ってきますねー」
リンちゃんが依頼表を持ってくる間に、口笛でピイ助を呼んでおく。最近は来いって思いながら口笛を吹くとあたしのところに飛んでくるようになった。前にアランドルの街で門番の人がやってたみたいな感じ。
リンちゃんが戻ってくると同時にピイ助も来たので、籠だけ首に下げてもらって早速森の方に向かう。
「それじゃあ、ピイ助は空からツノウサギを探してね。あたしは下から探すから」
「ぴい!」
ピイ助もちゃんと言うことを聞いてくれる。
最近ポチは一緒に寝てくれない。気づいたらおじさんのベットに潜り込んでる。
いい年したおじさんが見たはロリっ子の犬耳少年と一緒に寝るのは日本だと完全にアウトだと思う。
この世界だと成人は15歳らしい。あたしも一応成人になってるんだけど、なぜかおじさんからはガキ扱いされる。
成人って言っても、働けるようになる。冒険者になれる。っていうだけでそんなに大した決まりでもない。ちなみにお酒も15から飲める。あたしはあんまり飲んでないけど。
でも、なんでおじさんのところに潜り込みに行くんだろう?
おじさんこっそりおやつでもあげてるのかな。
森に入ってしばらくすると、ツノウサギの足跡を発見。
ツノウサギはかなりメジャーな雑魚モンスター。
普通のウサギと大きさもそんなに変わらないし、角が生えてるくらいでそんなに危なくない。
角に魔力が詰まってるみたいで、粉末にして薬の原料にすることが多い。
なんで魔力が詰まってるのかは分かんないけど。
「居た居た。まずは一匹!」
草を食んでるところをパスっと弓で仕留める。
簡単に血抜きだけしていると、ピイ助が戻ってくる。
「ぴい!!」
早速見つけてきてくれたみたい。
その後もピイ助と一緒にサクッと見つけて狩ってを繰り返して、残り一匹。
森の中をうろうろしていると、目の前をツノウサギが横切っていく。
でも一瞬みたのは少し様子が違う。
一回り大きくて、角が銀色だ。
「お、あれはレアじゃないのかな」
後を追うと、丁度駆けていく背中が見える。と、弓で狙おうとしたら、めっちゃジャンプした。
「高っ!」
思わず声を上げるとウサギと目が合う。その角にはフルーツが刺さってる。あー、角はそうやって使うのか。
「キュイイイイイイイイイ!」
逃げるかなと思ったら、逆にこっちに向かって襲い掛かってきた。
うん、赤い果物を突き刺したせいで、返り血浴びたみたいになっててちょっと怖い。
果物と同じように突き刺そうと、こっちに飛び掛かってくるのを躱して、すれ違いざまに短剣で一閃。
師匠の教えその1。
相手の攻撃を予測する。
予測ができたら回避、防御、反撃。必要なアクションを行う。
可能なら複数の動作を同時に行う練習を。
今回なら、回避と反撃。
無駄な動きは少なくして、自分に有利な動作を極力多くする。
それが戦闘の基本。
銀色の角のツノウサギを仕留めて今日の依頼は達成!
「ふぅー、いい汗かいた」
早速村に戻るとしますか。
今回の依頼は現地で報告すればいいので依頼主のところに向かう。
「えーと、依頼主は。なんだ雑貨屋のおじさんのとこか」
雑貨屋さん。ほんとになんでも売ってる。ポチの首輪をくれたのもここのお店だ。
なんかパーティーするって言ってたね。良いことあったのかな?
「ごめんくださーい」
「はーい、いらっしゃいませ。おや、マリナちゃんじゃないかい。今日は何をお探しだい?」
「ううん、買い物じゃなくて依頼できたんだよー」
「お、そいつは有難い!マリナちゃんがクエスト受けてくれたのかい」
「そいことー。はいこれ、ツノウサギ五匹ね。一匹おっきいの混じってるけどサービスしとくね」
籠に入った獲物をおじさんに渡すと。
「おいおい、マリナちゃん!こいつはツノウサギンじゃないか!」
ん?ツノウサギン。ツノウサ銀?
「もしかして偽物だった?」
「逆だよ、こいつはレアものだよ。良いのかい?店にもっていけばいい値段するよ、これ」
「うーん、偽物じゃないなら貰っておいてよ。お祝いするんでしょ?あたしからのプレゼントってことで」
「それじゃあご厚意に甘えるかな。そうだ、こいつの角は持って行ってくれ、武器でも薬でも結構いい物ができるからさ」
「おりょ?角は使わないの?」
「ああ、あくまで欲しいのは肉だからな。息子が今日で成人でなささやかなパーティーを開こうと思ってるんだ」
「それじゃ遠慮なくもらっちゃう」
五本の角と一緒に報酬をもらって店を後にする。
成人祝いか。あたしもおじさんに頼んでみようかな。ちょっと時間たってるけど。
それにしてもツノウサギンって完全にダジャレじゃん。金色になったら絶対ツノウサキンだと思う。
「ただいまー」
「お帰りなさいですよー」
「お帰り」
「おかえりなさい」
みんなが出迎えてくれる。
やっぱりお帰りって言ってもらえるのはうれしいね。
「どうした、ニヤニヤして。ササっと飯にしようぜ腹減ったよ」
「別に先に食べててよかったのに」
「何言ってんだよ。みんなで食う方が飯は旨いだろ」
当然と言わんばかりのおじさん。
ほんと、そういうとこなんだよなー。
「あれ、お前何もってんだ?」
あたしが持ってる角に気づいたみたい。
「ツノウサギの角だよ」
「一本すげー光ってんぞ。ツノウサギンか?」
「そうみたい。なんか武器とかにも使えるっていってたよ」
「使える使える。ポチの剣の柄にでも着けとくか?」
「え、いいの?」
ポチが嬉しそうに尻尾を振る。そんなに喜んでくれるならつけちゃいましょう。
「あたしからのプレゼントだよ。大切にしてね」
「うん!おねえちゃんありがと!」
角はポチに渡しておく。お姉ちゃんと言って懐いてくれるポチちょーかわいい。下の兄弟が居ないあたしにとってはすごく新鮮でつい甘やかしちゃう。
「そういえばおじさん、角が金色の奴もいるの?」
「おう。いるぞ。ゴールドラビットって言ってな。なんでか知らんがシルバードラゴンの住処の近くに生息してることが多いんだよ。道しるべには最適らしいんだが、ってどうした悔しそうな顔して」
ツノウサキンじゃないんかい!
ゴールドラビット
シルバードラゴン
分かる人にはわかるネタ。
ベストマッチ!




