吸血鬼 アキム―2
俺たちが一直線に放った魔法は難なく躱される。
最初から当たるとは思ってないけどさ。
一見武器は持っていないがステゴロか?爪は素手と言えるかは微妙だが。
俺の斬撃と爪がかち合う。
「なかなかの速度だ。人間にしてはやるではないか」
この程度じゃ余裕か。全ての攻撃を的確に弾いてくる。
「フレイムアロー!」
攻防の合間を縫うようにマリナが放つ炎の矢も悉くが叩き落されていく。
「鬱陶しい!雑魚は大人しくしているがいい!」
アキムのマントが大量の蝙蝠となりマリナに襲い掛かる。
「きゃっ」
「させない!」
迫りくる無数の蝙蝠をメルトが次々と切り払っていく。
だが、さすがに手数が足りない。
背後に回った数匹がまとわりつこうとした瞬間。
「ぴい!」
巨大化したピイ助が次々と食っていく。
それ食べても大丈夫な奴か?
とりあえず後ろは任せておくか。
「それじゃ俺がしっかり相手してやるよ。身体強化!」
「ふん。下らん魔法だ」
「そいつは見てからのお楽しみだ!」
体のギアを引き上げ、再度仕掛けてく。
数合打ち合うと、この度はあっさり斬撃が通り、アキムの腕を切り割く。
「くっ、我に傷をつけるとはな。万死に値する」
随分短気なことで。
その瞬間アキムの魔力が膨れ上がるのを感じる。
右腕には練り上げられた禍々しい魔力。
「フリーズガスト!」
マズイ!と思った時には既に手遅れ。何とか回避はしたものの、完全には間に合わず、左足が氷に閉ざされる。
「ほう、よく避けたな。褒めてやる」
本命は俺を氷漬けにすることだったらしいが、状況が悪いことには変わりない。
「そいつはどうも!」
「しかし、いつまで持つかな?」
俺の周囲を高速で移動しながら次々と攻撃を繰り出してくる。
どうにか防げるが、完全に防戦一方だ。
「どうした、先ほどまでの勢いはどこへ行った!」
「やあ!」
死角から切り込んでくるアキムにポチが切りかかる。
「ごしゅじんさまはやらせない」
「犬ころがっ!」
蹴り飛ばされたポチが空中で、狼状態に姿を変じ再度挑みかかる。
この状態の方が速度は出る分、アキムとの戦闘では有利そうだ。
「ちっ、面倒な」
ポチが繰り出す斬撃は一撃一撃が重く、アキムも爪で弾くことは諦め、回避に徹している。
ポチに取っては相性がよさそうだ。
「ファイヤーボール!」
いつのまにか蝙蝠どもを追い払ったマリナが、俺の足元に向け、火の玉を放つ。
おかげで足も自由に動く。
「さあ、アキムさんよ。形勢逆転だ」
「成程。思ったよりもやるではないか。出来れば使いたくはなかったのだが致し方ないか」
パチン。とアキムが指を鳴らすと、その左右に魔法陣が展開される。
「召喚の魔術ですか」
青い顔のメルトがその正体を看破する。
「如何にも。紹介しよう。我が忠実なる僕、ゲルト、ローナ。まだ日は浅いが、二人とも正真正銘のヴァンパイアだ」
ここにきて数が増えるか。
「アキム様、私はそこな犬の相手を致しましょう」
ゲルトと呼ばれた大男のヴァンパイアがポチと対峙する。
「それでは私はそこの小娘どもと遊んで差し上げます」
ローナと呼ばれた女性のヴァンパイアはメルトとマリナに視線を向ける。
完全に分断され、第二ラウンドに突入する。
俺とアキムは打ち合いを続けていく。攻撃自体は通るが傷をつけた傍から回復していく。さすが不死というだけあって生半可な攻撃はあまり意味がない。
「やっぱり吸血鬼をぶっ殺すには、心臓を破壊しないと無理か」
「その通り。まあ、やれるものならやってみるがいい」
その言葉通り、時間を経るにつれ俺の傷はどんどん増えていく。
SIDE ポチ
「犬の分際でやるではないか」
犬じゃないもん。狼だもん。
今は狼だから声が出せない。剣を咥えてると声が出ししづらいなぁ。
「がう!」
剣で切りかかっても、さっきからどんどん腕で弾かれる。
さっきの吸血鬼は避けるだけだったのに今度のは避けない。
「粗削りだが良い攻撃だ。鍛えれば光るであろう」
褒められたみたいだけど、あんまりうれしくない。褒められるならおねえちゃんかご主人様がいいな。
でも、こいつは動きは遅い。
さっきからニヤニヤしてて何かを企んでる匂いがするのが不気味だけど。
「どうだ、我が配下として働くのであれば、その腕も鍛えてやるぞ」
やだよ。吸血鬼臭いし。
「グルルル」
「そうか。その気はないか。ならばその命ここでもらい受けるとしよう。アースウェポン!」
どこからともなく召喚された土くれが大きな剣となる。
さっき戦ったゴーレムと同じ感じがする。もしかしてあれはこいつが作ったのかな。
「喰らえ!」
石の剣が振り下ろされると同時に無数の石礫がこっちに向かって吹っ飛んでくる。
さすがに全部は見切れずに体ごと吹っ飛ばされる。
「ウガッ!」
もう怒った!
SIDE マリナ
師匠はかなり弱ってる。
ここはあたしがやるしかない。
「さて、遊んであげましょう」
あたしたちの前にいるのは、女の吸血鬼。めちゃくちゃ美人なんだけど、陶器みたいな白い肌と赤い瞳が相まって不気味さの方が際立ってる。
手には不気味なダガーを装備している。
「あんまり遊んでる暇はないから勘弁してほしいんですけどー」
「じゃあ、ささっと殺してあげるわ」
ダガーを片手に突っ込んでくるローナ。おじさんたちみたいに武器で弾いたりする技量はあたしにはまだない。
体全体を使って避けていく。
「ルーツバインド!」
師匠が魔法を発動させると、ローナにツタが絡みつきその動きを止める。
「今です!」
使用の声を合図に、あたしも短剣を構えてローナを切りつける。
刃が届く瞬間にツタを引きちぎり、自由になった腕で攻撃が防がれてしまう。もうちょっとだったのに。
「痛いだと?!そうか、その武器は銀製か!厄介なものを」
先輩からもらった武器はアンデットには効果抜群。もちろん吸血鬼も対象。感謝しないと。
おじさんがアキムにつけた傷はすぐに再生していたけど、今回の傷は治りが遅いみたい。
ってことはどんどん攻めれば何とかなるのかな。
「まずはそこの弱ったエルフさんから仕留めるとしましょうか。厄介な魔法も使ってくれるしね?」
ヤバっ、師匠が狙われるのは…。
あたしの心配をよそに師匠は向かってくる攻撃を刀でいなしていく。
まずは、援護しないと!
「フレイムソーサー!」
そういえば前におじさんが言ってたけど、アンデットは炎苦手なんだっけ。
フレイムソーサーはすごい嫌そうに躱される。
「炎に銀に、厄介ですね」
「私を忘れてもらっては困りますよ!」
あたしに気を取られた瞬間に師匠が切りかかっていく。お互いに意識を向けさせるようにすれば隙はできる!
連携を取りながら、攻撃を重ねていくと徐々にこちらが優勢になってくる。
さすがあたしと師匠のコンビ最強!
でも、それが油断だった。
思えば、今までどこかこの世界にきて浮かれていた部分もあったし、死ぬかもしれないっていう恐怖は不思議とそこまでなかった。
おじさんや師匠が守ってくれてたから。
でも、今はおじさんもいないし、師匠は自分の身を守るのに精いっぱいの状況なんだ。
頭ではわかってたんだと思う。
でも、覚悟が無かった。
その一瞬の油断を付かれて、ローナはあたしの首筋に牙を突き立てた。




