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吸血鬼 アキム―1

 ゴーレムも何とか撃破でき、この場は切り抜けることができた。


「みんな怪我はないか」


 それぞれ見渡すと、多少の生傷はあるが大けがというほどのものはない。


 マリナは意外と平気そうだが、メルトが結構手負いだな。


 俺が到達するまでのあいだ、マリナを守りつつ立ち回ったんだろう。魔力も切れてる状態で、かなり辛そうだ。


 マジックポーションを渡し、回復を待つ。


 その間に、マリナとメルトの情報を整理していく。


 探索中にこの空間を見つけた際にはモンスターなどはいなかったらしい。印象としては広い空間だなというくらいのもの。


 そして中央付近まで進んだところ、突如として足元に魔法陣が展開され、周囲にモンスターが大量に召喚された。


 ファングバットの猛攻を避けつつ、何とかピイ助を撤退させたところで門が出現し、扉が閉じられた。


 その後は俺たちが到着するまでの消耗戦だった。


 ということらしい。


 こんなところにモンスター召喚の魔法陣を設置する意味はこの先にはどうしても立ち入ってほしくないということに他ならない。


 御誂え向きに先には一本の通路が伸びている。


 この規模の魔法陣が展開されたのであれば、この先の人物も俺たちの接近には気づいているだろう。


 ここを突破した以上は、先にいる奴を追い詰める必要があるんだが、消耗が激しいのは否めない。


「メルトはしばらく休んだ方がいいか」


「いえ、魔力はかなり回復しましたのでマリナさんの護衛くらいなら何とかなります」


「分った。だが絶対に無理はしないと約束してくれ」


「承知しました」


「マリナはどうだ?」


「あたしは魔力もまだまだいけるよ。ちょっとベルが疲れちゃってるみたいだけど」


 ベルはマリナへの魔力の供給に集中していたらしい。今は実体化せずに休憩中。


「どっちかって言うと心配なのは体力だな」


「若いからへーきへーき」


 自分で言ってりゃ世話ないな。


 ピイ助は傷の治療は出来ているが、一番負担が大きかったかもしれんな。さすがに戦闘力がないこいつには厳しい場面だったろう。


「ポチもだいじょうぶ」


 ポチは元気そうだな。というかサイの角はそんなに気に入ったのか、しっかり背負ってる。しかし叩き折っただけのこれを咥えて振り回すのもなかなかだな。


 少し休憩がてら加工してやるか。


「ポチ、そいつちょっと貸してみろ」


「はい、どうぞ」


 せめて持ち手くらいは付けてやらんと、取り回しが難儀だろう。


 角の芯になる位置に穴を開けていく。角に穴をあけるくらいなら、サイクロンを凝縮してらせん状にしてやれば何とか可能だ。


 穴があけ終わったところに、メルトに心材となる枝を精製してもらう。剛性と粘性を調整できる点は魔法の便利なところだな。


 持ち手には適当に端切れを巻き付けておく。


「よし、いっちょ上がり。軽く振ってみろ」


「うん!」


 元気いっぱいぶんぶんと振り回す。さすがに獣だけあって、片手で大剣を玩ぶ様は壮観だ。


「ごしゅじんさまありがとう」


「どういたしまして」


 ないよりはまし程度にはなっただろう。


 スケルトンからは使えそうな装備だけを回収し、残りはマリナの火で焼いておく。アンデットにでもなられたらそれこそ大惨事になるのは目に見えてるしな。


「よし。先に進むぞ」


 多少は体力が回復できた。


 広場を抜けて進んでいく。道中は大した広さもなく、人が一人通れるくらいの広さしかない。


「狭いね」


「だな。今んとこ罠は無いみたいだが、無いとも限らん。気を付けていけよ」


 とはいえ、俺が先頭なので一番気を付けるのは俺なんだが。


 そのまましばらく進む。罠もなく順調。確かに俺がトラップを仕掛ける側だとしても、さっきの広場の罠を抜けてきた奴を仕留めるトラップは中々思いつかない。


 というか、抜けてくることを想定しない。


 一時間くらいだろうか、洞窟を進んでいくとまたもや扉が目の前に現れる。


「なんとも分かりやすい。この先にお目当てがいるか」


「でしょうね。嫌な雰囲気が漂っています」


「くさい」


 メルトとポチはこの先に何かを感じるらしい。


 臭いってことはもうヴァンパイアで確定だろうが。


 俺が扉を押し開けると、中から魔力が溢れ出してくる。


 目の前に広がったのはまたもや広い空間。今度は剥き出しの岩肌ではなく、しっかりと作り込まれた灰色の石造りの空間。色さえ無視すればどこぞの城の謁見の間ともとれるほどの荘厳な出で立ちだ。


 そして最も違和感があるのは最奥に鎮座する、棺。


「うわー、吸血鬼ってこんなに分かりやすいの?」


 マリナが引いている。

  

 あんまり刺激しても碌なことにはならないだろうし、黙らせておくか。


 手で口を塞ぐと、何かフゴフゴ言ってるが無視だ。


「あそこにいるよ」


 ポチが棺を指さすと同時に、中から無数の蝙蝠が飛び出してくる。


 そして飛び出した蝙蝠は一か所に集まり、人の形を形成する。


「ようこそ我が城へ。招待状を出した覚えはないのだがな」


 蝙蝠の塊が声を発する。


「すまないな。アポなしだ。少し聞きたいことがあったんで急いできちまった」


「フン。我が僕たちを切り抜けたことは褒めてやろう。あれを突破されるとは思わなかったが」


 そして、人型をかたどった蝙蝠が消え去り、中からは銀髪の男が姿を現す。


 銀の長髪、赤い瞳、牙、そして首元には獅子の首飾り。


 こいつが俺たちの探していたヴァンパイアで間違いなさそうだ。


「随分な歓迎だったよ。ところで、お前はアキムで間違いないんだよな」


 怪訝な顔をするヴァンパイア。それもそうか、向こうは俺たちとは初対面なわけだし。

 

「ほう。なぜ我が名を知っている、下等な人間よ」


「説明してほしけりゃしてやるが、こっちはお前のせいで散々苦労してるんだよ。まずは謝罪を頂きたいところだな」


「くふふふ、面白いことを言うな、人間よ。我よりも下等な貴様らがどのような苦労をしたかは知らんが、なぜ我が謝らねばならん」


 こいつ腹立つな。


 シンプルに人間を見下すのも腹が立つが、ナルシスとトな雰囲気がうざったい。


「ぷはっ、あんたのせいで村がグールまみれになったんじゃん!」


 あ、マリナに逃げられた。


「グール。そうか、あの村か。あそこにいた騎士はなかなか見込みがあったのだがな、帰りが遅いと思ったが貴様らが討ったのか?」


「あったりまえじゃん!あんな雑魚あたしたちにかかればイチコロなんだから」


 お前はあの騎士とほとんど戦ってないだろう。


 しかもあれは結構やばかったんだぞ。


「面白い。であれば我が自ら相手をしても良いのだがな。準備運動には丁度良いかもしれんしな?」


「いいじゃんいいじゃん、やったろうじゃん!あんたなんか、おじさんにかかれば…ふぐ?!」


 今度はメルトがマリナを抑えてくれる。


 こいつは話を引っ掻き回さないと気が済まないのか。


「勝手に話を進めるんじゃねぇ。別に俺たちは戦いに来たわけじゃねえんだ。場合によっては戦うかもしれんが、それはお前の目的次第だ」


「ここを知られた以上は貴様らを生きて返すつもりもないがな」


「そう言うなよ。目的くらい教えてくれてもいいんじゃないか」


「くふふふ、目的か。知れたことよ。厄介な獣人が数を減らした今こそ、我々ヴァンパイアが地上を支配する絶好の時。其の為に手駒を集めていたに過ぎん」


 ああ、そういえば獣人と吸血鬼はいがみ合ってたとかなんとか聞いたことがあるような。ないような。


 ってことはこいつらが暗躍し始めたのは、俺たちがライオネルを討伐したのがきっかけってことか?どうしてこうも面倒くさいことになるんだか。付いてないな。


「地上を支配するとはずいぶん大層だな。これもお前の仕業か」


 俺が宝玉の破片を懐から取り出すと、アキムは不思議そうに眼を細める。


「ほう。そこまで突き止めるか。証拠になるようなものはなかったはずだが。いやはや人間も侮れんな」


 この宝玉自体が証拠ではあるんだが、よくよく考えれば、ここまでたどりつけたのも偶然の積み重ねだしその反応も当然か。


「褒めて頂いて光栄だな。お陰でずいぶんと忙しかったんだぜ。せめて借りは返させてもらうとしようか」


「我は何も貸してはおらんがな。良いだろう、話すのは飽きてきたところだ。貴様らを切り刻むとしようか。なに、心配するな。殺した後はグールとして新たな生を与えてやろう。光栄に思うがいい」


 それについてはさっき全員で結論が出たところだ。





「残念ながら俺たちはグールお断りなんだ」



 マリナと俺が魔法を放つ。


 そうして戦闘が開始された。


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