洞窟探索―3
洞窟を引き返し、例の合流ポイントまで一気に駆け戻る。
時間は既に2時間を超えているが、そこには誰もいない。これは嫌な予感しかしない。
「ポチ、二人の匂いはどうなってる」
「べつべつになってからもどってきてないよ。どうしよう。なにかあったのかな」
不安そうな顔のポチの頭をわしゃわしゃ撫でつつ、可能性を考える。
1、少し遅れているだけ
2、道に迷った
3、もっとメンドクサイトラブル
この場合は3出ないことを祈りたいが、3だろうな。
「よし、ポチ。匂いを追うぞ」
「うん!」
探索は無視し、再び駆ける。
どんどんと勾配がきつくなっていく。頂上に向かって行くかのように、さらに進む。
「もうすぐ!」
ポチが鼻を鳴らす。
それと同時に、前方から、小さな塊が飛来する。
ピイ助だ。
「大丈夫か?!」
俺のところに飛び込んできたピイ助は全身に傷を負っている。
「ぴぃ、ぴい」
絞り出すように鳴く。急いでポーションを振りかけ、ポチに通訳してもらう。
「おねえちゃんたち、このさきでたたかってる。いそごう!」
何と、なんてのはこの際どうでもいいことだろう。
ピイ助だけをこっちに寄越してきたってことはピンチってことだ。
更に進むと、目の前には巨大な扉が現れる。洞窟の中に、なんでこんなものがなんて疑問を抱いている場合でもない。
「この先だな。いくぞ」
扉を抜けると眼前に広がっていたのは乱闘の光景。
広い空間のにひしめくモンスターの群れ。ボスと思しきは真ん中の巨大なゴーレム。
「おじさん!」「アート様!」
ファングバットの群れを蹴散らしながら、ゴーレムの攻撃をいなす二人。
周囲には無数の死骸が積みあがっているが、それでも空中はいまだに黒い。
一気に蹴散らす。
両腕に魔力を留め、さらに濃縮していく。
「ソニックブラスター!」
真空の刃が黒い空間を一瞬で切り刻む。見た目は地味だが威力は抜群。魔力の消費が激しいのと、生身のモンスター以外にはあまり効果がないのが欠点だが。
蝙蝠の数が大幅に減ったことで余裕が生まれたマリナとメルトに合流する。
「おじさん、たすかったよぉぉぉぉ」
「何か見つけたら戻ってこいって言ったろ。なんで扉の奥に入って行ったんだよ」
「最初は無かったんだもん」
「まんまと罠に嵌められたようです。アート様、あれを」
メルトの指さす先には、随分上等な装備をしたスケルトンが数匹。ああ、先客がいたってことか。
「マリナ、ああなりたくなかったらしっかり生き残れよ」
「あれだったらグールの方がましかも」
「ポチはどっちもやだ」
「俺もごめんだな」
軽口をたたきながら、周囲の安全を確保する。
空中の蝙蝠は全滅、残るは地上のスケルトンとゴーレム。
これで陣形も組めるが、厄介なのは相手との相性。
基本的に血肉のないこいつらには斬撃の効果は薄い。スケルトンは骨ごと叩き切れば良いが、文字通り骨が折れる。ちょっと意味が違うか。
そしてゴーレム。石でできたこいつらを切っていると、武器の方が駄目になる。もちろん矢もあんまり効果は無い。ハンマーやバリスタがあれば効果的にダメージは与えられるがそんなものはない。
魔法も効くかどうかは疑問が残る。奴の体を見る限り、さっきのアメジストが結構な量使われている。どんな効果があるかはわからんが、何らかの魔法耐性は備えていると見ていいだろう。スケルトンの中には魔法使いもいるみたいだしな。
まずはスケルトンを片付けて、ゴーレムとの戦闘に集中するべきだな。
「俺とメルトでスケルトンを片付ける!マリナとポチは援護だ。いいな!」
合図で一気に散開し、攻撃に移る。
俺の風の魔法ではせいぜいノックバックを引き起こし足を止めるくらいしか効果がない。手足を吹っ飛ばしたところで引っ付きやがるし。
スケルトンの撃破は再生不可能なほどのダメージを叩き込み活動を停止させるか、コアを破壊するか。
コアの位置は個体によって異なるが、大体は心臓のあったところか、頭蓋骨の中か。
見えればそこを攻撃するのが簡単なんだが、冒険者がスケルトンになると厄介なことに装備を身に着けているせいで場所の見当がつかない。何より装備が弓程度は弾き返す。
残念ながらここにいるのは冒険者のスケルトン。例に漏れずフル装備だ。
「骨ごと絶つ。疾風!」
一気に距離を詰め、三体のスケルトンを細切れにする。目安として達磨にして四肢をそれぞれ真っ二つにすれば大体活動は停止できる。
「私も負けてられませんね。ブランチシェイド!」
空間を覆うように展開される無数の植物。それを足場に飛び回るメルト。
死角に移動すると同時に、頭上からスケルトンを両断する。
重力を破壊力に転嫁し次々と薙ぎ払っていく。その様は命を刈り取る死神にも見える。スケルトンが生きてるかといわれると微妙なラインだが。
「フレイムソニックアロー!」
炎の推力を得た矢が次々とスケルトンを弾き飛ばしていく。
致命傷にはならないが、足を止めた奴らを俺とメルトが仕留め、その数を瞬く間に減少させる。
マリナの傍では狼状態のポチが、さっき折ったサイの角を咥え、近づくスケルトンを一撃で切り伏せていく。破壊力とは重量と速度。技量でそれをカバーする俺たち人間。純粋にそれを突き詰めたポチの斬撃。
どっちにしろスケルトンには驚異的なものであることには変わりない。
そして、さっきから俺ばっかりをねらうゴーレムの攻撃をいなしつつ、最後のスケルトンを切り伏せる。
「さて、ボス戦だ」
まずは、試してみるか。
「疾風!」
振り下ろされた腕に向かって、斬撃を合わせる。
ガキィン!
拳と刃が音を立て、ぶつかる。傷は付くが切断には至らない。やはり相性は最悪だな。
突くか。
「次は私が行きます!」
俺に続き、メルトが躍り出る。
鞘に納めた始雷からはバチバチと電撃が迸っている。
「雷刃一閃!!」
鞘走りと共に雷が宙を駆ける。瞬間的な破壊力に関して言えば俺の斬撃程度なら十分に上回れるだろうが。どうだ?
チン。
振りぬいた刀を鞘に納めると同時に、ゴーレムの腕が地に落ちる。効果ありか。
「メルト、もう一発いけるか」
「無論で、うっ…」
魔力切れか。随分無茶させちまったみたいだな。
「メルト、大丈夫だ。下がってろ」
「申し訳ありません」
しかしどうしたもんかね。恰好つけてメルトは下がらせたが俺だけじゃ決定打に欠けるのもまた事実だ。
「それでは、師匠に代わりまして、代打まりなー」
呑気な掛け声とともにマリナが俺の横に並び立つ。
「おいおい、弓じゃあいつは壊せないぞ」
「それはなんとなく見てて分かったからやらないよ。その代わりに、新技見せてあげるよ」
マリナの右腕に、魔力が練り上げられていく。
例のかめは〇波ではないらしいが、いったい何をする気なんだ。
ゴーレムの攻撃を弾き、隙を作ったところで準備は完了したらしい。
「それじゃ、いくよ!シャイニングセイバー!」
天にかざした右腕から光の刃が伸びる。
振り下ろされた光が接触した箇所が赤熱。石も鉄も宝石もすべてを溶かし進み、ゴーレムの体を中心から真っ二つに切り割く。
「どうだ!」
その声を合図に、ゴーレムはバラバラと土くれに姿を変えた。




