洞窟探索―2
木を登り、滝を超えた先には、異様な光景が広がっていた。
地面、壁、川底、天井、あらゆるところから不規則に空間を埋め尽くすように、隆起する無数のアメジストの柱。
いったいどれだけの価値があるのか想像もつかない。
金に気を取られそうになるのを振り切り、周囲の様子を観察する。
この空間を抜けられそうなのは川の上流のみ。
川に沿うように、道が続いているのは見て取れる。そして途中の柱の一本が不自然な形状になっている。
おそらく人の手によって採掘された跡。
周囲には人の気配もない。ここには既に用はないのか、あるいはこの奥に何かヒントがあるか。
進むしかないか。
一旦引き返しマリナ達を呼び寄せる。
サンプルとして少しばかり採掘して起き、ポチのバックパックに詰め込んでおく。
「この空間は異常ですね。これだけの量が自然に発生するとは思えません」
メルトの見解だ。
調査をしないことにはなんとも結論は出せないが、モンスターの老廃物や排泄物がこのような形になった可能性が高い。
ここは寝蔵だったということか。
これだけの規模になるには相当の年月を経る必要があるだろうが。
「やはり滝の下の魔力はここから流れてきたものの様です」
魔力の流れはベルに確認してもらうのが一番手っ取り早い。
メンツも揃ったし、更に奥に進むとするか。
と、進もうとした瞬間、ポチが一吠えし、獣人に変化する。
「まって、このまえとおんなじにおいする」
「この前って?」
俺が聞き返すと、うーんと首を傾げながら
「よるにむらでたたかったとき」
グールか。あれと同じ匂いがするということは吸血鬼。
宝玉はここで作られた。
それは確定でいいだろう。
「サンキューな、ポチ。この狭い空間ならそっちの方が動きやすいか?」
コクっと頷く。
「分かった。それじゃあ、これ使え」
念のため道具に忍ばせておいたクロスボウを手渡す。
今のところまともに使えそうなのはこれしかない。
「危なくなったらちゃんと、狼にもどるんだぞ」
「うん」
偉そうなことを言ってるが、この中で一番取り回しが悪いのは俺の獲物なんだがな。
柱の間を縫うように進み、川上を目指す。
アメジストの空間を抜けると細い洞窟になっている。ひんやりとした空気の中、水の流れる音と俺たちの足音だけが響く。
徐々に気温が下がっているのか、肌寒い。
マントを羽織り直す。
「寒いね」
マリナも腕を抱える。
「ここなら酸素も大丈夫だろうから、炎の魔法使っていいぞ」
それを聞くと、待ってましたと言わんばかりに両腕に炎を灯す。
「ここは魔力が濃いんだね。その辺からでもジャンジャン補充できる」
「お前、両腕燃えてるけど熱くないのか」
「鎧のお陰で意外と大丈夫なんだよね。顔が熱いくらい。でもこれくらいないとみんな寒いでしょ?」
「まあ、俺たちは助かるんだが」
「ならそれでいいじゃーん。じゃんじゃんいこう」
おかげでずいぶん温かくなった。洞窟の中はマッピングしながら進んできたが、おおよその現在位置は山の中腹。
アップダウンというよりは登りが多かったから純粋に山の中を登山した感じになるか。
俺たちの目の前には二股の分かれ道。
そのまま上に向かう道と横にそれていく道。
「どうしましょうか。分かれて捜索しましょうか?」
「その方がいいか。メルトとマリナ、俺とポチで行く。何か見つけたらここで合流だ。一時間進んで先があるようなら深追いせずに戻ってくること。いいな」
「分りました。では、二時間後にここで合流ということですね」
「りょーかい!」
そうして二手に分かれての探索。
俺たちが進むのは横道。
「ポチ、その格好で寒くないか?」
「だいじょうぶ」
しかし獣人状態のポチに荷物を持たせていると、ヴィジュアル的には罪悪感が半端じゃない。
「荷物もってやろうか?」
「ポチはちからもちだからだいじょうぶだよ」
大丈夫か。そうか。なんで俺は少し残念そうなんだろうか。
ピイ助は念のためマリナたちの方につけているので、完全にポチと二人っきりだ。
別に気まずいわけじゃないんだが、なんて考えていると俺のマントをきゅっと摘まんでくる。
「どうかしたか?」
「ごしゅじんさま、これ」
足元に落ちていた毛を拾い俺に突き出してくる。
これは見覚えがあるな。
白銀の体毛。
そう、シルバーベアだ。
「おねえちゃんとおんなじにおいがする」
「マリナの装備にも同じ毛使ってるからな。よくわかったな」
「うん。でもほんとにおなじだよ」
「ん、それは同じ個体って意味か?」
「うん」
俺たちの前に現れた個体の毛がここにある。
偶然ってわけじゃないんだろうな。
「ポチこの匂いはどこかに続いてるか?」
「あっち」
そう言って洞窟の先を指さす。
まずはこれを追ってみるか。
しばらく進むと、洞窟の先には光が差す。外に通じているらしい。
洞窟を抜けると目の前に広がっていたのは雪のちらつく林間部の光景だ。
するとポチが周りをきょろきょろ見渡し、ぽんっと手を打つ。
「ポチここしってる」
「きたことあるのか?」
「うん。ちっさいころはここにいたの」
ポチの生まれ故郷らしい。ということは山の反対側に出たってことか。
この辺りは秘境とまではいかないが、人も滅多に立ち入らないためモンスターも強力なものが多い。シルバーベアくらいなら十分に自然発生するだろう。
ポチの案内でシルバーベアの匂いを追うと、巣穴のような場所にたどり着く。
中には、少し暴れた形跡もある。毛と血痕。時間はずいぶん経っているが。
「いやなにおいもする」
嫌な臭い。吸血鬼の匂い。
ここでシルバーベアに例の宝玉を埋め込んで村の方に向かわせた。ってところか。
吸血鬼の匂いは残念ながら追えそうにない。
ここは引き返してマリナたちと合流するしかないか。
巣穴を出ようとした瞬間、足音が周囲に響く。
ずんと体に響くそれは、かなり大型のモンスターのものだ。
姿が見えないことには対策の立てようもない。
「ポチ行くぞ!」
「うん!」
二人で一気に巣穴を飛びだし、モンスターの姿を確認する。
「こいつは厄介だな」
目の前にいたのは大型の四足獣。頭部に備わる角。
サーベジライノスと呼ばれるサイのモンスターだ。かなり大型の個体で体高は3メル、全長は7メル、角は大剣と見紛うほどの大きさと輝きを放っている。
飛び出してきた俺たちを一瞥すると、立ち去る。かに見えた瞬間、巨大な角を横なぎに振りぬいてきた。
どうやら見逃してはくれないらしい。
まずはあの角をどうにかしないとどうにもならんか。
ポチのボウガンであの皮膚は抜けなさそうだな。
「ポチ、いったん巣穴に荷物置いてこい。それがあったら戦い難いだろ」
「わかった」
マリナたちとの合流も考えたらあんまり時間もかけられないな。
こいつは流石に二足歩行はしないだろう。となると、脅威はあくまで角と突進。
だったら真正面から叩き折るか。
ここは敢えて距離を取り、魔力を練る。俺が魔法を放つと踏んだんだろう。案の定、サイは突進を仕掛けてくる。
「疾風」
サイの突進と俺の突進。相対的に見れば俺の速度は増し攻撃の破壊力が増すことになる。さすがにあの角を折るのは相応の威力が必要そうだからな。利用させてもらう。
すれ違いざまに振りぬいた刃が角の根本を捕らえ、空に散らす。
「ギャアオオオオオオオオオオ」
絶叫が響く。
止めを刺すべく振り返った時には既に決着が付いていた。
跳ね飛ばされた角を咥えた狼状態のポチが、その角をサイに深々と突き立てている。
心臓を一突き。
「ポチ、よくやったな」
「わふ」
素材は後で回収するしかないか。
まずはマリナたちとの合流を急ぐべく、洞窟へと引き返す。
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