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空から降ってきた少女

 今日は最悪の寝覚めだった。


 何度見たか分からないあの夢。


 あの夢を見るたびに自責の念に駆られてきた。俺が獅子王に留めをさせれば、もっと早く奴の動きを封じられれば、


 たらればなのは分かる。


 でも、あいつはこの世界にたった一人召喚されて、この世界の為に散ったんだ。


 あいつにとっては生まれ故郷でもない、家族がいるわけでもない。


「困ってる人達が居るんだろ?住む世界なんて小さなことだろ」


 誰より優しく、誰よりも強い、俺の親友。


 あいつの最期の言葉は今でも忘れない。



「これで平和になるかな。後はお前たちがこの平和を守ってくれ」


 最後まで他人のことばかり気にしてやがったんだ。



 煙草に火を付け、嫌な気分を消しとばす。


 紫煙を薫せながら、外を眺めると雲一つない快晴の空が窓の外には広がっている。



「今日こそは畑仕事だな」


 ここ数日は、雨が続いたせいでろくに作業が出来なかった。今日こそは種まで撒きたい。


 ベッドから這い出し、着替えを済ませたところ丁度呼び声がかかる。


「アート、朝食できたですよー」


「今行くよ」


 階下に降りると、テーブルには俺の分の食事が既に用意されている。


 野菜のスープとパン、ヨーグルト。デザートには柑橘。


 俺の分とリックの分、2人分の食事がテーブルに並ぶ。2人分とは言っても、リックの分は妖精サイズだから、0.3人前くらいだが。


「今日の飯も旨そうだな。昨日の野菜は出来良かったか?」


「はいですよ。ニンジンは甘くて美味しいので、いい感じですよ」


「そりゃ楽しみだ。いただきます」

「いただきますですよ」


 まずはスープ。

 

 確かに旨い。野菜の旨味がしっかり出ている。シンプルだがいい味だ。


「なあリック今日は畑行ってくるから、昼飯も頼めるか」


「サンドイッチでいいですよ?」


「ああ頼む」


 風の妖精 リック


 もともとは俺の師匠の相棒だったが、師匠が亡くなってからは俺にずっと付いている。


 素質が風の俺の魔力とは相性が良いらしく、何だかんだで一緒にいる。お互いに師匠には世話になりっぱなしだったから、心の隙間を埋めたいだけかもしれないが。


 掃除、洗濯、料理と万能な家事スキルには世話になりっぱなしだ。その代わりに俺は魔力を提供する。それでウィンウィンらしい。


「ご馳走さまですよ」


 一足先に食べ終わったリックが厨房に引っ込んでいく。


 ほんとちっこいのによく働くな。


 俺も今日は一仕事だ。



 リックが弁当を用意してくれている間に、支度を整える。最低限のアイテムポーチと鍬。


 この辺に出るモンスターならそこまで大した装備も必要ないしこれでいい。


「よし、準備完了!」


「お弁当も準備完了ですよ!」


 リックが包みを抱えて飛んでくる。

 

「それじゃ、行ってくる」


「行ってらっしゃいですよー」


 リックに見送られながら畑へと向かう。


 俺の住むリンネルの村は街から一時間くらいの距離になる。


 街の周囲はすっかり整備され、今では草原の広がるのどかな地域になっている。


 この村くらいまで離れると、木々も生い茂るようになり、モンスターもそこそこの数がみられるようになる。


 基本的には人を襲うようなモンスターはすぐに駆逐されるので、無害なものや、それこそ子供でも討伐できる程度の奴しかいないのが現状だが。


 畑には向かう最中は鳥のさえずりを聞きながら歩を進めていく。


 たまにはこういう平和な日常もいいもんだ。


 引退したら農家にでもなるかな。


 そんなことを考えていると、目的地に到着。



「さーて、お仕事の時間だな」


 鍬を構えて、土を掘り起こす。


 地味な作業だが、こうやって土を柔らかくしないと根も張れないからな。




 しばらく手を動かしていたが、さすがに人力には限界がありそうだ。


 使えるものは何でも使う。それが俺たち冒険者だ。


 魔力を練り上げ、幾度使ったのかわからない魔法を発動させる


 身体強化。


 スピードでも、パワーでも、頑丈さでも自分の能力を位のままに引き上げる便利な魔法だ。


 便利ではあるが、他になにかできるかと言われれば、応用は効かないのが悲しいところだ。


 そんなことを愚痴っても仕方ないか。


 魔法の効果で作業効率は何倍にも跳ね上がる。


 二時間も作業を続けると、すっかり畑が耕し終わる。



「だぁー、やっと終わった。時間もちょうど昼時か」


 いったん鍬を下ろし、昼食タイムだ。


 畑の脇の芝に腰を下ろし、リックの持たせてくれた包みを広げ、サンドイッチを取り出す。


 鶏肉とトマトのサンドイッチか。


 一口かぶりつくと、トマトの果肉が口に広がり、後から肉のうまみが追いかけてくる。


 リックの作ってくれたごちそうに舌鼓を打ちながら、空を眺めると朝と変わらずに青い空、


 太陽は燦燦と輝いている。


 だが、違和感が一つ。


 見上げた太陽に黒点が一つ。


 なんだあれ。


 目を凝らしても特に何か正体が判明する訳ではないが、しばらく眺めていると徐々に大きくなっていることがわかる。


「なんだあれ」


 身体強化を目に施し、視力を高めていく。


 うっすらと視認できるのは、黒点だと思っていたのはどうやら人らしい。


 なんであんなところに人がいるんだよ。


 亜人の中にはハーピーみたいに空を飛べる奴もいるから、空に人がいること自体は


 そこまで不思議な事ではない。俺もその気になれば無理やり空中で戦うことくらいはできる。


 更に意識を集中させ、五感を研ぎ澄ませる。



「    けて    ちる    る 」


 何か叫んでるな。


 距離がありすぎて聞き取れんが。

 

 状況から考えても、落ちてきてるよな、あれ。


「仕方ねえ。助けてやるか」


 地上に激突するまではまだ時間はありそうだが、刻一刻とその姿がはっきりしてくる。


 そこそこの長さの髪ががはためいているいるし、たぶん女か。


 目の前で人がぺちゃんこになるのは勘弁願いたいもんだ。


 この高さならいけるか。


 一気に魔力を練り上げ、脚力を限界まで高める。


 地面を蹴り飛ばし、空へと舞い上がる。


 地面が抉れちまったがそこは目を瞑ってもらおう。


 距離がどんどん詰まっていくとともに、女の姿がはっきりしてくる。


 風圧で髪が巻き上がっているが、長さは大体肩ぐらい。


 スタイルはまあ、悪くないな。


 顔は・・・・


 涙と鼻水でぐしょぐしょになっているが、造形はいいはずだ。たぶん。


 あとは初めて見る服を着ているな。


 どことなく、船員たちが身に纏うようなセイラーにも似ているが。


 紋章というか、何かのマークが胸元についているあたり制服の類だとは思うがよくわからんな。


「助けてえええええええええ、落ちてるううううう」


 近づくにつれて声もはっきり聞こえててくる。


 完全に気が動転してるな。無理もない。


 俺も風の魔法なしじゃこの高さは怖い。


「もう大丈夫だ、いったん落ち着け」


 女のところまでようやくたどり着く。


 とりあえず、安全を確保するために体を抱き寄せる。


「どうなってんの?!ねえ、あたしなんで落ちてんの?!」


「その話は後だ。舌噛まないように口閉じてな」


 コクコクうなずいた後、むっと口を紡ぐ。


 さて、地面までは後数秒。


 俺一人ならこのまま落ちても問題ないが、こいつが無事に済む保証がない。


 ちょっくら派手な着地になるが勘弁してもらおう。右腕に女を抱えながら、空いた左手に魔力を集中させる。


「ブラスト・エア!」


 風の魔力を一気に解き放ち、下から竜巻を発生させる。


 重力と打ち消しあうほどの強烈な竜巻をが俺たちの体をふわりと持ち上げる。


「ああああああ、パンツ見えてるううううう」


 風に巻き上げられ、女のスカートがまくれ上がる。


 ちなみにさっきからずっと見えてるから今更ではある。


 そのまま魔法の出力を絞り、ふわりと体を着地させる。


 これでケガもないだろう。何とかなって一安心だ。


「あたし、助かったの?」


「なんで空から落ちてきたのかは知らんが、とりあえず生きてはいるみたいだぞ」


 まだ状況がしっかり呑み込めていないのか、恐怖やら何やらで気が興奮しているのか、女に落ち着きがない。


「とりあえず状況を整理しようか、茶でも飲みながらゆっくり話そう」



 これが俺とマリナの出会い。


 この時の俺は、これから俺に待ち受ける更にめんどくさい状況なんて想像もしてなかったけどな。

主人公二人がようやく邂逅。


これから物語が進んでいきます!

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