蜂と熊
「それじゃあ、この依頼とこの依頼、あとはこいつも」
丁度、依頼を選定し、カウンターに持ってきたところだ。
「かしこまりました。それでは、お名前確致しますので、カードをお願いします」
自分の身分証とも言える冒険者カード。
そこに記された名を目にし、ギルドの受付は胡乱な表情を浮かべた。
「失礼ですが、あのアート様でしょうか?」
「「あの」がどれを指すのかはわからんが多分そうだぞ」
「まさか噂の歩く事件簿がこちらにいらっしゃるとは思わなくて。もしかしてこの依頼何か厄介な点でも?」
「いや、実入りがよさそうだから見繕っただけだ。にしても俺の名前はやっぱりそっちが有名か」
「でも、悪い噂ばかりではないですよ?先日もゴブリンの集落を落としたとか」
意外と耳が早いな。喧伝したつもりもなかったんだが。
「まあ、そんなこともあるさ。俺が来たことはあまり広めないで貰えるとたかるんだが」
「手遅れじゃないですかね……」
そう言って受付が後ろを指さすと、ニヤニヤと好物のお菓子をもらったような笑顔をした冒険者が数人。
「おーい!噂のトラブルメーカーだぜ!!ここはいっちょ面白い話でも聞かせてもらおうじゃねえか!」
全く。これだから冒険者ってのはバカばっかりなんだ。
もちろん俺も冒険者だからそういうのは嫌いじゃないがな。
「おいおい、俺の事情もだな……、全然逃がしてくれる雰囲気じゃねえな」
諦めた俺の前には右から酒、左から飯と運ばれてくる。
そして最初に声をかけてきたドワーフの冒険者がジョッキを構える。
「疾風の斧槍アート様の苦労話、ぜひ聞かせてもらおう。なあ、みんな!」
「「おおー!!」」
カンと小気味良い音とともに、ジョッキが打ち付けられる。
仕方ない。ここは少し、付き合ってやるか。これも情報収取の一環だ。
今日の夜は長そうだ。
翌朝、二日酔いの頭を抱えながらベッドから起き上がる。
「ちくしょう、呑み過ぎた。メルトに回復魔法してもらったらよくなるか?」
術者の能力次第だが、回復魔法は二日酔いにも効果がある。
メルトを探してふらふらしていると、先にマリナに遭遇した。疲れた顔をしながら「おはよー」と一声挨拶したかと思えば部屋の方へ戻っていく。二度寝か?
「マリナー、メルト起きてるか?」
「いやいや師匠はギルドに報告しに、ポートレイクに行ったじゃん」
そうだった。すっかり忘れてた。
「っていうか昨日はずいぶん飲んだね?」
「すまんな、ギルドで冒険者連中に捕まっちまって。少し情報も持って帰ってきたからチャラにしてくれ」
「あたしは別にいいんだけどね、それより二日酔いとか大丈夫?」
「いや、頭痛がひどいな。あとで薬買ってくるわ」
薬草で我慢するしかないか。ヘミル草かな。鎮痛作用はあるんだが、いかんせん苦い。
「じゃあ、あたし着替えてから朝ごはん行くね」
「俺も先に薬草買ってくる。食堂で集合な」
「はーい」
飯を食い終わった後に、薬草をかみしめる。まさに苦虫を噛み潰したような顔をしていると、ポチが心配そうに指を舐めてきた。
金策がてら受けたクエストとギルドで得た情報を整理しておく。
受けたクエストは三つ。
1、山脈付近で発見されている、レッドスネークの調査
2、アーマービーの巣の破壊
3、月光花の採集
レッドスネークはこのあたりでよく目撃される、ホワイトスネークの変異個体。火炎に対する耐性が強く、自身も魔法を使える。炎の妖精あたりを捕食した結果強化されたとも言われる。
アーマービーは大きさ1メル近くの大型の蜂。生態としてはそこら辺の蜂に準ずるが、その大きさと、外殻の強度、毒針による攻撃が強力なモンスターだ。基本は山奥に営巣するが、どうやら分蜂された群れが近くに巣を作ったらいい。
そして月光花。満月の夜にのみ花が咲く植物。この辺りの山には比較的多く自生している。その効能は体の代謝機能を大幅に高めるというもの。ヘタな回復魔法よりよっぽど効果がある。これを精製することでかなり効果の高い高ランクのポーションを作成できる。
採集自体は特に難しいこともないのだが、問題は周辺に生息するモンスター。夜になると活動が活発化するものが多く危険が付きまとう。ということ。
そしてこの周辺で最も危険なのが、グレイベア。グレイベアの上位個体がシルバーベアだ。
夜に視界が悪いことを考慮すると危険度は昼間に戦ったシルバーベアに匹敵する。そのため、そこそこ手練れの冒険者でなければ、安易に森に入るのは危険という訳だ。基本的に縄張りに入りさえしなければ無暗に襲われることもないので、そのあたりを上手く見極められる者は安全に採集できるだろう。
金策に当たっての情報はそんなところ。
メルトがどれくらいで合流できるかは確定しないが、少なくとも二日は合流できないだろう。
今日は森に入り日中に、アーマービーを片付ける。早めに仮眠をとり、月光花を採集しに再度森に入る。
翌日にレッドスネークの調査を行って、メルトとの合流を待つというスケジュールだ。
あまり夜に森に入るのはおすすめできないがマリナの経験を積むという意味ではやっておくべきだろう。
「なんか質問あるか」
一通りやることを伝えたところでマリナに振ってみる。
「レッドスネークってやっぱりでかい蛇ってこと?」
「そうだな。お前の嫌いな爬虫類だ」
「この前でっかいトカゲと戦った時なんだけど、たぶんスキルの影響で体が勝手に動く感じだったんだけど大丈夫かな」
「レプタイルキラーだったか。名前的に若干狂化も混じってるんだろうな。そのうち慣れるとは思うが、無理しないように本気で危険だと思った退くことを忘れるな」
「うん。気を付ける」
「ポチも気を付けてやってくれよ」
「ワン!」
早速、クエストをこなしに森に出る。
アーマービーは案外すぐに見つかり、巣もすぐに見つかった。数百の蜂があふれかえる巣は森の奥にひっそりと佇んでいる。馬鹿みたいにでかいんだが。
一匹ずつ処理していると日が暮れそうなので、マリナの魔法で一気に焼き払う。
外殻が硬いとはいえ、所詮は虫。熱には弱い。
燃え盛る巣から、一匹また一匹と蜂がはい出してくるが、飛び出た瞬間にピイ助が喰う。
熱くないんだろうか。
パクパク食っていると、湧いてくるスピードもどんどん遅くなる。
そして最後の一匹を食ったところで、巣からは何も出てこなくなる。出てきたのはせいぜい50匹くらいだろう。残りは蒸し焼きか。
最後に残ったのは炭化した巣。
女王蜂の有無を確かめるべく、巣を割進めると、ちょうど中心に一際デカい個体の死骸が見つかる。女王蜂だな。蒸し焼きにしたことで外殻は綺麗に残っている。
女王の外殻は兵隊達と比較にならないほどの強度を秘めている。防具の素材としては一級品だ。
巣の破壊の証として一部をギルドに提出するが残りは頂くことにしよう。
兵隊蜂の外殻も素材としてはそこそこ使い物になるので、馬車に摘める程度は回収しておくことにする。
蜂の縄張りになっていたことだしキャンプ地にするには丁度いいだろう。
飯には蜂の子の丸焼きが腐るほどあるしな。
マリナは食うのに抵抗があったみたいだが、一口食った後は結構バクバク食い始めた。見た目は確かに虫だが、味は良い。
ピイ助もポチも気に入ったらしい。
まだ太陽が沈んでいないが、仮眠をとっておくにはいい時間か。
「それでは見張りは私が行っておきましょうか。さっきは活躍できませんでしたし」
「そいつは助かるな。よろしく頼む」
「ベルありがとう!」
転寝を繰り返していると、何やら周りが騒がしくなり目が覚める。
「起きてください!!熊です!」
ベルの声で飛び起きテントからはい出すと目の前には、さっき破壊したハチの巣に群がるグレイベアの群れ。
「そうか、蜂蜜か」
熊どもはしきりに巣の残骸から蜂蜜、蜂の子、蜂の死骸を次々に捕食している。
俺たちには目もくれず、食事を行う熊の群れ。その数は十匹。
「全部相手にするのは流石に厳しいか」
「でも、逃げられそうにないですよ…」
ベルの視線の先には森の奥からさらに現れる無数の熊。
「なあ、森中のやつが集まってきてるんじゃないか」
「蜂蜜は熊さんの好物ですからね。おそらく、マリナさんが焼いたおかげで匂いが森中に広がったんじゃないですか」
最悪じゃねえか。
しかも、森の奥から続々とグレイベアが湧き出してくるこの状況。馬車をおいて逃げるのは不可能。おそらく馬車の中の蜂の外殻もそのうち狙われるだろう。
やるしかないか。
「おい、ベル。ここは俺が抑えといてやるから、マリナと一緒に馬車で撤退しろ。今なら熊はどもは蜂蜜に夢中だろうから、月光花の採集も安全に行えるはずだ」
「分りました。アートさんもご武運を」
「おうよ」
出発した馬車に襲いかかろうとする熊を抑え込み、マリナたちが脱出するのを見届ける。こいつらを全部倒す必要もないので、適度に抵抗できないように痛めつけておくか。
あんまり倒し過ぎてもこのあたりの生態系が崩壊しそうだし。
「グルルルルル」
一際大きな個体が俺の前に躍り出てくる。熊はそこまで群れる生物でもないからボスというのも変な話だが、実力者という点では正しいだろう。
ほかの個体も様子を見守っている。
一騎打ちか、丁度いいな。
「さて、ちょっと遊んでやるぞ」
「グアアアアアアアアアアアアアアア!」
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