ホールイートへ
「それじゃあ、旦那世話になったな」
「こちらこそ、何から何までお世話になりました」
二晩世話になった宿屋に礼を告げ、出立の準備を行う。馬車関係はマリナに任せ、俺は一旦防具を取りに向かう。
鍛冶屋の青年には「旦那、愛されてるねぇ」とからかわれたが全く心当たりがないのはどうすればいいんだろうか。
メルトがしばらくパーティーから離れることになるので、基本的にはマリナと二人か。
「ワン」
「私もいるけんですけど」
訂正。二人と二匹。
「私って数え方、匹なわけですか?」
「厳密には人間じゃないしなぁ。精霊って数え方特にないだろ?」
「そう言われるとなんとも言い難いですねぇ。でも、実体化しているときは人でお願いしたいです」
「ベルはベルでいいんだよ。数え方なんてどうでもいいじゃん!」
マリナの言葉に感動したのか、ブレスレットがピカっと光ったかと思えば、ベルが勝手に実体化しマリナに飛びつく。犬かよ。
「わふ?」
呼んだ?と首をかしげるポチ。待て、お前は狼だし、なぜ俺の思考が読める。俺はそこまでわかりやすいのか?
「おじさん、他にやり残したことない?」
「おう。準備オッケーだ。そろそろ出発するとするか」
ホールイートまではちょうど日暮れまでには着く距離だ。
予定よりもすこし遅れたがまあ、想定内としよう。
「アートさん、一つ提案が」
長い髪をなびかせ、はいっと手を挙げるベル。マリナが「どうぞ」と続ける。
「お前が進めるんかい」
俺のツッコミはスルーされそのままベルが続ける。
「それでですね、私が御者をやろうかなと思いまして」
「どうしてまた?」
「そうすれば、その間にお二人は休めるでしょう?私は基本的に睡眠なども必要ありませんし。御者をするだけなら長時間の実体化でも問題ないと思いますので」
「なるほど。そいつは有難いな。マリナ、せっかくだベルに教えてやってくれ。俺は寝とく」
「ほいほい。たまには、おじさんも休んでてよ。それじゃあ、ベル。早速やってみようー」
「なんかあったらすぐ起こせよ」
「心配症だなー。分ったよー」
呑気なもんだ。まあ、たまにこういうのもいいだろ。
馬車が出発し、荷台の中には俺とポチ。特にやることもないのでポチのブラッシングでもしてやるか。
櫛を入れてやると気持ちよさそうに目を細める。
「ん。ずいぶん毛並みがよくなったな」
以前と比べて毛の手触りが良い。ごわごわだったような手触りがかなりふわふわに。栄養状態の問題だったらそこは改善されたということになるんだろうか。
後は触った感覚では筋肉量は増えている。
こいつも俺たちの戦いに付き合ってずいぶんと色々戦闘したからな。
メルトが合流したら久々にレベルも確認してみるか。
俺の見た範囲であれば一番成長しているのは間違いなくメルトだろう。次いでマリナ、ポチ。成長という観点でいえば、俺が一番下だろうな。
揺れが心地よく、次第に意識が薄れていく。
一旦寝るか。
---------------------------------------
SIDE マリナ
「そうそう、そんな感じ。ベルは飲み込み早いね」
「マリナさんのおかげですよ」
それだとおじさんの教え方が下手ってことになる気もするけど。気にしないことにしよう。
「それはそうと、先日のグールとの戦いで、例の作戦が上手くいてよかったです」
「バタコさん作戦のこと?大成功だったね」
「あれも、アニメ?の真似ですか」
「そうそう。自分でチャージするのはまだまだ苦手だし、ベルに協力してもらったら上手くいくかなって」
かめはめ波を出すには時間がかかるのが難点だし。
「ベルはそこら辺の魔力を操って、魔法の塊が出せるんだよね。どうやってやってるの?」
「言葉にするのが難しいですね。少し体験してもらいましょうか」
ベルがあたしの手をとりそのまま魔力を集める。
んー、なんとなく周りから吸い寄せていくようなイメージなのかな?普段魔法を使うときって自分の中の魔力を使うんだけど。それとはやっぱり全然違う感じ。
「こんな感じというと不親切ですけど、こんな感じなんですよね」
「分るような分らないような?ちょっと練習してみないとダメかな」
「そうですね。慌てずに少しずつやっていきましょう。コツさえつかめばできるようになるはずです」
そのまま、手綱はベルに任せて魔法の練習を続ける。
三時間くらいそのまま練習を続けていると、ようやく周りから集めた魔力だけで、ちっさな火の玉くらいは出せるようになった。
夢中でやってたから気づかなかったけど、お腹すいたなぁ。
そろそろお昼の時間だし、おじさん起こした方がいいかな。
どこか休憩できそうな場所を探そう。
なんて考えていると、頭の上を大きな影が通り過ぎていく。
「なんだろう」
空を見上げると大きな鳥が飛んでいる。っていうか見た目は完全にスズメ。二メートルくらいあるけど。
「アレってモンスター?」
隣にいるベルに尋ねるとこくんと頷く。
「モンスターと言っても、戦闘能力は高くないですよ。主食も基本的には虫ですし」
「じゃあ、無視しててもいいかな。むしだけに」
「マリナさん?」
珍しくベルが不思議そうな顔をして私を見てくる。ただのダジャレだよ?
「ベルにはまだ早かったかな」
「いえ、ダジャレは理解できますが、いまのは」
「そこまで!それ以上は言わせないよ」
それ以上は傷つくので言わないでほしい。
ベルとじゃれていると、上空を飛んでいたジャンボスズメ(仮)が地面に向けて急降下していくのが見える。
「餌でもみつけたんじゃないですか?ほら、あそこにビックワームの巣穴がありますし」
「あ、ほんとだ。地面に穴が空いてるね」
穴に頭をつっこみ、ごそごそやっているかと思えば一気にズぼっと引き抜く。その嘴にはでっかいミミズ。
「キモっ!」
「私的には等しくモンスターですが、マリナさん的にはNGですか」
「普通の大きさならぎり耐えれるけど、3メートルもあるのは無理。うわー、ってかやっぱりあれ食べるんだね」
「せっかく見つけた獲物ですから食べるでしょうね。この世界は弱肉強食です。ほらあんな風に」
あたしが目を逸らしていた間に、今度はジャンボスズメ(仮)が襲われていた。あのモンスターどこかで。
「ジャイアントカメルーンですね。マリナさんの腕の装備の材料もあれが元なのでは?」
ああ、思い出した。あたしを丸飲みにしてくれた宿敵さんじゃありませんか。あの時の借りはここで晴らしてくれよう。
「ベル、あたしちょっと暴れてくるから止めないでね」
「ちょっと、マリナさん?様子おかしくないですか?おーい」
なんでろう。ベルの声が遠いなぁ。それに、すっごくイライラする。あのトカゲは絶対に仕留めてやる。
気づいた時には体は勝手に走り出して、スズメに向かって伸びていた舌を短剣で切り飛ばす。そのまま、何が起きたのか理解できずに苦しむトカゲの腹に炎を纏った矢を連続で叩きこむ。
「フレイムソーサー!!」
内側から燃やされて苦しむトカゲにさらに追い打ちをかけ、炎の刃でその体を切り割く。
一回。二回。三回。
トカゲが苦しみながらも反撃してくる。近づいてくるあたしを払いのけるようにその大きな腕を振るう。
でも、当たらない。
軽く距離を取って体を逃がして、今度は火球を連続でトカゲに浴びせていく。
「ぐ、ぐ、ぐぎゃああああああ」
断末魔かな。最後に一鳴きし、トカゲは動きを止める。
その瞬間にさっきまでのイライラした気分が嘘みたいにすっきりする。
「あれ、あたしどうして?」
目の前にはでっかいトカゲの死体と、足を怪我してつらそうなジャンボスズメ。それにきょとんとしているベル。
「マリナさん、正気ですか?!いきなり飛び出したかと思えばジャイアントカメルーンをボコボコにして」
「わかんないけど、体が勝手に動いちゃって。心配させてごめんね」
「いえ、無事ならそれでいいのですよ。それと、この子はどうしましょうか」
そこには苦しそうに呻いているジャンボスズメ(仮)。うーん、このまま放っておくのもかわいそうだなぁ。
「この子って別に危なくないんだよね?」
「少なくとも人間にとっては美味しい鳥肉くらいの価値しかないはずです。戦闘力もほとんどないですし」
「なら、助けてあげてもいいのかな?これで直してあげるね」
ポーチからポーションを取り出して、怪我をしている足の方に振りかけてあげると傷はみるみる塞がっていく。
「ピぃ?」
「もう大丈夫だよ。今度は襲われないように気を付けるんだよ」
そしたらぴぃと一鳴きして、額をすりすりしてくる。意外とかわいいなー。しかも羽毛がもふもふしてて気持ちい。
「よーし、よーし。いい子だねえ。それじゃ、アレ上げよう。ちょっと待っててね」
馬車の荷台にケルフェアの実を取りに行く。ごそごそやっていると、おじさんが寝ぼけた顔でこっちを見てくる。
「あ、おじさんおはよう。お腹すいたからご飯作ってー」
それだけ伝えてすぐにジャンボスズメのところに戻る。
「はいどーぞ」
「ぴぃ!」
おー、食べたー。かわいいなぁ、ちくしょう。
「なあ、これどういう状況なんだよ」
起きてきたおじさんがすごーく変な顔してる。ちらっとベルの方を見ると、視線を逸らされた。あれ、これはあたしが説明する流れかな?




