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復興支援

 朝になって目を覚ますとメルトとマリナとポチと四人でごっちゃになって寝ていた。


 大方俺の看病をしてくれていて、疲れて寝てしまったってところか。


 俺が言うのもなんだが、若い女の子が無防備すぎやしないかね。


「どう思うよ、ポチ」


「わふ?」


 分らん。という返事だ。さすがに狼に貞操観念の話をしても仕方ないか。それにしてもこいつ、最近コミュニケーションの質が上がったな。


 そのうち喋るようになったりして。


「アートさん。お目覚めですね。無事で何よりですよ」


「ベルか。おはよう。心配かけて悪かったな」


「私は何もしてませんよ。お礼なら、そこのお二人に」


「そうだな。まあ、疲れてるだろうし今は寝かせておいてやるか」


「どちらへ?」


「昨日のお片付けってところだよ。ポチも飯くわしてやるから付いてこい」


 二人はベルに任せて、尻尾を振り振りするポチを連れ立って階下に向かう。


「おはようございます、ずいぶん酷い怪我のようでしたがもう起きても平気で?」


「ああ、昨日は騒がしくして済まなかったな」


「騒がしく、で済ませるには少々規模が大きいきもしますがね。まずは朝食を用意しますので、少々お待ちください」


「助かる」


 しばらくすると店主がプレートに乗った朝食を運んでくる。ポチの分もボウルに盛られている。気が利くな。


 飯を突きながら村の状況を確認していく。


 結局、騎士が使った魔法の影響で、村人のグール化は一気に進行し治療を受けたものは一人残らず俺たちが片付けたことになる。


 正直、身内を手に掛けられたものも居るので、俺たちへの風当たりは強いかとも思っていたがそうでもないらしい。


 というのも、既にグールに襲われ被害を負っていた者も多く、中には一家全員がグール化していたところも少なくない。


 そんな事情もあり、むしろ救世主くらいの認識なんだと。


 今この村に残っているのはおよそ40名。正直、今まで通りの村での生活を行うことは不可能だという。


「じゃあ、あんたたちはこれからどうするんだ?」


「不幸中の幸いと言いますか、生き残ったものはほとんどが手に職のある人間とその家族が多いのです。他の者は私のようにかつては冒険者。

 

一人でも生きていくことは出来ますよ」


「俺が言えた義理じゃないが、あんまり無茶するんじゃないぞ」


「妻の分までしぶとく生きるとしますよ」


 昨日の今日だ。まだ、心の傷は癒えていないだろう。それでも気丈に振る舞う店主の姿は心に来るものがある。


「とはいえここまでの被害だ。ギルドには俺たちから報告を送っておくから、しばらくすれば援助の物資なんかも届くだろ。この村のギルドは?」


 店主は無言で首を横に振る。


「お客さん、いやアート様と呼ばせてください。今日はお疲れでしょうからゆっくりしていってください。こんな状況ではありますが精一杯持て成しをさせていただきます」


「様はやめてくれ。堅苦しいしな。今日はゆっくりというか、できるだけ手伝いをしていくよ」


「何から何まで。本当に有難い。正直猫の手も借りたい状況です。せめて食事と寝床は用意させてください。料理には多少自信がありますので」


「ああ、味は俺も知ってる。よろしく頼む」


 腹も十分に満たされたし、早速働くか。その前に、一つだけ。


 村の広場に向かうと、すでに多くの村人が戦闘の後片付けに奔走していた。せわしなく働く人々に対して悪い気もするが、こればかりは譲れない。


「すまない。この中で鍛冶の腕が立つ人は?」


 呼びかけに答えたの一人の青年。赤い髪が特徴的だ。見たところドワーフと人間のハーフといったところか。


「鍛冶なら俺に任せとけ。そういうアンタはここで大立ち回りした、冒険者様じゃないですかい」


「耳が早いな。昨日の戦闘で鎧がやられちまってな。治せそうか?」


 鎧の傷後を見せると一瞬驚いた顔を見せるがすぐにやる気に満ちた職人の目に変わる。


「こいつは派手にやられたもんだ。まあ、俺に任せてくれれば前よりも頑丈にできますぜ」


「頼もしいな。ならよろしく頼む。その分は俺が働いておくから」


「願ったり叶ったりだ。なら日暮れくらいには仕上げるようにさせてもらうが、大丈夫で?」


「問題ない。お代はこいつを使ってくれ」


 金貨の入った袋を渡すが、その中身を見て再びぎょっとする。


「こんなに貰えねえよ。材料込みでもこの半分もあれば十分だ」


「なら、そいつは今度装備を作ってもらう前払いだ。取っておいてくれ」


 復興資金の足しにしてくれればそれでいい。村を立て直すには様々な道具や武器、建材なんかも必須だ。そのためには何より鍛冶の腕は最も重宝されるものの一つだ。


 俺の意図もしっかり伝わっているだろう。神妙な面持ちで頷く青年に鎧を預け、作業に加わる。


 グールとなった村人の遺体の処理が目下の作業だ。約六十体の遺体を火葬にするため一か所に集める。


 手間も考えると村の広場をそのまま利用するのが得策だろう。


 この作業はポチに任せるとし、俺は厄介そうな作業を引き受けることにする。崩壊した家の撤去作業だ。


 規模としては人間同士のサイズの先頭だったこともあり、そこまで大きな被害もない。


 幸いマリナの放った魔法でも、地面が抉れただけで建物への被害はない。


 解体するべきは三棟程度で済む。とはいえ、普通の人間の力では到底時間がかかりすぎるのも事実だ。身体強化で筋力を引き上げ、一気に解体する。


 作業を続けていると、丁度昼時に宿屋の店主が炊き出しを行ってくれた。マリナとメルト、他の女性の村人もそちらの手伝いに回る。


 作業効率を考えればその方が合理的だろう。この調子なら夜までには一通りの後片付けは終えられそうだ。


 あっという間に時間も過ぎ、今は村を上げて葬儀を行っている。神官もいないため、略式で火葬のみを行い遺灰は村の周囲に蒔くらしい。


 強力なモンスターの遺灰はそれだけで、他のモンスターを寄せ付けない効果もある。


 グールとなり不本意な死を遂げたであろう者達がその死後に村を守る。


「なんか、寂しいね」


 燃え盛る炎を遠巻きに眺め、マリナが呟く。


「確かにやるせないな。グールになったとはいえ、ほとんどの人は罪も何もなかったはずだ」


「うん。なんでヴァンパイアはこんなことするんだろ」


「その理由を俺たちは探らなきゃいけないんだ。こんな悲劇を生まないためにも」


 吸血鬼アキム。確かに騎士はその名を口にした。それが何を意味するのか。奴の言葉を反芻する。


「私と共にヴァンパイアの軍勢に下らないか。私からアキム様に取り次いでやるぞ」


 共に。少なくとも奴はアキムの配下として活動をしていたということになる。それがどういう指示の下のものかは分からないが、アキムが自身の戦力を拡充しようとしていたことは事実だ。


「それにしても、群れることを好まない吸血鬼が仲間を増やすというのも妙な話ですね」


 メルトの指摘も尤もだ。基本的に奴らは一人で行動する。人の生き血を啜るという性質から、群れて行動することにメリットは少ない。頭数が増えればその分必要な血液も増える。そうなれば、人間に気づかれるリスクが増すだけだ。


 そうまでして戦力を拡充したい理由はなんだ。現時点では判断材料が少ない。


 グールと紫の宝玉。ヴァンパイアへの手掛かりは戦力という点では繋がるが。


 ヴァンパイが戦力を拡充する理由が不明なのが不気味なところだ。


「アート様、一つ提案があるのですが」


 そんな中メルトが声をかけてくる。


「私はひと足先にホールイートに向かい、ギルドに報告を行おうと思うのですが」


 確かにこの村のギルドが機能していない以上は戻るか進むかしないと救援も呼べない。だが状況を考えればホールイートに向かうよりも、


「いや、そういうことなら、ポートレイクの方がいい。どうせ派遣されるのもあっちのほうからだろう。それにこの事態については一度ミーシャに報告するべきだ」


「一理ありますね。では早速」


「待て待て。そういうことなら、いい手がある」


 逸るメルトを引き留め、村の外まで連れていく。


 何を?と不思議そうなメルト。これから来る奴にはもっと驚くだろうが。


 俺は懐から青い鱗で作った笛を取り出し、魔力と同時に息を吹き込む。


 高らかな音色が夜空に木霊する。


 さて、どれくらいで来るかな。


「あの、アート様?その笛はいったい…」


「じゃあ、あいつが来るまで説明しておくかな。これは竜鱗の笛って言ってな。その名の通り、ドラゴンの鱗で作られた笛だ。自分の魔力を注ぎながら形を作ることで


その笛を作った者にしか奏でることができないっていう笛なんだよ。それで、この笛を使うと」


 丁度いいタイミングだ。


 月明りに照らされた青い体が、グングンとこちらに迫ってくる。


 姿が見えてからほんの数十秒で、青い鱗のドラゴン、ブルードラゴンが俺たちの前に降り立つ。


 その鱗は青というよりも碧色といった印象が強い。少し緑掛かっている。


 俺の前に降り立つと、顔を近づけてくるので鼻のあたりを撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。相変わらず甘えただな。


「へっ、ド、ドラゴンですか?」


 メルトが珍しく素っ頓狂な声を上げる。


「ああ、こいつの名前はセキレイ。ソウイチ達との冒険の最中に色々あってな。まあ、友達みたいなもんだ」


「な、なるほど。ドラゴンまで手懐けていたとは…」


 驚きと呆れと様々な表情が入り乱れているがそこは気にしない。


「それじゃ、セキレイ。メルトを連れてポートレイクまでよろしくな。あんまりスピード出すんじゃないぞ。落ちたら大変だから」


「ギャウ」


 分ったと頷くセキレイ。背中には一応鞍を付けているが定員はせいぜい2名だ。まだまだ子供だし、そこまでの大きさは無い。


「私はドラゴンに乗るのでしょうか」


「もちろんだ。こいつも結構乗せ慣れてるから大丈夫だとは思うけど、落ちないように気を付けてな」


「何か、私の中の常識が一つ壊れた気もしますが。仕方ないですね」

 

 背中に乗りやすいように身を低くするセキレイに若干引き気味のメルトが跨る。


「それじゃ、よろしく頼む。帰りはミーシャに頼めば何とかして貰えるはずだ。俺たちはホールイートで情報収集しておくから向こうで落ち合おう」


「分りました。それでは行って参ります」


 その声に答えるように、セキレイは一鳴きし、夜空へと飛び立つ。


 小さくなるその姿を見送っていると


「あー、おじさんこんなところにいた」


 ちょうどマリナが声をかけてくる。


「あれ、師匠は?」


 適当に経緯を説明してやる。


「あたしもドラゴン見たかったなー」


「お前トカゲとか駄目んじゃなかったっけ」


「ドラゴンはかっこいいから別枠だしー」


「一部の奴は飛びトカゲなんて言ったりしてるんだが、まあいいか。また今度な」


「約束だかんね?」


「はいはい」


 せいぜい喧嘩を売らないで貰いたいもんだ。

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