グールの住まう村-3
さっきの雑魚って言ったのを訂正したい。
もとはただの村人のはずのグールが異常な戦闘力を誇る。これは悪夢だろうか。
残念ながらきしむ全身の痛みが否応なく俺を現実に引き戻す。既に三十は切り伏せたはずなんだが、まだ攻撃の波が途絶える気配がない。
「はぁ、切りがないですねっ!」
悪態をつきながらも弓を射るメルト。既に手持ちの矢は底を付き、魔法で生成した木の矢を放っている状況だ。
立て直すべきか。
撤退の二文字が頭に浮かんだ瞬間。
「助っ人、参上!」
元気な掛け声とともに矢が放たれ、グールを炎上させる。
「おじさんも師匠もあたしを仲間外れにするなんてヒドくない?」
「こっちは気を使ってたつもりなんだがな。こいつら相手にして平気そうだな」
「グロイのはヤだけど、これならへーき。師匠、これ使って」
ポイっと矢筒を投げ渡し、短剣を構えるマリナ。
正直このタイミングの増援はかなりありがたい。
マリナと一緒にポチとベルも参戦。一気にこちらの数は倍以上になる。
「あたしは先輩に貰った短剣を使うね。さっきから戦いたそうにウズウズしてるみたいだし」
その言葉に答えるかのように刀身は一層輝きを増す。
「そういうことなら頼りにしてるぜ」
「まっかせてー!」
標的が分散し、攻撃の手が少なくなり、今までとは比較にならない速度でグールを切り倒す。
ポチとの連携をうまく取り、死角から次々と仕留めていくマリナ。右手に構えた短剣が銀の軌跡を描き、その後には無残に散るグールの亡骸。
空いた左手では随時、魔力を練り、次々と火球を放っていく。
アンデット全般に言えることだが炎には弱い。相性は最高だろう。
「私も負けていられませんね」
矢が補充されたことで、メルトが本領を発揮する。
今まで矢の補充に当てていた魔力を使い、空中に木の枝の足場を設置し、立体的な軌道から次々と矢を放つ。
頭上から降り注ぐ無数の矢と、視界から外れた瞬間に振るわれる刀の一閃。
「師匠、忍者みたいだねぇ」
マリナが何か言っている。忍者。ソウイチが似たようなことを言っていた気もするが詳細は分らん。あとで聞こう。
そしてベルは安全地帯から応援。
何やってんだお前。
ちょくちょく、魔力の塊を放ってはマリナの援護をしているので無駄ではないんだが。
「よーし。マリナさん!アレ、行っちゃいましょう!」
「オッケー!」
短剣を腰に戻すと同時に、あの構えを取る。またやる気かよ。
「マリナさん、新しい魔力よ!」
ベルが両手いっぱいに凝縮した魔力の塊を振りかぶって、投擲する。
「よーし、これで元気百倍!いっけぇぇぇぇぇぇ!」
そして再び、破壊の光の本流がマリナの手から放たれる。
騎士に向かって一直線に放たれたそれは、道中のグールをすべて吹き飛ばし、地面を抉り、直撃する。
月明りをかき消すほどの閃光とともに、凄まじい衝撃が辺りに広がる。
「やったか!?」
「あ、おじさん、それフラグ!」
何のことだ。
「ふざけた魔法を使いやがったな」
土煙をかき分けるように騎士がその姿を現す。鎧は各所が砕け、ボロボロと表現するのが相応しい。しかし、あの直撃を受けてもまだ生きているとは。
「この聖鎧を砕くとはな。敵ながら天晴だ。私と共にヴァンパイアの軍勢に下らないか。私からアキム様に取り次いでやるぞ」
アキム。例の吸血鬼の名か。こいつ口が軽いな。
「ニンニ食べれなくなっちゃうんでしょ?ヴァンパイアなんて嫌だよ。人の血も飲みたくないし」
「そんな理由で誘いを断るのはお前くらいのもんだよ」
俺の軽口を聞いて、マリナがぷんすか怒りだす。
「そもそもおじさんがフラグ立てちゃうから、仕留め損ねたでしょ!謝ってよー」
「お二人とも遊んでる場合ではなさそうですよ」
メルトの注意通り、騎士の様子に変化が生じる。
顔や鎧が砕けむき出しになった皮膚の各所には血管が浮き出ている。怒らせたか?
「くっふっふ、散々コケにしてくれますね。私の本気を見せてあげますよ!!!」
やっぱり、怒らせたらしい。
鎧を突き破り、騎士の背面には巨大な蝙蝠の翼が現れる。
「羽が生えただけで調子に乗らない方がいいと思うけどな」
「だけ。かどうかは身をもって知るがいい!」
その言葉を証明するかの如く圧倒的な速度で飛来する。
「口だけじゃないみたいだな!」
振るわれる双剣を切り払い、騎士と切り結ぶ。攻撃が重いっ。
「随分と苦しそうじゃないか!人間!」
空中からの攻撃が厄介だ。久しぶりにやるか。
「なら俺も全開で行くぜ。疾風!エアロブラスト!」
舞台を空中に移し、一気に勝負を決めるべく畳みかける。風の魔法で強引に体を制御する手前、集中力を要するが、四の五の言っても居られない。
「うおおおおおおお!」
捌き、弾き、逸らし、互いに有効打が得られない。鎧に傷をつけられたのはずいぶん久しぶりだ。
年甲斐もなくワクワクしてるのも不思議だがな。
「あたしたちは手出しできないね」
「私は何とか目で追えますが…。しかし、このままではアート様の魔力が先に尽きてしまいます」
確かにメルトの言う通り。このままじゃ押し負ける。
その一瞬の思考で、判断が鈍った。
俺の不意を衝くように、一本の剣が腹部に深い傷をつけていく。
「抜かった!」
「貰ったぞ!」
もう一振りの剣が俺の首元に届く刹那、
「させない、雷刃一閃!」
メルトの刃と騎士の刃が空中でかち合い、激しい雷撃を辺りに散らす。その雷撃の呷りを喰らった瞬間に懐かしい感覚が去来する。
今なら出来るか。
「迅雷!」
久々に全身にみなぎる雷の力。ってことは相当重症らしい。
それでも負ける気はしないがな。
「そんなコケ脅し今更通用するわけがっ…?」
「すまんな。加減が難しくてな。喋り終わる前に決めちまった」
騎士の両翼を切り落とし、既にその首は胴体から離れていた。
「全く見えませんでした。今のがアート様の真の力」
「おじさん、すごい」
「関心するのはいいんだが、メルト、すまん治療してくれ」
言い終わると同時に、情けないが気を失っちまったようだ。
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SIDE マリナ
師匠が割って入ったと思ったら、おじさんが電気をまとってピカピカしだす。
次の瞬間にはグールのボスっぽいのはバラバラになってるし。何が起こったのか全然見えなかった。
あたしまだまだ弱いな。
そのあと気を失ったおじさんを師匠が魔法で直しながら、宿屋に担ぎ込んで、みんなで看病する。
「師匠、おじさん大丈夫なの?!」
「安心してください。気を失ってるだけですよ。傷はしっかり治しましたし、気が付くのを待ちましょう」
「うん。あたしはもう休んだし、師匠はゆっくりしてて。おじさんはあたしが見ておくから」
「では、お言葉に甘えましょう。あとはたのみます、ね」
そのまま師匠も寝息を立てちゃった。やっぱり疲れてたんだよね。
看病って言っても寝顔見ておくくらいしかすることないんだけどさ。とりあえずタオルは変えてあげよっかな。
タオルを取り替えたところで、脱がせてあったおじさんの鎧の傷が目に入る。
綺麗にすっぱりと切られてる。
血がついてるし、拭いておいてあげようかな。また装備するかどうかわかんないけど。
内側を拭いると、鎧が結構複雑な構造になってることに気づいた。
体に当たる部分と表の鎧の部分は別で二重構造になってるみたい。インナーみたいな感じなのかな。
おじさん怪我も多いし、お守り入れておいてあげよう。日本から来た時にポケットに入ってた交通安全のお守りだけど。
「ないよりいいよね」
こっそりとインナーの隙間にお守りを忍ばせておく。
しばらくポチと遊んでおこうかな。
朝まで起きないだろうし。
グール編完結。
思ったよりバトルが長くなってしまった。
次回は後始末。




