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グールの住まう村ー2

  女性を宿屋の外に運び出し、埋葬の準備をする。


 グール。またの名を死鬼。吸血鬼の力をその身に注がれた結果、肉体が耐え切れずに変じてしまった悲しきモンスター。


 吸血鬼の力を受け継ぐことができれば、その身は同じく吸血鬼に名r圧倒的な力と魔力を得るが、その力に耐えることができなければ死鬼となる。


 死鬼となったものは意識も自我もほぼなくなり本能のままに活動する。主に食欲を満たすためだけに動く。


 そしてその主食は人肉。


 身内であれば、既に人ではなくなったとはいえその姿を持った者を殺すことなど到底できない。そうして無抵抗な者を食らいその血肉を糧にする。


 人を食らうことで死鬼は力を増す。そうして常人の手に負えなくなった結果、村一つが壊滅することも少なくない。


 この村もその一歩手前だ。


「これで奥さんも安らかに眠れるだろう。俺は聖職ではないが、弔いはさせてもらった」


「冒険者様。感謝いたします。しかし、先ほどの話を聞く限り、すでにこの村にはグールとなってしまった者もいるのではないでしょうか」


「ああ。その通りだと思う。今から俺たちがグールを引き寄せる。悪いことは言わないが、宿屋でじっとしていろ。できれば他の人間も匿ってやってくれ」


 グールを引き付ける簡単な方法は血の匂いを発すること。


 魔力と生命力に溢れたものほど奴らは反応する。俺の血であれば確実に俺を標的にするだろう。


 話を聞く限り今のところグールになっているのは20人ほどだろう。


 マリナは寝かせておいた方がいいか。さすがに人の姿のままのモンスターを相手にするのは忍びない。


 ベルには伝えておくか。


「いったん宿に戻るぞ」


 ベルに事の次第を伝えると


「そういうことなら、マリナさんは私が守っておきます。メルトさんもそろそろ戻られるでしょうし、こちらに来たら伝えておきます」


「ああ、任せる。こっちに来ないとも限らないからな。気を付けてくれ」


 村の広場に移動し、軽く腕に傷を付ける。血が流れるのを確認し、魔力を練る。


「サイクロン!」


 威力を調節し、血の匂いを村中に拡散させるように風で吹き飛ばす。


 さあ、来い。


 数分後。


 村のあちこちから、足音が響くようになった。


 砂利を踏みしめる音が周囲に響く。思ったよりも多い。


 一番最初に姿を現したのは若い男。手には鋼の剣を携えている。見たところ冒険者といった風情だ。


 村付きの冒険者か。


 装備を見る限りは駆け出しという感じではないが。


 ヴァンパイアとグールになる分岐点は血を受けた者の能力次第。清い体であればよりヴァンパイアとなる可能性が高い。

 

 そして、血を授けるヴァンパイアの力を受け継ぐという性質上、元のヴァンパイアが強力であればあるほど受ける側もより高い能力を要求される。


 つまり、並みの冒険者では耐えられないほどの力を有しているということか。


「ううう、うぁぁっぁぁ」


 声にならない声。


 その呻きは自らの生に執着する獣のそれだ。既に人ではない。


「せめて安らかに眠らせてやる」


 十字を切り、愛槍を構える。


 同時にグールも剣を構えこちらに振り下ろしてくる。


 単純な攻撃だ。


 剣閃を弾き、その首を斬り飛ばそうとした瞬間、グールは身を翻し、俺の懐に潜り込む。


 その刹那、俺の胴を鋼の剣が捕らえた。


「その程度じゃ当たらないがな」


 予想外に反応がいい。肉体が覚えた剣技は今もなお息づいているということか。むしろ既に人肉を食らった後なのだろう。


 生前よりも鋭い動きをしていると見ていい。


 構えを直した瞬間、後方から魔法が飛んで来る。

 

 俺を狙った氷の槍。


 それを捌き、術者の姿を確認する。


 ボロボロの服を着た魔術師。その手に持つ杖には紅玉が嵌められている。


 速く片付けないと厄介だな。


 まずはこいつからだ!


 槍を振るった瞬間、今度は大盾に攻撃が阻まれる。


 今度はタンクか。


 この三人はもともとパーティーだったのか。俺の態勢が崩れた瞬間に剣士が切り込んでくる。


 連携が完璧だ。


 さて、どうしたもんか。


 出し惜しみしてる場合でもないか。


「身体強化!」


 反応速度のギアを一段上げる。


 この状態であれば三人相手といえど、苦戦することはないだろう。


 大盾のガードを崩し、後方へのカバーが追い付かなくなった隙をつき、魔術師を切り伏せる。


 魔導坊が宙に舞いその顔が月光のもとに晒される。


 青白い肌に赤い瞳。グールとヴァンパイアの中間?いや、ヴァンパイアのなりそこないといったところか。


 魔力は基準値だったが、身体能力が追い付いていなかったといったところだろう。


 その瞬間、剣士と大盾の瞳にも赤い光が灯る。


 怒りで覚醒したか。


 感情なんて存在しないはずなのに、仲間の死には体が反応した。


 やるせないな。


 赤い眼光を備える二人の元冒険者を見据えたところ、その後方にはさらなるグールが姿を現す。


 何人かの村人。


 その背後に、一人雰囲気の異なる者がいる。


 両手に剣を携えた、鎧の男。フルプレートの鎧は口元のみが開き、白銀の鎧は返り血で赤黒く染まっている。


 騎士か。面鎧の隙間からは赤い眼光が漏れ、その足取りは妙にはっきりしている。


 限り無くヴァンパイアに近い存在だろう。


 次の瞬間奇妙な光景が繰り広げられる。


 騎士は近くにいた他のグールを手に持つ剣で串刺しにし、その心臓を抉り出す。


「まさか、喰うのか」


 俺の驚きをよそに当然と言わんばかりにそのまま心臓に食らいつき、飲み込む。


 食事を終えた途端に騎士の魔力が跳ね上がる。


 取り込んだのは、注がれたヴァンパイアの血そのものか。


 このまま奴を放置すれば碌なことにはならないな。


 久々にヤバイ奴だ。


 奴を片付けるにはまず、冒険者の方を片付けないとどうにもならない。守りを固める大楯の背後では剣士が魔法を使う気配がする。


「させるかよ!」

 

 だが、今までよりも数段硬い盾。


 剣士の魔法か、仲間が倒れたことへの怒りか、はたまた両方か。


 全力ではないとはいえ、俺の斬撃を弾くとは。


 連続で攻撃を叩き込むが、その守りは崩れない。あの盾、見た目は武骨だがかなりの業物。


 だが度重なる攻撃を受け、その両脚は地面にめり込んでいく。


「これで動けんだろ」


 盾を超え、後方の剣士を仕留めるべく跳躍した瞬間、後ろの剣士が動いた。俺の跳躍を見切ったかのように奴も合わせて飛ぶ。。


 そうか、あいつも身体強化を使っていた訳か。自分と大楯に。


 空中での攻撃態勢は完全に迎撃を想定していなかった。


 マズイ。


「ブランチアシスト!」


 その瞬間、俺の足元に木の枝の足場が出現する。


 メルトか!

 

 空中での一挙動。


 それが勝敗を決する。


 通常あり得ないさらなる跳躍を行い、剣士を頭上から切り伏せる。


「間に合ってよかった。アート様ご無事で?」


 着地と同時にメルトが駆けよってくる。


「今のは危なかった。お前がいなきゃ一発貰ってたな」


「事情は聞きました。まずはこの場を乗り切りましょうか」


「まずはあの大楯だな。いけるか」


「無論です」


 刹那の同意でお互いに駆け出す。


 メルトが刀を鞘に戻した。そのまま、腰だめに魔力を込めていく。居合か。


 ならば俺のとる行動は決まっている。


 勢いに任せて大楯に攻撃を加えていく。身動きの取れない大楯の防御が徐々に持ちあがる。そして、重心が傾いた瞬間に


インパクトを加え、大楯を空中に弾き飛ばす。


「雷刃一閃!!」


 伽藍洞になったその胴体を紫電が迸り両断する。


 あれがメルトと始雷が辿り着いた境地。凝縮された魔力を鞘走りとともに解き放ち、亜音速の斬撃を繰り出す。一撃必殺の技。


 火力としては申し分ない。相性次第でもあるだろうが竜の鱗さえ切り裂けるほどの威力だ。


 チン。と子気味良い音を立て、納刀する。同時に空からは俺が弾いた大楯が音を立て地面に突き刺さる。


 残るは、騎士。


「さて、いよいよボス戦だ」


 俺たちが冒険者に手古摺っている間に騎士はさらにグールを喰らっていた。


 見たところ、十はいったか。


「共食いですか」


「気分のいいもんじゃないし、これ以上強くなられても厄介だ。さっさと決めるぞ」


「ええ。行きます!」


 騎士の元へ駆け、その道すがらのグールを打ち倒す。


 際限がない。だが止まってもいられない。


 俺が突進し、メルトが弓で牽制しながら後に続く。


「開けた!疾風!」


 更に加速し、一撃を見舞う。


「無駄だな」


 喋った!?


 俺の驚きを他所に、斬撃は受け止められる。一本の剣で。


 無防備な俺の肩口にもう一本の剣がすかさず振り下ろされる。


 メルトが放った矢が剣閃を逸らし、事なきを得るが、まさかここまで強化が進んでいるとは。


「グールのくせによく喋る騎士様だぜ」


「グールだと?笑わせるな。私の力は既にヴァンパイアの域に達している。見せてやろう、この素晴らしい力の一端を」


 騎士が高笑いと共に魔力を開放する。


 開放された膨大な魔力に呼応し、周囲のグールたちの目に赤い輝きが灯る。


「雑魚がいくら増えても意味なんてないぜ」


「それはどうかな。疲れを知らぬグールの群れと所詮人間が二人。その体力は果たして持つかな」


 こうして強化されたグールの群れとの持久戦が開始されたのだった。


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