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追憶ー獅子王ー

 獅子王ライオネル



 奴との戦闘が始まってどれくらいの時間がたったのか。


 もはやその感覚すら曖昧だ。


 パワー、スピード、魔力、経験


 すべての点において、俺たち四人が束になってようやく互角。


「ベイオウルフ達が討たれたと聞いた時は戦慄を覚えたものだが。その程度か」


「抜かせ!そのどてっぱらに風穴開けてやるから期待して待ってろ!」


 ソウイチが啖呵を切るが、すでに俺たちは満身創痍だ。


 体の傷はミーシャが癒してくれているが、体力の消耗は激しい。

 

 何より、ミーシャの魔力もすでに底を付きかけている。



「ソウイチ、アレでいくか」



 隣に立つ勇者に合図を送る。



「ああ、やるぞ!」



 一気に魔力を開放し、呪文を唱える



「「闇を切り裂く雷光よ」」



 だが、そんな隙を黙って見過ごすライオネルではない。



「何をする気か知らんが黙って見ていると思ったか!」


 神速とも呼べるスピードで俺たちに飛び掛かるライオネル。


 その突進が鈍い金属音とともに防がれる。


「時間は稼ぐ。その隙に」


 イングラムが前に躍り出るが、もはや立っているのもやっとの状態のはずだ。


 だが今は信じるしかない。



「「疾風を纏い」」



「邪魔だ!!」


 強烈なインパクトと、黒鋼の盾が激突する。一瞬拮抗するが、盾はジリジリと押し戻される。



「腕はもう一本あるんだよ!」



 盾を持つ左手とは逆、ドラゴンスケイルを幾重にも重ねた千竜の小手。


 常人では持つことすらままならない超重量の武具でそのまま殴り掛かる。


 動きを止めた獅子王の顔面にその拳が深々と突き刺さる。


「「今こそ我らに」」


 もう少しだ。もう少しだけ耐えてくれ。


 俺の願いは儚く散る


 強烈な一撃をもらったはずの獅子王はニヤリと笑う。





次の瞬間





 イングラムの肩からその腕を食いちぎった。




「な、、に、、、」



 鮮血を噴き上げ、その場に崩れ落ちる。



 だが、俺たちはに悲しむ暇などない。


 イングラムの作ったこの好機を逃せはしない。





「「迅雷を齎せ!」」



迅雷 


 俺の疾風による速度強化とソウイチの雷を操る魔法を組み合わせた究極とも言える身体強化魔法。


 パワーとスピードを限界を超えて強化する。


 地面を蹴り、獅子王に迫る。


 今までとは比べ物にならない速さの攻撃を繰り出す俺たちだが、



 それでも獅子王は其の身一つで食らいついてくる。


「ようやく、楽しくなってきたな」


 これでもまだ余裕があんのか。バケモンめ。


 ソウイチの斬撃の隙間を練るように、突きを織り交ぜるが


 致命傷になる攻撃のみを悉く捌き、反撃を繰り出してくる獅子王。


 パワーとスピードは現時点では俺たちの方が優勢だが、経験がまるで違う。


 一体今までどれだけの命のやり取りをしてきたのか。


 俺たちだって自慢じゃないが修羅場は多く潜ってきた。


 奴の経験はそれ以上だ。



 刃と爪が打ち合うたびに体が悲鳴を上げている。



 だが、ここで倒れる訳にはいかない。



 ミーシャが回復魔法での支援を行てくれているが、ダメージの方がそれを上回る。


 イングラムの治療は既に終えて俺たちの回復のみに魔力を充てているがそれでもジリ貧だ。


 一撃だけでいい。


 奴も亜人だ。


 致命傷を与えれば決着は付く。



 俺も覚悟を決めるか。



 巡魂の霊石


 過去に散った先人達の技を得る。


 代償はその技を得るに至った苦難をこの先の未来経験し続ける。



 今を生き残らなけば未来はない。



 はじき飛ばされ、距離が空いた一瞬の隙に、石を砕く。



「今、何をした」


「お前に教えてやる義理はないな」


 体が勝手に動く。


 数合の打ち合いで、今までとは明らかな違いを感じた。


 獅子王の動きが読める。


 次に奴がどこを狙うのか。


 視線とは全くの別の場所に繰り出される爪。


 その爪が狙うのは俺ではなく、その背後にいるソウイチ。


 敢えて躱すと同時に、背後に伸びる腕を槍の柄ではじき飛ばす。


「貴様、なんだその力は。視えていると言うのか」


「どうだかな。体が勝手に動くんだよ!」



「勝手に動くか。面白い!」


 ここにきて、獅子王のスピードが上がる。


 更に攻撃が苛烈になり、違和感が生じる。


 今まで見えていた攻撃が予測できない。


 違和感の正体はなんだ?!


「やはりそうか」


 獅子王が再び笑みを浮かべる。


 こいつは俺の変化の本質に気づいたのか。


 だが、まだ捌ける。


 まだ食らいつける。


 こいつを確実に打ち取れる一撃。


 それは勇者にまかせるしかないか。


「ミーシャ!」


 その一言で彼女は俺が何をしたいのか察してくれた。


 脳に直接ミーシャの声が響く。


 念話


 エルフの秘術を伝授された彼女の十八番


「俺が暫く奴を引きつける。その間にソウイチにどでかいの一発ぶちかます様に伝えろ!」


「でも、そんなんじゃアートが!」


「いいからささっとしろ!長くは持ちそうにもないぜこりゃ」


 違和感の正体には俺も薄々気がつき始めた。


 意識と無意識。


 獣の本能による攻撃を奴は織り交ぜて来ている。


 意識下の攻撃であれば、筋肉の動きや視線、呼吸、なんらかの要素がそれを知らせてくれる。


 無意識にはそれがない。


 それがタネだろう。


 ただ獣が暴れまわるだけならそれでいい。


 対処はできる。


 しかし、それを完全に制御されたら。


 おそらく俺達に勝ち目は無い。


 勝機があるのはこいつが成長を続ける今この時のみ。



 ソウイチが技を繰り出すまでの時間を稼ぐ。



「アート。私も覚悟が決まったよ」


「何をする気だ!」


「あんた一人に無茶させたんじゃ、後でソウイチに怒られちゃうから。私もあんたと一緒に戦う」


 その瞬間、俺の感覚が研ぎ澄まされていく。


 この感覚は、以前に感じたことがある。


 他人と意識をリンクすることで知覚を増幅させる魔法


 感覚共有。


 だが、これはそんな生易しいものじゃない。


 もっと高度な・・・・


 感覚譲渡。


ミーシャの感覚を俺が奪い取っている・


「やめろミーシャ!こんなんじゃお前は」


「うるさい!チャキチャキ戦って。こうするしか手はないの!」


 ミーシャの言葉はもっともだ、今まで二体一で互角の戦闘を行っていたのが、今は一人で持ちこたえなきゃならない。


 一人で二人分。


 それを実現するにはこれくらいの賭けはしなきゃならない。


 だが、獅子王の成長もまだまだ続く。


 無意識下の攻撃の精度が高まっている。


 確実に好機と思えるところに攻撃を打ち込んで、それをあり得ない挙動で反撃に転じる。


 そしてその反撃すら、獣の一撃。


 このままでは。



 だが、俺たちの待ち望んだ瞬間が遂に訪れる。


「待たせた」


 ただそれだけの言葉が一縷の望みだ。


 後はソウイチの一撃を決めさせる。


「ミーシャすまない。もう少しだけ付き合ってくれ」


「ここまで来て水臭いな。大丈夫だよ。好きにやりなって」


 足を止めさせる。


 それで勝負は付く。


「師匠、あんたの形見ここで使う」


 俺の武器 アックスハルバート


 師匠の死に際に託されたこの武器には一つだけ誰にも伝えていない秘密がある。


 息絶えるその瞬間に師匠は一つの呪いをこの武器に施した。


 自らの魂の一部をこの武器に封じる。


 この呪いを今解き放つ。


 距離をとった瞬間に槍を投げつけるが、獅子王には難なく躱される。


「ついに破れかぶれか」


 その瞬間、投げつけた槍が軌道を変え、獅子王の右足を深々と突き刺す。


 槍の柄には薄く透き通るしわくちゃの手が添えられている。


 助かったよ師匠。


 だが、今はまだ感慨に耽るのは早い。


「ソウイチ、いまだ」


「後は任せろ」


 俺のすぐ脇を雷が駆ける。



雷迅一閃



 極限まで高めた魔力を鞘に封じ込め抜刀とともに放つ一撃。



 その瞬間に勝負は決した。



 首を跳ね飛ばされた獅子王。






 そして首のない獅子王の腕はソウイチの心臓を深々と貫いている。





 最後の最後。獣化は完成していた。



「ソウイチイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」



 そこで目が覚める。

 

 何度見ても寝覚めが悪い。

 

 世界を救った伝説の勇者、キサラギ ソウイチ


 獅子王との決戦は勇者と獅子王の相打ちで幕を閉じた。


 生き残った俺たち三人はそれぞれ何かを失った。


 腕を失ったイングラム


 感覚譲渡の代償で視力を失ったミーシャ


 そして俺は、平穏な生活を失った。


 疾風の斧槍ともてはやされたのは昔の話。


 今の俺の通り名は「歩く事件簿」


 あの戦いの代償はあまりにも大きかった。

最初に誤っておきます。


すみません。


というのも、このお話、JKとおっさんが冒険するはずなのですが

おっさんは最後の数行、JKに至っては影も形もないです。


世界を救った勇者一行のその後の話を書いてみたいな。ということで書き始めたのですが

今回は完全に前置きだけの話です。


悪しからず。

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