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オーガ


「きりがない!魔法で一気に片付ける。マリナ、少し下がれ」


ポチとマリナを下がらせ、魔法をぶっ放す。


「ウィンドブラスト」


風の奔流を正面に向け解き放つ魔法。


正面に対して圧倒的な生圧力を生むが、基本それだけの魔法だ。とはいえ、ある程度制御さえできればそのまま


広範囲を薙ぎ払っていくこともできる。


これで周囲のゴブリンは壊滅だ。


残るは、奥の部屋にいるだろう親玉か。


「そこにいるのは分ってる。出てこい!」


坑道に俺の声が響くと同時に、重い足音とともに奥から一匹のモンスターが姿を現す。


「サワガシイ。キサマラナニモノダ」


オーガ。ゴブリンを小鬼と表するなら大鬼。


下顎から延びる鋭い牙と頭部に聳える巨大な角。二メルを超える体格と全身を覆う筋肉の鎧。


「鬼!?」


驚くマリナ。どうやら鬼という概念は共通なのか。


「美味ソウナメスガイルナ。チョウドイイ。エルフノメスト一緒ニ喰ラッテヤル」


「エルフのメスだと!?メルトのことか!」


「名ナド、シラナイ。貴様ラヲコロシ、楽シンダアト喰ッテヤルカラナ」


メルトはこいつにやられたのか。


オーガはこんなところにいるモンスターじゃない。ジャイアントカメルーンと同じく操られていると見ていいだろう。


その証拠と言わんばかり、その胸には見慣れた紫の玉が埋め込まれている。


だが、メルトはまだ無事なようだ。


オーガにしろゴブリンにしろ奴らが人間に敵対する種族である一つの要因はその生態だ。


奴らは人間の女を取らえ、孕ませる。


その結果生まれる種族はすべて鬼。


通常は異種間の交雑であれば両親の特性を受け継ぐものだが、奴らの場合は完全にゴブリンやオーガといった種族となる。


だから奴らにとっては人間など子供を産ませるための袋程度の認識だ。


そしてこれだけの数のゴブリンがいるということは。


余計な思考を散らし、正面に立つ大鬼を見据える。


「メルトを返してもらうぞ!」


俺が踏み出すと同時に、大鬼は手に持った棍棒を振り下ろしてくる。


「重っ」


槍の柄で受け止めると同時にすさまじい衝撃が体を突き抜ける。


咄嗟に身体強化を施し、インパクトを逸らす。


俺が距離をとると同時に、マリナからの援護射撃が大鬼に突き刺さる。


「痒イナ」


弓矢など何でもないというように、突き刺さった矢を強引に引き抜く。


皮膚が分厚いのか、大したダメージにはなっていない。


「全然効いてないじゃん!」


「魔法に切り替えろ!今の弓じゃ大して効果ない!」


うなずくと同時に魔力を練る。


メルトがやられたことを考えると、マリナの攻撃が効くとは考えづらいが無いよりはましだろう。


「フレイムチャクラム!」


今までは手元でコントロールするだけだったフレイムソーサーを投げ飛ばす。


遠距離にも対応できるようになったらしい。


炎の円盤が直撃するとオーガの態勢が少し揺らぐ。


「よし、効いてる!今だよおじさん!」


「言うじゃねーか。行くぜ!」


重心が揺らぐオーガの足に斬撃を繰り出す。


「硬いが、そこまでじゃないな!」


皮膚の抵抗を押し切きり、刃がその身に届いた。


「グアアアアア!」


「流石に骨までは絶てないか」


「オレノ足ニ傷ヲツケルトハ。許サン」


大鬼は怒りを露わにし、魔力を高める。魔法か厄介だな。


「何をする気かは知らないが、黙って使わせるか!」


隙だらけの胴体に向かって振るった俺の槍が大鬼の棍棒に弾き飛ばされる。


「何!?」


「パワーアップ!」


「身体強化かよ。それは俺の専売特許なんだがな」


そこからは俺たち二人の武器による打ち合いが始まる。


お互いに身体強化をかけている以上、もはや常人の目では捕らえることすらままならないだろう。


マリナもポチも置いてけぼりだが、悪く思うな。


いや、ポチは存外追えてるな。さすがにここに飛び込んでくるほどのバカじゃないみたいだが。


「うーん、援護したいけど見えないねー。あ、そうだ。フラッシュボム!」


俺の背後で何やら光が爆発し、大鬼の視界を奪う。


「ナイスアシスト!」


この隙に一気に決める。


「食らいやがれ!疾風斬!」


振るった斧槍が大鬼の首を刈り取る。


ドサッ。とその首が地面に落ちるとともに、体は活動を停止させる。


「オレガニンゲンゴトキニ」


「うわ、首だけで喋った。気持ちわるっ」


「そのうち黙るだろ。それよりメルトが心配だ急ぐぞ」


大鬼の調査は後回しにして、坑道の奥に向かう。あの大鬼がこの坑道のゴブリンを率いていたとみて間違いないだろう。


「あそこ!」


マリナの指さす先には、両の手を鎖につながれ、天井につるされているメルトの姿がある。


装備はボロボロ。オーガとやり合った結果だろう。


近くによって確認すると息はある。よかった。おそらく気を失っているだけだ。


「ポチ、マリナ、メルトを連れて先に戻ってろ。俺はここを少し調べてから行く」


「うん。気を付けてね」


ポチの背中にメルトを寝かせ、その背中を見送る。


さて、ここかからはあいつらに見せるにはちと刺激が強いだろう。


メルトが捕らえられていたさらに奥に向けて歩を進める。


そこには予想通りの惨い光景が広がっていた。


腐敗した死体や白骨。


そこから離れたところには数人の女性。


その全てが身重だ。


俺が近くに寄っても何の反応も示さず、その瞳には既に光はない。


度重なるゴブリン達の凌辱の結果だ。小鬼に連れ去られた人間の末路。それは子供を産むためだけの存在として扱われる。


人権や個人の意思など何も関係なく、ただひたすらに犯され、産まされる。


普通の人間であれば早々に精神を病み、ただその生涯を全うする。


廃人になるか、快楽に溺れるか。現実から逃避する手段はその二つしかない。


食事も喉を通らないだろうが、奴らはお構いなしに犯す。そんな生態故なのだろう、奴らの精液には異常なほどの栄養価が含まれ


それさえ摂取すれば人間は生きながらえることができる。できてしまう。


ここにいる女性たちは既に心は壊されている。


俺にできることは。


「すまない。お前さんたちを助けてやれなかった。許してくれ」


心を無にして女性たちの最後を看取る。


坑道の帰りに大鬼の死骸を漁っていくが気になるのはせいぜい紫の玉くらいのもだ。


「一応回収しておくか」


外に出ると、マリナ達が出迎えてくれる。


「お帰りなさい。何してたの?」


「ちょっと後始末ってところだ。メルトはまだ気が付いてないか」


「うん。起こした方がいいのかな?」


「しばらくそっとしておいてやれ。俺は一服してくる」


初めて見る光景じゃないにしろ何度見てもなれるもんじゃない。


せっかくのタバコも大して美味くない。


イヤな気分だぜ。


「わふ」


気づけばポチが足元にすり寄ってくる。狼のくせにいっちょ前に気を使いやがって。


悪い気はしないがな。


しばらく撫でまわし、マリナのところに戻ると丁度メルトが目を覚ましたとことだった。


「よう、気がついたか」


「アート様、オーガは・・・」


「俺たちが片付けた。しかし、あんなのに一人で向かっていくとはずいぶん無茶したな」


「向かっていったというよりは、背後から襲撃されてしまったので、仕方なく応戦しましたが力及ばず。不覚です」


「何はともあれ無事でよかったよ」


「お二人のおかげです」


「わん!」


「そうですね、ポチさんもいますからお三方のおかげですね」


全く、自己主張の激しい狼だ。そういうのは嫌いじゃないがな。


モンスターの襲撃もあったが、今日の目的地の村まではあと少しだ。


おそらく、ゴブリンどもの被害にあっていたのはその村で間違いないだろう。冒険者であれば近くに装備も転がっているんだが


俺の見た範囲では普段着程度のものだった。


「そういえばこれから行くのって村なんだよね。あたしこっち来てからリンネルネしか知らないんだけど似た感じ?」


「そうだな、リンネルネって別に面白みがあるわけじゃないし至って平均的な村だから。今から行く村には温泉もあるし、


リンネルネよりは賑やかな感じじゃないか」


「ちょい待ち。温泉って言った?」


「ああ、それがどうかしたか」


「めっちゃいいじゃん。温泉。最高じゃん」


「なんでそんなテンション高いんだよ。おっさんかよ」


「おじさんにおっさんて言われたくないですー。温泉はお肌にいいの!ねっ、師匠」


「え、ええ。エルフはあまり湯につかるという文化はないので、私はそこまで執着はありませんが」


「そうなの?お風呂入らないの?」


「基本的にはサウナが多いですよ。水浴びで済ませることも多いですが」


「水かぁ。寒そう」


「冬はあまりお勧めしませんね。慣れれば平気ですけれど。マリナさんも挑戦しますか?」


「遠慮しときますっ!」


がたがたと揺れる馬車の中に賑やか声が響く。



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