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ゴブリン

「フレイムソーサー!!」


マリナの放った一撃は的確にモンスターの喉元を捉え、一刀両断する。


と、そこまではいいのだがいかんせん数が多い。


既に周囲はモンスターに囲まれている。


「ちょっと数多くない!?」


「ちょっとというかかなりだな」


「そうですね」


「そこ!なんでそんな余裕なの!」


「なんでって言われてなぁ、これスライムだし」


そう。俺たちは今スライムの群れに囲まれている。


言わずと知れた最弱モンスター。なんの間違いか、単細胞生物が魔力を扱えるようになった結果大きくなったモンスターだ。


その戦闘力たるや、子供が木の枝で撃退できるほどの紙装甲と、その辺の落ち葉を溶かすのが関の山の攻撃力を合わせもつ。


正直その辺の野良猫の方がよっぽど危ない。


特殊な環境で育った奴らは火の玉を吐いたり毒を持っていたりするが、今いるのはただのスライム。


ダメージを食らう方が難しい。


「だってこれモンスターなんでしょ。危なくないの?」


「危なくはないな。鬱陶しいくらいで。それにポチ見てみろよ」


マリナの後ろではポチがスライムをがつがつ食っている最中だ。


「あーーーーー!ポチ、だめ。ばっちいからぺってしなさい!」


ちなみにモンスターにとっては大好物である。


雑魚のくせに魔力はそこそこ蓄えているので、モンスターはこいつらを摂取することで魔力を補給することも多い。


人間でも同じことはできるが、栄養も特になければ味もない。


そのくせ微妙に硬さがあるため食いづらい。


結論としてわざわざ食うほどのものでもないといったところ。


ただし、スライムの鬱陶しいところは、こいつらが集まることで餌を求めて他のモンスターが寄ってくること。



「ガルルルル」


こんな感じに。


「あ、なんか来たよ」


「ゴブリンだな。一匹だけだし、お前行ってこい」


ゴブリン。知能の低い人型のモンスター。身長は一メル程度。身体能力もそれくらいの人間と同等。


戦闘力は大したことないが、繁殖力は尋常ではなく、その物量によって人里でも被害が出ることは多い。


「しゃーないなぁ。フレイムアロー!」


放たれた炎の矢はゴブリンを直撃し、その身を燃え上がらせる。


だがその一発では仕留めきれずに、体を燃え上がらせながらこちらに向かってくるがたどり着くことはなく、


バタっと倒れ動かなくなる。


「うへぇ、人の形してるとあんまりいい気はしないね」


「最初はそんなもんだ。ただ、こいつらの被害を目の当たりにするとそうも言ってられないがな」


「そうなの?」


「ええ、私の住んでいた森の近くでも昔、ゴブリンが大量発生し、村がほとんど壊滅するという惨劇がありました。


その頃の私はまだ小さかったので討伐にこそ参加しませんでしたが、それはひどい状況でした」


悲しげな瞳で遠くを見つめるメルト。


そんなこともあったのか。こいつも結構苦労してるな。


「ですので、私は絶望の目はなるべく摘んでおきたいのです」


そう言った瞬間、矢をつがえ、草木の影に隠れるゴブリンを数体射抜く。


しっかり見えていたか。


「うわ、あんなところにいたんだ」


こっちは見えてないか。


「気を抜かないで下さい。まだまだ来ますよ」


メルトがマリナに注意を促すと同時にそこら中からゴブリンがわらわらと姿を現す。

 

十、二十、数えるのも面倒くさい。


「来るぞ!」


俺やメルトにとっては大した脅威ではないが、今のマリナにとってはどうだろうか。


そんな俺の心配はどうやら杞憂なようだ。


「ポチ、いくよ!」


一気に駆け寄ってくる数匹のゴブリンを的確に打ちぬくマリナの矢。そして取りこぼし接近を許したゴブリンにはポチの牙が振るわれる。


近接が苦手なマリナと遠距離の攻撃手段を持たないポチ。


お互いの欠点を補いながら得意なレンジの先頭に集中する。


コンビネーションとしてはまだまだ粗削りな部分は多いが、息はしっかりと合っている。


「なかなかやるじゃねーか。それはそうとこの数がこんなところをうろついているってことは」


「ええ、近くに巣があるでしょうね」


となると少し厄介だな。


俺たちの今日の目的地は近くの村だがこの場所からそう遠くない。ゴブリンたちにとっては十分進行範囲だ。


落としておいた方が無難か。


「アート様、私は周囲の捜索に向かいます。この場は任せてもよろしいでしょうか」


「大丈夫だ。でも無理はするなよ」


「畏まりました!」


ゴブリンたちの間を縫うように林の奥へと一気に駆ける。


そのあとを追おうとするゴブリンたち。やはりあの奥が巣か。


「まちな。お前らの相手は俺だぜ」


後ろに気を取られていたゴブリンたちの注意をこちらに引き付ける。


「ぐるるるうるるるる!」


俺の挑発が気に食わなかったのか、あるものは牙をむき出し、あるものはこん棒を振りかぶり、どいつもこいつも敵意をむき出しにしてくる。


「ちっとは相手との実力差考えろよ。お前らじゃ俺には勝てねえよ」


「あたしもいるしね!」


いつの間にか自分の周辺のゴブリンを片付け、こちらに合流したマリナ。


「ずいぶん早かったな。そいじゃ、俺が突っ込むから援護頼む」


「おっけぇい。でも、あたしの援護いる?」


「そう言うなって。行くぜ!」


まぁ、マリナの言う通りゴブリンくらいどうってことないんだが、ここはあえてマリナに活躍させるか。


敵のど真ん中に突っ込み、背後の敵はマリナに仕留めさせる。


ゴブリンの意識は俺に集中してるはずだから隙だらけの背後をしっかり狙ってくれればそれでいい。


俺の狙い通り背後では矢が風を切る音が響く。


数分後。


俺たちを襲ったゴブリンの群れは壊滅させた。


「おじさん、師匠は?」


「先に偵察に行った。このあたりにゴブリンの巣穴がありそうでな。場所を探っているところだ」


「じゃあ、早く合流しないと。一人じゃ危なくない」


「お前一人ならともかくメルトに限ってそれはないだろ。慌てる必要はないが万が一もあるのがモンスターだ。一応急ぐぞ」


「前半ディスられた気もするけど、急ぐのはさんせー」


林を駆ける。


メルトは俺たちの追跡がしやすいように木に傷を付けてくれている。


そのまま痕跡を追っていくと、古い廃坑の入り口にたどり着く。


「ここか。おーい、メルトー、どこだー」


「師匠ー」


しかし声は帰ってこない。


先に一人で入ったのか?そこまで急ぐ理由はあるのか。


「ワンワン!」


急にポチが吠え、坑道の脇の茂みに俺たちを誘導する。


「おじさん、これって」


マリナが手に取ったのは、折れた矢。


ポチが反応するということはメルトの物で間違いないだろう。


メルトもそこそこの実力者。ゴブリン程度に後れを取るはずはない。ということは


「ポチ、メルトは中にいるのか」


「わふ」


今のは肯定か。


折れた矢と姿の見えないメルト。嫌な予感がしやがる。


マリナを一人で置いておくよりは俺の傍の方がまだましか。


「乗り込むぞ。メルトが危ないかもしれん」


「師匠が!?急ごう!」


ゴブリン達の巣穴のはずの坑道。通常であれば見張りの一匹や二匹いるものだが、その姿もない。


坑道の内部には布切れや棒がきれ、食いカスなどが散乱しており、生活の痕跡はある。


ここが巣穴というのは間違いなさそうであるが、どうにも静かすぎる。


外敵が乗り込んでくれば迎え撃つはずだが。


ペースを上げて、坑道を一気に駆け抜けていく。


体にまとわりつくようなジメジメした湿気。それと一緒に坑道の奥から生臭い不快な匂いが強くなってくる。


「うぇ、臭い。おじさんこの匂いなに」


「ゴブリンどもの体臭だな。しかし、それだけじゃない気もするが」


生臭い体臭と獣臭さに交じり、食い散らかされた食料の腐臭。そこに微妙に混じる不愉快な魔法の気配。


しかしゴブリンどもが魔法を使うということはゴブリンメイジが混じっているのか。


それにしてはどうにも魔力の質が異質だな。強力すぎる。


魔力の痕跡をたどりながら行動の奥に進むと開けたスペースに大量のゴブリンどもがたむろしている。


「「ぎゃあああああああああああ」」


一斉に咆哮とともに飛び掛かってくる無数のゴブリン。


「来るぞ!」


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