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初めてのキャンプ

今回の調査目的の先であるホールイートまではまずポートレイクを経由して行くことになる。


ポートレイクまでは馬車で約三日。


さらにポートレイクから山を回り込む形で二日。


五日ほどの旅路になる。


道中でキャンプは必須になるだろうから、準備は念入りに行うべきだな。


テント二張り。予備に一つ。後は寝袋を人数分。


明かりはランタンと焚火でいいとして、食料は保存食を幾らか用意する必要がある。


後は武器とスペアをいくつか用意しておけば問題ないか。


準備は明日の午前中に終え、昼には出発するとする。



地図を見ながら旅程を組み、各々それに備えた準備を行うこととして一旦解散だ。


「おやじ、長いこと居座って悪かったな」


「いいってことよ。それよりも、今度はちょっとばかし遠出になりそうだな。何かと入用だろ。用意してやるからリスト寄越しな」


「すまない。助かる」


武器と雑貨の必要なものをリストアップし、おやじに手渡す。


職人気質でもあるが、何より面倒見の良さはドワーフ随一の人物だ。こういうところは本当に頭が上がらない。


せっかく気遣ってくれたのでそちらの準備は任せて、他の物の買い出しを行う。


ポーション、薬草、応急セット、ロープ、毛布、雑貨は多くて困ることはない。


馬車の移動なら多少重さを気にせずに積み込めるのはいいところだ。


俺の装備は基本的に日々細かなメンテナンスは行っている。長旅になるとそのあたりも自分でしなけりゃならない。


後は根本的に、そこら辺の雑魚に後れを取るような装備でもないってのは大きいが。


その点に関してはマリナの装備もかなりの上級なものになる。


シルバーベアもジャイアントカメルーンも推奨は30-3。レベル30以上の冒険者、三人以上での討伐を推奨という意味。


その素材で作られたものは駆けだしに持たせるには過保護な性能と言えるだろう。


自宅に戻り、リックに経緯を話す。


「しばらく家を開けることになりそうだが、一緒に来るか?」


「うーん。行きたいのはやまやまなんですよ。でも最近、妖精たちの間でも変な噂が流れているですよ」


「変な噂って?」


「行方不明になる妖精が最近多いですよ。森とか川とか人のいないところでよくいなくなるですよ」


「妖精の神隠しか。そっちの情報も調べておくか。リックは念のため家にいるようにしろよ」


「わかったですよー」


「たっだいまー」


そんなことを話していると、マリナも戻ってくる。


「おかえり」

「お帰りですよー」


「おじさんも戻ってたんだね。これ見て、さっきポチを連れて歩いてたら、雑貨屋のおばさんが首輪くれたの」


見るとポチの首には朱色の首輪が装備されている。


名前といい、首輪といい、飼い犬感が増したな。大きさは全長が2.5メル近くあるから犬にしてはでかいが。


「リックちゃん、この子ポチっていうの。仲良くしてあげてね」


「ワンっ」


「はいですよー」


そのままポチの頭の上にリックがチョコンと座る。


ポチも特に気にする様子もなく、そのままマリナについて回っている。


「おおー。ふわふわですよ」


頭の毛をもしゃもしゃしながら、体に巻き付けたりして遊んリック。あそこが定位置になりそうな勢いだな。


「二人ともお風呂いくよー」


「わふ」「ですよー」


二人というか二匹というか。


この家は人の人口構成が過半数に達するのを嫌うらしい。


こうして数日前と比べるとずいぶんと賑やかになった家での夜が更けていく。





「それじゃ準備もできたし行くとするか」


馬車に荷物を積め込みいよいよ出立だ。


「それでは皆さん、いってらっしゃいませ!」


リンちゃんが俺たちの馬車を見送りながら火打ち石をカンカンと打ち鳴らす。


いつから広まったのか、魔よけのおまじないらしい。


ニホンでもやっているらしいがどちらがルーツかは分らんな。


「まずはポートレイクに向かうとのことですが、本日はどこまで向かうのですか」


「そうだな、せっかくポートレイクに行くんだから一泊していきたいところだしな。初日は少し飛ばして湖畔のあたりまで行って


そこでキャンプだな」


「湖畔というとレドラの湖ですね。あのあたりでしたら強力なモンスターもいませんので丁度良いでしょうね」


「あたしキャンプは小学校の時に行った以来だよ。ちょっと楽しみ」


「たまには星を眺めながら寝るのもいいもんさ」


馬車の御者は俺とメルトが交替で行う。


そのうち練習がてらマリナにもやらせておくか。


ポチは二台で寝かせているが、尻尾はたまに荷台からはみ出している。


傍から見たら妙な光景に映るだろう。


道中はモンスターに出くわすこともなく、順調に進んでいく。


少し拍子抜けだが安全なのはいいことだ。


日が落ちる前には今日の目的地の湖畔に到着できた。


念のため周囲の安全確認はしておくか。


「メルトとマリナは二人一組で回りを見てきてくれ。俺は一人で大丈夫だろ。何かあったらそうだな、マリナの花火でも上げてくれれば飛んでいく」


「りょーかい。じゃあ、師匠いこう!」


「ええ、アート様もお気をつけて」


二人の姿を見送りつつ、俺も反対方面の偵察に向かう。


俺の担当は主に湖畔の方になる。


この湖から流れた川はアランドルの方にも流れており、生活水にも使われている。


水質は綺麗だ。


透き通った湖の中を魚が優雅に泳いでいる。


ここの魚なら泥臭さも少なく旨そうだな。湖畔に沿って周囲を観察してみるが、モンスターのいる気配はない。


湖の中には水龍がいるらしいからヘタに刺激するのはやめておこう。


しかし、妙だな。


この辺りはそこそこ人の出入りが少なく、モンスターの生息密度としてはリンネルネの村よりもよっぽど高いはず。


モンスターの一匹や二匹現れても不思議ではないはずなんだが。


水辺も豊富なこの付近では両生類系のモンスターが豊富に生息する。


カエル、ヤモリ、サンショウウオ。どのモンスターにしても毒の攻撃を駆使してくるところが厄介だ。


岩場を詳しく調べると、


あった。


モンスターの痕跡。


岩場にべっとりと付着した大量の粘液。


ぬめり具合から見ても、数刻前までここにいた様子だ。


姿を隠したか。


まあ、昼間に姿を隠すくらいなら夜に襲ってくることもないはずだ。


水辺は今日は大丈夫だろう。


水浴びくらいならできそうだな。


先にテントの設営やっちまうか。


馬車での移動ということもあり、持ってきたのは、設営の手間もかからないワンポール。


地面に杭を打ち着け、ロープで幕を固定し、真ん中にポールを立てて、テントを立ち上げる。


馬車を使わない移動の時は荷物を減らすべく、ポールも何も持たずにその辺のもので代用するが今日は楽でいい。


ちなみにテントの素材には丈夫な動物の皮を使ったもの。天気の悪い時用に撥水性の高いフライシートも用意してあるが今日は必要なさそうだ。


テントは二張りでいいか。俺と女子用ってところだな。


後は焚火用の薪を集めに行くか。


着火剤はマリナがいるから要らないだろう。この便利さは手放せないな。初心者ガイドには火炎の魔法が使える者をパーティーに入れる


ように付け加えておくように言っておこう。


最後に晩飯か。


カエルなりの肉でもとれればよかったんだが、これについてはマリナたちの成果次第だな。



ちなみにカエルの肉は鶏肉みたいでそこそこうまい。モンスターも同様だ。


そんなことを考えながら設営を行っていると、マリナたちが戻ってくる。


「結構時間かかったみたいだったが何かいたか」


「ワイルドボアが一頭、後はツノウサギがいましたので仕留めてきました。夕食にはちょうどよいかと」


「なかなか豪勢な晩飯だな。早速作っちまうか」


ウサギの方はシチューにしちまった方がいいな。


鍋なら蓋しておけば運べるし。


イノシシの方は俺たちだけじゃ食いきれないだろうし、ポチにたんまり食わしてやろう。


赤みの部分は臭みを消すためにハーブで味付けしソテーにするとして、余った部分は一旦燻製にでもしておくか。


保存食は幾らか持ってきたが、念のためだ。


素材として使えそうなのは、角と牙。毛皮はあまり品質も良くなさそうだしどうするかな。


「メルト、皮は焼いちまうが欲しい素材なんかはあるか?」


「そうですね、焼いてしまうのであればウサギの皮だけいただけますか」


「了解。それじゃあ、俺はイノシシを捌くから、ウサギの方をよろしく頼む」


「ねーねー、あたしはー?」


「そうだな。そこそこ可愛いウサギから少し血が出るのと、こわもてのイノシシからどばどば血が出るのとどっちがいい」


「究極の二択じゃん。火おこしとか野菜切ったりあるでしょ!」


「忘れてたわ。そんじゃニンジンと玉ねぎは一口サイズに切ってくれ」


「ほいほい」


ウサギの方が先に仕上がったらしく、女子は二人で仲良く料理タイムに突入したようだ。


マリナはここ数日リックと一緒に料理をしていたらしく手際は少し良くなっている。


そういえば、メルトは初めて会ったときはまだ少女だったし、今の年齢はちょうど二十そこいらか。


マリナにとっては姉みたいな存在なんだろう。


「マリナさん、お塩取ってくれますか」


「はーい。お野菜はもう鍋に入れちゃっていい?」


マリナは染めているが金髪だし、メルトの方も亜麻色の髪をしている。こうやって並んでいると姉妹と言えなくもない。


俺一人でマリナの面倒を見ていくというのも不安はあったが、しばらくはメルトも一緒ってのは改めて心強い。


一人でそんなことを考えていると、足元にポチがすり寄ってくる。


「どうした、お前はあっち行かなくていいのか」


「わふ」


「そうかい。なら野郎同士仲良くしようか。ちょっと食うか?」


ある程度言葉は理解しているんだろう、尻尾をぶんぶん振りながらその辺をくるくる回り出す。


せっかくなので、栄養価の高そうな部位を選んでやるか。


俺たちは内臓は食わないが動物は好きらしい。


適当に内臓をあげてみると嬉しそうに齧り付く。いい食いっぷりだな。


ポチと戯れながら俺の方も準備を終える。


飯の分に取り掛かる前に燻製だけ仕込んでおくとしよう。


「そっちはどうだ?」


「シチューはもう大丈夫だよー」


「なら、肉も焼くか。パンだけ切っといてくれ」


「それは私が用意しましょう」


晩飯も出来上がり、三人と一匹で飯の時間だ。


同じ釜ではなく鍋だが、これこそキャンプの醍醐味だろう。たまには星空の下で食う飯も悪くない。


「「いただきます」」「ワン!」

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