ジャイアントカメルーン
マリナの指さした先にいたのは巨大なカメレオン。
尻尾をの除いて体長は3メル。尻尾は細長く、巻いている状態から察するに2メルほど。
ジャイアントカメルーン。
木にへばりついているくせに擬態はしておらず、濃い緑色の鱗をさらしている。
しかし、違和感がある。
これだけ騒いでいるにも関わらず、まったく動かない。
というかこちらに対して一切の反応がない。
まるで、死んでいるかのような。
「キモイ、キモイ、キモイ、あれはまぢでキモイ!ってかでかい。こわっ」
うるせえな。
「マリナ。落ち着け。あいつは多分・・・」
「キモイよー、おじさん助けて」
こちらに走り寄り抱き着いてくる。ガキのくせにいい匂いがする。って今はそれどころじゃない。
「いったん落ち着け。あいつたぶん抜け殻だ」
抱き着くマリナを引っぺがしながら、カメレオンを観察する。
基本的には動きの少ないモンスターだが、動くモノには反応を示すのが常だ。
特に体は動かずとも、目は機敏に反応するものだが、こいつに至っては全く反応がない。
「試しにあいつの足打ってみろ」
「え、あたしが打つの。あんまり見たくないんだけど」
「見たくないってお前、これからあいつと戦うんだぞ」
うわあああ。と頭を抱える。そんなんでこれからやっていけるのかね。
基本的にカメレオンの脱皮なんてのは皮がバリバリ細かく剥がれていくんだが、このサイズになると話が違うらしい。
あの大きさになると体表も甲殻類みたいに外骨格の役割を持つようになる。
要するにめちゃくちゃ硬い。
巨大な爬虫類系のモンスター全般に見られる特徴だ。
がたがた震えながら矢をつがえ、発射。足のあたりに着弾し、ボトっと地面に抜け殻が落ちてくる。
高さがある分、衝撃もなかなかだ。
「うわ、落ちた!」
「だから抜け殻だって言ったろ。とりあえずあれ調べてみるか。ほら、ついてこい」
「いーやーだー、むーりー」
その場を離れようとしないマリナの腕を引き、抜け殻のところまで引っ張て行く。
痴漢、変態、人でなし、と散々なことを言われるが、ここで甘やかすつもりはない。
観念したのか、直視はしないもののとりあえず近づきはする。
「さてと、殻の中身は。ラッキーだなマリナ。とりあえず乾いてる」
「ちょっと待って。湿ってるパターンあるの」
「湿ってるというか、脱ぎたてだとぬるぬるしてるな。この様子だと、脱皮してから数日経ってるか」
「カメレオン、ぬるぬる、キモすぎ」
うわごとのようにつぶやくマリナ。こいつは爬虫類系は厳しそうだな。完全に目が死んでる。
数日経っているということは、体はある程度硬くなっているか。
脱皮直後の場合は体も柔らかく攻撃は通りやすい。その分気性も荒いが。
そして脱皮から数日後は気性も荒く、硬いという一番めんどくさい時期だ。不意打ちで一気に仕留めるのも難しい。
何よりここで脱皮をするということは奴にとってはここは縄張りであり、外敵のいない環境だということ。
そこにのこのこ現れた俺たちはいつ食われてもおかしくない獲物。
マリナがこの状況じゃ、正直足手まとい感は否めない。
いったん引くべきか。と考えた瞬間、マリナがまたしても叫ぶ。
「おじさん、アレ!」
マリナの視線の先には今度こそ正真正銘のジャイアントカメルーン。
しかもその体表は普段の緑色ではなく、赤と黄色の入り混じった興奮状態。
「ちっ、いきなり臨戦態勢か」
俺が悪態をついた瞬間、癪に障ったのか、舌による攻撃を仕掛けてくる。
こいつの舌はあり得ないくらい伸びる。
自分の体長と同じくらいに。
槍で飛んでくる舌をはじき飛ばすが、次々と放たれる攻撃を捌くので精一杯だ。
「マリナ!俺の後ろからでいい、弓であいつ狙え!」
幸い俺を挟んでカメレオンと対峙するマリナには舌の攻撃までは届かない。
俺が捌いてる間に攻撃すればそこそこ有利に立ち回れる。
「うぇぇぇぇ、アレ狙うの!?色がさっきのよりキモイんですけど」
「ごたごた言ってねぇで、ササっとやれ!そのうち慣れる」
「どーなっても知らないかんね!」
ヤケクソ気味に放たれた矢だが、狙いは案外正確にカメレオンに向かっていく。
ガキン。
しかし、矢は堅牢な鱗に阻まれる。
「うわっ、はじかれた」
「腹とか間接とか、柔らかそうなところ狙え!」
矢は弾かれたが、攻撃されていること自体は認識しているらしく攻撃は苛烈さを増す。
続いてマリナが放った矢は足の付け根に綺麗に突き刺さる。
鮮血が噴き出すとともにカメレオンの攻撃が一瞬とどまる。
その瞬間に距離を詰め、一気にケリを詰めるが、カメレオンも後方へ飛び退り追いつけない。
同時にその姿が掻き消える。擬態だ。
マズイ!ここで見失うのは分が悪い。
「逃がすか!」
先ほどまで奴がいた地点に攻撃を叩き込むが、手ごたえは無い。
「おじさん!矢!」
マリナの声でハッと気づく。先ほどマリナが狙撃した矢は八の体に突き刺さったまま。
俺の頭上では木を蹴りながら移動するカメレオンとともに、その体にめり込んだ矢の羽がともに移動している。
「そんなところに居やがったか。お前の位置は見えてるよ!」
大きく跳躍したのか、次の木に向けて高速で移動する目印。
直線の移動は単純に見切れる。
着地地点に合わせ俺も一気に動き、木に到着すると同時に斬撃を叩き込む!
「なに!?」
が、俺の振るった槍は虚しく空を切る。
矢だけが移動した。
案外知恵の回るトカゲもどきだ。
「きゃああああああああああ」
背後からマリナの悲鳴が響く。
しまった!本命はそっちか!
振り返ると、舌に巻き取られたマリナの姿が。
「うぎゃああああ!ぬるぬるする!ひんやりする!キモイいいいいいいいいいいいい!!!」
「マリナあああああああああああ!」
飲み込まれるまでまだ猶予はある。
あいつらは獲物を噛まずにそのまま飲み込むことで捕食する。
飲み込まれまいと木にしがみ付いているが、マリナの握力じゃすぐに限界が来る。
魔力を最大限に開放し、速度を限界まで高める。
間に合え!
あと一歩。もう少しで手に手が届く。
マリナの手をつかもうと、伸ばした腕が空を切る。
間に合わなかった!
そのままマリナを捕食するカメレオン。
ゴクンと喉を鳴らし飲み込む。
まだ手はある。
俺が魔力を集中させた瞬間、カメレオンの様子が豹変する。
突如藻掻きだし、四肢をばたつかせる。そして、大きく開かれた口からは爆炎が吐き出される。
その口から閃光が漏れ出し
次の瞬間
カメレオンが爆散。
緑の鱗
赤い血液
透明の体液
様々なものが当たり一面に飛び散る。
そしてその中心には、両腕に炎を灯したマリナの姿がある。
「ねえ、おじさん。あたし決めた。トカゲは絶対殺す。何があっても殺す」
「お、おう。そうか」
只ならぬ雰囲気。何が何でも殺すという明確な殺意。
今までのマリナからは想像もできないような恐ろしい表情だ。
ショック療法とでも言うのか飲み込まれた怒りが恐怖を上回ったといったところだろう。
表情は険しいが、その体は消化液やら体液やら鱗の破片がまとわりつき、大変気色悪い。
正直近づかないでほしい。
「ところでおじさん。なんであたしだけこんなにベトベトのぬちょぬちょなの?」
「なんでって、お前がカメレオンに飲み込まれたからで俺のせいじゃ・・・」
一歩、また一歩。こちらに歩を進めるマリナ。
「あたしたち、パーティーだよね」
ニコニコとした笑顔。しかし完全に目は座っている。
「そうだな。パーティーだな。それがどうかしたか」
「だからね、一緒に」
そこで言葉を区切り、歩も止める。
あまりの不気味さに俺が一歩たじろいだ瞬間
「ぬるぬるパーティーしよおおおおおおおおおお!!!」
「こっちくんなあああああああああああああああ!!!」




