霧の少女 ~追跡と罠の始まり~ ①
それから数日後。
アルスはあれから霧の森の少女に関して密かに調べまわっていた。
だが、霧の森の件で町の大通りで開かれているいつもは活気のある市場も子どもたちがキャッキャッと騒ぎながら遊んでいる公園も今では活気をなくし、子どもたち姿をあまり見なくなった。
そして、レンガの家々が、廃墟のごとく静まりかえりすぎていた。
町の人たちもアルスのことを内心では不気味に思い、恐れていた。
ロナも近頃、アルスに何かを隠している様子だった。
アルスは最後の望みであるガスゴディという名の情報屋を訪ねようと石畳で綺麗にされているが、人通りの少なく薄暗い路地裏を一人、鼠色のマントを着て歩いていた。
路地裏の角を左に曲がったところに例のガスゴディが個人経営している雑貨屋が見えてきた。
ガスゴディはアルスの父親の昔の旅仲間で今はアルスが住んでいるハスティルアの町にそれぞれ根付いている。
だが、ガスゴディはいまだに裏で各地から情報を仕入れてはそれを商売にしていた。
アルスは白く塗装された石造りの家の扉に向かって父に教えてもらった合言葉を言った。
「ウォルタニアの花は太陽を青々と燃やし、ソルシアの木は月を赤々と染める。」
合言葉を言った途端、小麦色の肌をした背の高く地味なチュニックを着た男が出てきて
男「らっしゃい、とりあえず中に入りな。」と、静かな声で言った。
アルスは言われるまま、店に入った。
そして、男は店の奥にある隠し扉にアルスを案内した。
男「どうぞ、ここから先はこのランタンを持ってお客さまだけ、お入りください。」と、
アルスにランタンを渡しながら言った。
アルス「ありがとう。」と、礼を言いながらランタンを受け取り、階段を降りて行った。
そして、5分ぐらい降りてやっと木の扉のすきまから部屋のあかりらしき光が見えてきた。
アルスはノックして
「ガスゴディ殿、霧の森から出てきた少女についての情報が欲しくて参りました。」と、要件を言った。
ガスゴディ「どうぞ、お入りください。」と、爽やかで静かな声で言った。
アルスは扉を静かに開けながら「失礼します。」と、言いながら部屋に入った。
ガスゴディ「さぁさぁ、わが友アテルス・リバーノンの息子よ。そこのソファーに遠慮なく座ってくれ。」と、まるでかつての親友が訪ねてきたかのような口ぶりで言った。
アルス「はい、ありがとうございます・・・。」と、
ガスゴディの姿を見て思わず途中で言葉がきれそうなった。
なぜかというと、アルスの父親よりも若々しく青年のようだったからだ。
その様子を見てガスゴディは
「どうしたんだ。そんなに驚いちゃって・・・。」と、言った。
アルス「い、いや、あまりにも若々しくて・・。少しびっくりしました。」と、急に自分のことが恥ずかしくなってしまった。
ガスゴディ「いやいや、気にしなくていいよ。じゃあ、早速、本題に入ろうか。」と、もう一つのソファに座りながら言った。
アルス「はい、よろしくお願いします。」と、真剣な表情で言った。
ガスゴディ「では、まず君が欲している”霧の少女”の情報なんだが、一つしか得られなかったよ。」と、
少し暗い顔で言った。
アルス「そうですか。それでその情報を教えていいただけませんか?」と、言った。
ガスゴディ「うむ。私が得た情報では例の少女は町長の屋敷の地下室に監禁されているらしい。それ以上のことはわからない。」と、暗い声で言った。
アルスはガスゴディの表情と声からなにかあったのかと思った。
アルス「情報を提供していただきありがとうございます。」と、静かに立ち上がりながら言った。
アルス「これは代償です。受け取ってください。」と、ガスゴディの前に金貨が20枚入った小袋を置きながら立ち去った。
それを見送りながら心の中では(アルスよ、すまぬ。そしてアテルスよ、そなたを裏切ってしまった・・。)と、罪悪感と自分の情けなさに嘆いた。
続く