女性「わたしは...この前助けていただいたゴキ◯リです...」
「わたしは...この前助けていただいたゴキ◯リです...」
突然、何を言っているんだ?と思った。とある住宅街の1つの家。表札には「加藤」という俺の名前がある。家はそんな大層なものでは無くいたって平凡な、肌色の壁の家だ。
それが起こったのは数分前。チャイムの音がなり、「はいはい」と言いながらドアを開ける。そこにはとびきりの美女が立っていた。だが何かおかしかった。黒い服に頭には触覚のようなもの。最初は何かのコスプレかと思ったが。そのセリフを聞いて俺は固まった。
「あああ、ええと?」
女性「わたしは...この前助けていただいたゴキ◯リです...」
冗談だろうとは思った。だが心当たりがある。それは一週間ほど前、ゴキ◯リを逃がしてやったのだ。
普通なら悲鳴をあげ殺そうとするだろう。それが人間の当たり前の反応だ。だが俺はこいつを見てなんも思わなかった。別にこいつに嫌悪感も敵意も恐怖もわかないのだ。
「そ、そうですか」
だが鶴でもありえないが100歩譲ってあったとしても、ゴキ◯リが恩返しにくるなんて聞いたことがない。
ユメだろうと思ったが事実、目の前には美人が立っていて、「ゴキ◯リです」と言っている。
これはツルの恩返しならぬゴキ◯リの恩返しと言ったところか。
「何か御用でしょうか」
「恩返ししにきました」
やはりそうきたか。鶴の恩返しならぬゴキ◯リの恩返しか。
家にに上がらせお茶を出す。といってもペットボトルのやつだが。それをコップに注ぎ目の前に出した。そのゴキ◯リはゴクゴクと音を立ててそれを飲み干すと立ち上がった。
「あれ、あそこのになにか美味しそうですね」
「あ、ちょっ」
その人は片隅に置いてあるものを見る。それはゴキ◯リホイホイだ。紙で小さな家のようなイラストがあり、中にはゴキ◯リは好きと言う餌とベトベトしたシートがある一般的ばものだ。
「ダメですって!!」
「はい?」
恩返しと言うのだからそれに肖ってみるのもいいだろう。だふが、このままゴキ◯リホイホイに引っかかったら恩返しをやめてしまうかもしれない。
なんとか説得し、ツルの恩返しのテンプレまで戻した。次は部屋をかすんだっけか。使ってない部屋に案内すると、おきまりのセリフ
「では、向こうの部屋を使わせてもらいます。絶対にぜぇっっったいに、入らないでくださいね」
「わかりました」
昔話ではここで開けてしまい全てを台無しにしてしまうが、俺はそこまで愚かではない。
俺がいつも作業に使っている部屋を貸し、そこで何かをはじめた。
きっとすごいものを作っているのだろう。気になるが昔話の二の舞にならんとひたすら我慢する生活が始まった。
「カッちゃんってさ」
「ん?」
店で友人がそう話題を振ってくる。加藤だから友人にはカッちゃんと呼ばれている。
向こうでは「いらっしゃいませ」と店員が客に注文を取っている。
「生き物に優しいよね」
「まあな」
「それがたとえゴキ◯リでも」
その言葉に飲んでいたものを吹き出してしまう。いま居候させているのがゴキ◯リというだけあって、自分の中ではタイムリーな話題に反応してしまった。
「大丈夫かよ」
「ああ、それで?」
「いや、それだけ」
「そう」
バレているわけではないようだ。これでバレていたといたら面倒なことになる。
なるべく誰にも話さないようにもしてるし気づかれないように努力もしてる。
ツルの恩返しのようには絶対にならない。
「おまえん家行っていいか?」
突然の友人のその言葉にビクッとする。家入れて「あの部屋に入るな」
と言ったところで意味はないだろう。こういうのは最初から入れなければ危険性はない。
「駄目だ」
「なんでだよー」
「駄目ったらダメ」
「ケチー」
ふくれ顔をするが今は誰も呼ぶことはできない。なんども「駄目だ」というと「じゃあいいよ」とつまんなそうにいいコンビニで買ってきた唐揚げを取り出すと一口パクリと口にする。
「でも何か気になるなー」
「いやなんもねぇよ」
「そうか」
そのあとは友人は何も喋らずただ唐揚げを口に運んだ。
まああれだけ言っておけば少しは怪しまれても仕方がない。だが今はなんとしても死守しなければならないのだ。
それからずっとこもっているが、これといった恩返しは全く無かった。最初は期待を込めて開けなかったが、だんだん何をしてるのか気になってしまった。
あんなに開けないと誓ったのに、今はあんな長く何をしているのだろうという疑問だけが頭の中に残る。
「うーんでも開けたらなあ...そうか、聞き耳だけなら...」
開けないようにちょっと様子を伺うことにした。オレンジのドアに耳を立てて話を聞いてみる。
「世界征服まであとちょっとだ。まさか私が地球を狙うゴーキ星人だとは夢にも思うまい。人間への擬態はすこし失敗したがうまく忍び込めた...」
「さすがボスですね!」
「ああ。恩返しだとか言っておけば人間はすぐに騙せるから簡単だったぞ」
世界征服がどうのとか言っている?
きっと、聞き間違えだろう。もう少し耳を立てて聞いてみることにした。
「これで地球はわれわれのものだ!!!ははははははは!!!!」」
聞き間違いではなかった。確かにそう言っている。俺は勢いよく扉を開けてしまった。
「え?何をしているの?」
会話が気になり開けてしまった。だが、そこには美人などいなく、ゴキ◯リのような怪物が居た。一瞬何が起こったのか分からず混乱する。近くには小さなゴキ◯リもいっぱいいる。
「あ....」
「どちら様で?」
「お、恩返しを...」
「今、世界征服がどうのって....」
「いえ...恩返しです...」
スーッと息を吸って大きな声でこう叫んだ。
「とっとと出てけー!!!」




