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異世界に落ちてきた男  作者: 岡本沙織
第6部「テクノロジー」
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第63回 「思惑」

 「ビルドシルム」のテレビCMは連日連夜絶え間なく放映され、駅前には巨大広告が設置され、街の一等地には大きな販売店が建てられた。この新製品は帝国のみならずイースタシアでも大変な人気を博しており、天文学的な発注数に生産が追い付かないほどだそうだ。津田首相は発売早々に興味を示し、僕へV2社の幹部との仲立ちを依頼した。僕はただちに領事館へ連絡して諮問の段取りを整えさせ、当日のレジュメを長谷川氏にメールで送った。


 「ツダは"スマホ"の存在を知らなかったのだろうか。」


 リヒャルトはいかにも不思議そうな顔をした。彼はオリジナルを目の当たりにした数少ない1人だが、確かに津田が異世界人であればスマートフォンなど大して珍しいものではないはずだ。


 「やはり津田は異世界人ではないのではないか。」


 ブラッドはそう言ったが、リヒャルトは自説を曲げるつもりはないようで「教授とは異なる世界線の住人だったかも知れません。」と強弁した。もちろんその可能性も否定できないが、論理性を重んじる彼が津田首相が異世界人である前提そのものを信じて疑わないのはいささか妙であった。


 「それらの真偽を明らかにするためにも津田へ贈るビルドシルムに盗聴器を仕込んだらいかがでしょう。」


 僕の提案にリヒャルトは「もうやっている。」と即答した。


 「君は常日頃から電子決済を始めV2社の様々なサービスを利用しているね。」


 「もちろんです。帝国の技術は元の世界と比べても遥かに利便性が高く高性能ですから。」


 「しかしそれは国民の生活のため、というより帝国が大衆を監視下に置くためにある。」


 確かに帝国ではビジネスからエンターテイメントまでほとんどの個人情報が国民IDに紐付けられており、政府は誰がどこに行き何を買って何を食べたかまで知ることは容易だろう。


 「つまりビルドシルムも帝国が世界中の個人情報を収集する目的で普及させようとしているのでしょうか。」


 「その通りだ。V2社がたった十数年でトップ企業になった背景には国防軍との関係性が大きな役割を果たしている。ガーボル氏は確かに優秀な技術者だが、何の後ろ盾もなく国家規模のネットワークなど作られるものか。」


 「しかし同盟国を相手に諜報活動など露見すれば大事ではないですか。」


 「その心配は無用だ。本来この世界に存在するはずのないテクノロジーを誰が解明できるというのかね。」


 「津田が転生者だとすればできるかも知れません。」


 僕が疑問を呈するとリヒャルトは「望むところだ。」と言ってニヤリと笑った。


 「それにしてもなぜあなたはそこまで津田が異世界人であることにこだわるのですか。」


 「こだわってなどいないさ。ただそのほうが我々にとって都合が好いだけだ。」


 どうやら津田の暗殺はリヒャルトを外国組織部に派遣した統合参謀本部のベック大将という人の発案で、津田が異世界人であることは彼の面目を保つための必要条件らしい。


 「その人の面目とやらはイースタシアとの友好関係よりも重要ですか。」


 リヒャルトに問い掛けると彼は至って真面目な面持ちで「当然だ。彼は我々の盟主である。」と言い放った。それを聞いたブラッドは少々芝居がかった風に手を叩き大声で笑った。


 「驚いたな。イースタシアと戦争が始まれば今の帝国に勝ち目があるとは到底思えないが。」


 「ツダを排除すれば問題ありません。」


 「ずっと気になっていたのですが、魔法課には念力で人を殺す魔術師もいると聞きます。どうして彼等に命じて手を下させないのでしょう。」


 おもむろにダスラー氏が口を挟んだ。それは僕も疑問に思っていて、アシュレイなら津田首相の心を操作して自殺に追い込むこともできるしヴィンデなら津田首相の頭上にいつでも核弾頭を落とすこともできる。


 「命じる人物がいないのさ。親衛隊の上層部はツダによって骨抜きにされている。教授がよく知っているだろう、帝国の内情がどれだけツダに漏れていたかを。」


 「仰るとおりです。津田は魔法課の内情や僕自身の周辺に関する情報すら僕以上に詳細に知っていました。」


 「それなら魔法課の誰かを我々の陣営に招き入れれば良いのではないでしょうか。幸いブラッドもタカセさんも魔法課とは浅からぬ縁があります。」


 ダスラー氏の提案にブラッドは苛立った様子で、目を血走らせ口元を震わせながら食って掛かった。


 「何を言っている。お前達の下らない思惑に俺の恋人を巻き込むつもりか。」


 ブラッドがそう言うと、僕は思わず声を上げずに入られなかった。マルティナとカタリナに恋人がいるとは聞いていたが、その内のどちらかがまさか彼だったとでもいうのだろうか。しかもそれがマルティナだったとすれば少し居心地が悪い。


 「ちょっと待て、恋人とは誰のことだ。」


 すると、つい今までダスラー氏と口論しようとしていたブラッドはどういうわけか低く穏やかな声で、わざわざ振り向いて僕の目を覗き込んだ。


 「おや、マルティナから聞いていなかったのか。」

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