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異世界に落ちてきた男  作者: 岡本沙織
第6章 「海の都」
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第53回 SF

 ブラッドが黙ってしまったので僕は再び書類に目を通すことにした。イースタシアの専門家になりきるなら僕もイースタシアについて詳しく知らねば設定の上で都合が悪い。無論、多少の矛盾は言語の壁でいくらでも覆い隠せるが用心に越したことはない。それに母国の変わり様を知っておきたいという気持ちもあった。

 この世界ではヨーロッパを中心とした「帝国」、アメリカ大陸とイギリスを合わせた「合衆連邦」、そして東アジアの「イースタシア」という三大勢力が互いに拮抗しながら辛うじて国際秩序を保っている。僕の所属する「帝国」は目下、イースタシアと表向きは同盟関係にあるがその政治姿勢はどうも友好的だとは言えないらしい。イースタシアという国家は複雑な形態をしており、狭義には元の世界の「日本」を指すが広い意味では「日本、中国、東南アジア、インドを含めた東アジア諸国の連合体」なのだそうだ。これは第二次世界大戦でナチスがソ連に勝利してしまったため北進論が採られ、対米開戦が実現しないまま戦争が終結してしまったことで「大東亜共栄圏」が現代まで存続していることが原因のようだ。つまり満州国、中華民国、フィリピンやベトナムなどは国として一応存続してはいるものの傀儡国家としての期間が長く我々外国人から見れば「イースタシア」という単一国家としか捉えられていないのだ。

 ただし平行世界の日本においても東アジア支配、特に中国支配は難航し、中国語を公用語に制定したのも行政府を中国に移したのも脆弱な支配権を補強するためにやむを得ない措置だったようである。ダスラー氏が「日本語」を知らなかったのはそのためで、少なくとも外国政府の人物と接点のあるイースタシアの支配階層(貴族や富裕層)は必ず中国語を話すことができると考えて差し支えない。また帝国のような優性思想がイースタシアにはなく、政財界において (未だ日本人が優位であることに違いないが) 民族を理由に排斥、あるいは優遇されることはまずないそうだ。元の世界では当たり前の話だが、帝国に長くいればそれはかなり奇妙なことのように思えてくる。それにしても不思議だったのは第二次世界大戦中の植民地に「創氏改名」や「皇民化政策」など「日本化」の政策を行った日本が自らのアイデンティティーを捨てて「中国化」したことである。深夜帯に放映している歴史ifもののSF映画や戦後教育を受けた僕のイメージではもっと日本は恐怖政治などで反抗的な民族をねじ伏せるものだと思っていたが、それほど中国が強かったのだろうか。それにしては中国が一方的に殴られるだけの被害者のように教わった気がするので、やはり不思議である。


 そしてイースタシアが著しい変貌を遂げるのは津田三郎が首相に就任してからである。そもそも彼が衆議院議員に初当選したのはわずか5年前、首相就任はつい昨年の話である。つまりたった1期務めただけで首相にまで出世するのだから普通では考えられない。しかも彼が元は浮浪者だったことから巷では「今太閤」と呼ばれているそうだ。

 それを可能にしたのは庶民からの人気と、彼独特の政治手法にあるようだ。端的に述べるととにかく早い。まず帝国を出し抜いての宇宙開発に先鞭を付け、この世界ではなかったはずのインターネットを普及させ、新エネルギーの導入を短期間で行い、それに伴う多額の経済効果を生み出してきた。急激な改革には抵抗勢力が付きものだが、彼は巧みな根回しと敵陣営の切り崩しによってことごとく回避したのだ。「帝都」と呼ばれたそれまでの首都から「和田」への遷都には国会における大多数の反対を受けたが、当時財務副大臣だった津田が侍従長を通じて皇帝の宣旨を取り付け、メディアを使って世論を散々に煽り実現させた。首相就任直後には突然インドへ侵攻し、当時不可能と言われたアラカン山脈を越え奇襲を成功させたことがイースタシアの勝利を決定付けた。

 津田の名宰相という度を超え、もはや奇妙とも言える業績には確かに帝国が「異世界人ではないか」と疑いたくなるのも頷ける。その上で秘密裏に帝国への紛争工作を行っていたのであれば彼の暗殺を計画するのも当然の話だろう。ただ、仮に彼が異世界人だったとして暗殺を企てる人選に僕が挙がる理由にはならないのではないか。そもそも異世界人の皆が津田のように有能であるとは限らない。実際に僕は平凡な高校生である。もしかすると帝国にはまた違った、僕の思いも寄らない意図があるのではないか。あるいは本気で津田を暗殺などするつもりがないのではないか。

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