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異世界に落ちてきた男  作者: 岡本沙織
第6章 「海の都」
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第50回 「魔王討伐司令」

 店内は白い漆喰と石柱が室内を明るく見せ、吹き抜けの両端には2階へ上がる階段が備え付けられていた。床には絨毯が隙間なく敷かれ、年代物の木製テーブルと椅子は重厚な鈍い色彩を放っていた。リヒャルトはしばらくこちらに逗留しているらしく、慣れた足取りで奥のレストランに向かった。


 「君には『魔王討伐』という極秘任務が与えられた。」


 昼食のグラタンにちぎったブールを浸しながらリヒャルトは僕に告げた。初めは出来の悪い冗談か何かだと思ったが、彼の発言に驚いたブラッドが口を付けていたコーヒーを漫画のように吹き出したのを見るとどやら真面目な話らしい。ダスラー氏も慌てて制止を促していたが、彼は構わず話を続けた。彼らがなぜそんなに動揺するのか僕にはわからなかったが、その「魔王」と呼ばれる人物がよほどの重要人物のことを言い表しているのだろう。


 「魔王とはイースタシア首相の津田総介という男の渾名だ。彼は君と同じ、異世界から来た男ではないかと噂されている。そこで君は津田に接触して真相を明らかにしてほしい。できれば殺してほしい。」


 シュナイダー博士が僕に任務を告げなかった理由がわかった。そんな話が万一にでも外部へ漏れたら国際問題どころではなく、ダスラー氏やブラッドが困惑するのも当然である。イースタシアの政治形態は知らないが帝国で総統暗殺の謀議などすれば銃殺刑どころではない。そもそも自分から「極秘」と言っておいて公衆の場でベラベラと話すリヒャルトの気が知れないが、彼にとっては些細な問題ですらないのかも知れない。


 「なるほど、僕が呼ばれた理由はわかりました。しかしわからないことが2つあります。1つは、どうして我々がイースタシアの首相を殺す必要があるのです。交戦国が相手なら話もわかりますが、現実はそうではありません。もう1つは、彼が転生者であると考えられた理由です。いや、仮にそうであったとしても僕と同じ世界線の住人だったとは限りません。」


 「2つめの質問から答えよう。まず津田首相の経歴に不審な点が多いことだ。彼は現在55歳だが、過去8年間より前の経歴が一切不明である。浮浪者上がりということになっているが親兄弟はおろか友人知人すら、自称を除き一人として現れないというのはいかにも怪しい。また彼の政策はあまりにも型破りだ。数え上げればキリがないが、我々すら成し得なかったインド攻略を彼はたった1ヶ月でやってのけたのには世界中が驚愕した。この和田市も彼はまるで東洋の秘術でも用いたかのように、わずか3年でこれほどの大都市にまで仕立て上げた。さすがに我々もそんなことを根拠に彼が転生者であると確信しているわけではないが、真実を確かめられるのは君だけなのでね。」


 「なるほど、確かめた後に殺すのですね。」


 「その通りだ。もちろん殺し方を発案してくれるだけでもいい。さて、初めの質問への答えだが、君たちが考案した『聖母騎士勲章』だったかな。あれが決め手になった。中東で収束に向かいつつあったテロを陰で再び煽ったのは誰だと思う。他ならぬ津田だよ。国防軍はすでに不穏な動きを察知していたが、親衛隊が大量の資金を注ぎ込んで紛争を落ち着かせてくれたお陰で彼の行動が読みやすくなった。ガーボルとかいう通信業者も当然それを承知していたさ。」


 「しかし仮に津田が転生者だったとして、僕が彼を殺す方法を教えるななんて本気でお思いですか。考えてもみてください、あなた方の読みが正しければ僕と津田は同胞ということになりますよ。どこの世界にたった一人しかいない仲間を売る外道がいると言うのですか。」


 「もし君が裏切ればその時はもちろん()()するつもりだ。ただ残念ながら親衛隊が君を無闇に失うのを渋ってね。監視のためにルンデン少佐がいらっしゃるというわけだ。」


 僕はわかったようなわからないような複雑な心境だった。帝国が僕を人間扱いしないのには慣れていたが、計画があまりに雑過ぎやしないだろうか。僕が何をどう動けばいいのかまるで具体性がない。一国の首相に会いに行って「あなたは異世界人ですか」と聞けばいいのだろうか。いくら何でも無茶苦茶だ。その上でどうやって殺せばいいのか。全く意味がわからない。


 「津田との会談は用意してある。君を党の役職に据えたのもそのためだ。帝国にイースタシア人の官僚がいることは向こうにも有意義なパフォーマンスである。」


 「なるほど。それはいつですか。」


 「今日の午後7時だ。」


 「それは少し唐突過ぎやしないでしょうか。」


 「向こうが会いたいと言っていてね。だから私は急いでいる。」


 リヒャルトはナプキンで口元を拭いながら淡々と言った。


 昼食を終えると僕たちは歩いて大通りを抜け、少し北に進んだ所にある古い建物に入った。かつては倉庫として使われていたそうだが今は党のオフィスになっているらしい。エントランスの正面に大きなエレベーターが設置され、その4階に僕が詰める部屋があった。

 ダスラー氏は今日の予定表を僕に手渡し読んでおくように告げると、隣の机で何か書類仕事をしていた。ブラッドはソファーに腰掛け僕が持ち込んだスマホを興味深げに操作していた。

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