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異世界に落ちてきた男  作者: 岡本沙織
第5部「民族」
40/68

第40回 「藪の中」

 刻々と変化する国際情勢も単日で見ればそれほど目まぐるしくなく、日々のルーティーン業務に慣れてしまった僕たちは淡々と与えられた仕事を遂行するだけだった。僕は相変わらず見ているだけだったが、それでも部屋の掃除だったりお茶汲みだったり少しは役に立てるように努力はしていた。異世界学は佳境に入り、僕の転生物語をまとめる作業に入っていた。

 僕は異世界、というより異次元のパラレルワールドから送られてきたのはほぼ間違いないだろう。しかし僕の死因は自動車による轢死(れきし)なのにどういうわけか身体に全く損傷がなかった。シュナイダー博士の説では「何者かによって車と衝突する直前に異次元へ飛ばされた」と仮定されていて、それが閻魔大王(もっとも帝国では日本古来の生死観の共有が難しいため仮に"存在X"などと呼ばれている)なのだそうだ。また閻魔大王は烏帽子(えぼし)水干(すいかん)のような現実にある和装をしていたことから実は死後の世界ではなく「人間を転移させる能力を持つ異世界の誰か」とも解釈でき、そう考えれば僕たちが期待する「生物の転送」が能力的に可能である裏付けになる。では白人のような外見の鬼はどうだっただろうか。僕は顔を見ていないので角の有無の確認を取れていない。つまり僕が勝手に「死後の世界のイメージ」を投影させていただけで本当は「()()()パラレルワールド」だった可能性も十分ありうる。


 マリアはソファーに足を乗せて雑誌を捲りながら「それなら教授以外にも異世界人がいるんじゃないの、」と呟いた。僕は「どう少なく見積もっても20,000以上あるパラレルワールドの1つに2人以上も異世界人がいるのだろうか」と答えたが検証しようもないものはどうしようもない。僕の存在に関しても帝国の上流階級とリヒャルト、オリガの家族など限られた人物しか知らないのだから他国にも異世界人が匿われているとして知る術がない。ちなみに帝国では異世界人の存在がタブロイド紙にスクープされていて、それもアジア人だと特定されている。それも一部のオカルトマニアにしか信じられていないが、そんな荒唐無稽な話を仮に大手メディアが公開しても状況は変わらないかも知れない。

 いずれにせよ異世界のメカニズムに対する考察は想像の域を出ず僕たちは今のところ検証することはできない。しかし無数に存在するパラレルワールドの中には帝国の魔術師たちを超えるスキル保持者が存在してもおかしくはないだろう。それに僕がこの世界に人為的に送られたのならその意味もきっとあるはずだ。ヴィンデは「もしかしたらツバサは実は特別な能力を持っているかも知れない」と予想した。つまり覚醒スキルのようなものだろう。シュナイダー博士は「それも教授を迎えた理由の一つ」と言ってた。僕を手元に置いていたほうがデータが取りやすいのだ。

 どちらと言えば今のところ僕に対してビジネス面での評価のほうが大きい。それは帝国において僕の知識や考え方はかなり独創的だからだろう、ガーボル博士は今もスマートフォンを売り出す準備を進めており、もしそれがヒットすれば僕の懐にもそれなりのマージンが入る予定だ。それならほぼ使い道のない魔法課に所属せず実業家への道も開けそうなものだが、差別主義国家で生きる限りそれも難しい。カタリナは「イースタシアへ行けばいいじゃない」と言ったが実際その通りで、もし僕が帝国領内ではなくイースタシアにいたとしたら少なくとも人種差別の障害を気にする必要はなかった。だからといって同僚の前でそれを言うのは若干失礼ではないかと思ったが。

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