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異世界に落ちてきた男  作者: 岡本沙織
第3部 「戦争」
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第28回 「赤いポリタンクの男」

 瓦礫の街を探索していると、そこには焼け焦げた家屋や粉々になった屋根の破片散乱しており、未だに建物の下から火が煙を上げて燻っていた。マルティナが言うには「目に付くところに死体が転がっていないだけマシ」だそうだが、彼女たちはこれよりも酷い惨状を何度も目にしているのだろう。視点は次第に市街地だった場所から郊外に移り、辛うじて破壊を免れた住宅地に差し掛かった。同じ造りの建物が並び方角を見失いそうになるが、爆撃の前は周囲に店の看板や道路標識がありもう少し特徴が掴みやすかっただろう。

 僕はこの爆撃がテロリストによるものだと思っていたが、実際は帝国空軍の仕業だと聞いて驚いた。メディアにはもちろん正しい情報は流れない。実は民間のタブロイド紙が真相をスクープしていたけれど誰も信じなかったそうだ。もちろん帝国が無差別攻撃を行うのも理由がある。20年程前まではテロリストも人里離れた山岳地帯や森の中に砦のようなアジトを築いていたが、帝国の宇宙軍創設により人工衛星からの映像で容易に位置が特定されるため、都市部に逃げ込むしかなかったのだ。それに加えて市民も帝国への敵対感情から積極的に彼らを匿うことに協力的であるらしい。そんな中でテロを封じるには都市ごと破壊したほうが効率的なのである。


 しばらく住宅地の周りを観察していると、大通りの向こう側に人影が動いているのが見えた。よく見ると赤いポリタンクに入れた液体を頭の上に乗せて運んでいるらしい。人さえ見つけてしまえば後は早い。アシュレイが彼の思考にハッキングを掛け、アジトまで案内させるのだ。僕は彼の移動経路をメモに取り位置の把握に努めた。動画保存機能があれば簡単なのだが、今度ガーボル氏に提案せねばなるまい。

 男は大通りを横切り400m程歩いた後、半壊した病院のような施設に辿り着いた。施設内には武装した白人の少年が見張り役をしていて、年の頃は僕より3つか4つ下に見えた。赤いポリタンクの男は(すす)けた廊下を進み奥にある倉庫のような場所まで歩いていった。途中で何人かと挨拶を交わしていたが、彼らはいずれも肩にライフルを下げジャージやスウェットなど軍服ではない銘々異なる服を着ていた。明らかに貧しい民兵のようだが、武器はどこから供給されているのだろうか。扉のない部屋の奥にはベットの上で横になっている男も見えた。

 敵のアジトを把握したので僕たちの任務は終了かと思われたのだが、今度はマルティナが未来を、カタリナが過去をスキャンし組織の人数、保有武器数、彼らが誰とコンタクトを取っているのか把握するのだという。ここでマリアが「疲れた」と言って脱落した。僕はマルティナと未来の映像を見る担当になったが、彼女の能力では数時間先が限界なのだそうだ。その頃にはもう日が暮れており、どうやら時差で世界首都よりも1時間くらい早いらしい。電気は通っておらず彼らはランプで夜を過ごし、昼間に比べて緊張が解けたのかパンのようなものを食べながら談笑していた。周囲の態度からボスのような男の顔も把握できたが、彼の顔も痩せこけており尊大な振る舞いを見せることもなかった。どちらかと言えば、信頼され親しまれていたように感じる。

 果たして僕たちの「敵」とは何者なのだろうか。恐らく利害関係の不一致はあると思われる。だが、だからといって「悪」であるようには到底思えないのだ。だからといって「話し合う」という解決方法を選択するにはもう手遅れだろう。クレアが武器庫の兵器を破壊し始めた。周囲に爆音が鳴り響き、逃げ惑う人々の姿がモニターに映し出されていた。近くにいたテロリストたちの何人かは爆発の巻き添えになり死んだと思われる。確か僕たちの任務はアジトの特定までだったはずなのだが、まさか破壊工作まで行うとは思っても見なかった。呆然としていた僕に、マリアは紅茶に入れた角砂糖をかき混ぜながら事もなげに告げた。


 「だって報告書を書くのが面倒なんだもの。」

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