第27回 「ミッション」
僕たちは理想の美男子について心ゆくまで語り合い、気がつけば夜明けを迎えていた。眼鏡をかけた色白のクールな青年が好みのマルティナは育成シュミレーションより複数の男の子から一人を選んで「攻略」するアドベンチャーゲームのほうが良いと言い始めたが、眠気と体力が限界を迎えつつあった僕はお姉様方に「ガーボルさんが迷惑だろう」とお暇を促した。ガーボル氏は「全然平気」と言っていたが、姉妹を見る目が週刊誌のグラビアページを開く中年サラリーマンのようだったので彼女たちの身の安全のためにも多少強引に退散することにした。
ダスラー中尉はすでに退散した後だったのでガーボル氏によろしく伝え、姉妹を後部座席に座らせると自動車のナビゲーションを設定し、あとは自動運転で帰路に就くことにした。つい先程まで元気だったマルティナもカタリナもそのまま眠ってしまったが、いくら自動運転とはいえ居眠りは道路交通法で処罰対象らしいので僕は一睡もできず、自宅までの3時間を睡魔と格闘しながら車窓の景色を眺めて過ごした。
帰宅した頃にはヴィンデとクレアがもう朝食後のコーヒーを飲んでいる最中で、アシュレイとマリアはどちらが水色のワンピースを着て出かけるかで紛争を起こしていた。オリガは僕の帰りが遅すぎることに猛烈な抗議を始めたが、とりあえずマルティナとカタリナを僕のベットに運ぶと自分自身はリビングのソファーで横になった。その日の仕事に関しては有休を使うことになったが、陸軍からの招集という経緯からむしろ「明け方までお疲れ様」と労いの言葉を掛けられるほどスムーズに了承を得た。実際はイケメンの話しかしていないのだが。
時間が経ち、ベーコンの焦げたいい匂いに気がついて目覚めると、オリガが昼食を作ってくれていた。シャワーを浴びて着替えてからご馳走の完成を待つことにしたのだが、眠ったままのマルティナとカタリナを起こすのは面倒なのでそっとしておいた。姉妹の無防備で可愛らしい寝顔を見ていると「いつもこんな風に黙っていれば好いのに」と思えたが、どうして他の双子は金髪碧眼なのに彼女たちだけ違うのか、とふと疑問が湧いた。思い起こせば帝国の上流階層にも金髪碧眼が不自然なほど多い。昼食を摂りながらオリガに聞いてみると彼女はジャムをたっぷり塗ったトーストを頬張りながら「優良種だから」と答えた。少数民族のオリガさえ外見が白人であるがためにほとんど差別対象として扱われないが、イエローモンキーの僕から見れば彼らの人種への線引きにはよくわからないところがある。
せっかく有休だが特にすることもないので、リビングでブラームスのピアノソナタを聴きながらオリガにもソーシャルゲームの話を聞かせた。彼女は男とか恋愛とかにはあまり興味がない様子だったが、僕のいた元の世界の、シューティングやアクション、パズルゲームや RPG にも目をキラキラさせて興味を示し、「いつかプレイしてみたい」と素直な感想を述べた。「もしかするとオリガがマルティナやカタリナくらいの年齢になる頃には実現するかも知れない」と僕は希望的観測に基づいた予測をすると、オリガは「大人になるのが楽しみ」と喜んだ。
ガーボル氏からスマートフォンが届いたのはそれから3日後のことだった。シュナイダー博士は彼を含め一人につき1台ずつ渡し、残りの12台を僕に預けた。理由は僕が最も詳しいからだそうだ。情報が可視化されるようになったため瞑想部屋のような何もない部屋にはさっそく円形になった大きなソファーが置かれ、僕たちはそこで「作戦」に参加することになった。
「ライオンのジョー」作戦は無事に終了し、現在の「ヨシュアの木」という作戦に取り掛かっている最中らしい。ネーミングの由来は知らないが、とにかくテロリストとの戦いだということだ。作戦の舞台は世界首都から南に3000kmの距離にあるが、マリアの能力ですぐに目標のライブ映像を見ることができる。映像で確認する限りでは瓦礫ばかりで人のいる気配はなく、激戦の跡であることが伺える。その中からテロリストの拠点を探すことが僕たちの任務だそうだ。




