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異世界に落ちてきた男  作者: 岡本沙織
第3部 「戦争」
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第26回 「ソーシャルゲーム」

 ガーボル氏の気前の良さには理由があった。それは取りも直さず異世界でのスマートフォンの商品化であり、情報料として僕への援助を惜しまない代わりに販売権の独占を目論んでいる。彼の見立てではこの新たなデバイスはテレビやラジオを駆逐し得る存在らしいので、既に大掛かりなプロジェクトとして動き始めているのだそうだ。どうやらただのエンジニアだけではなく実業家としての側面も持っているらしい。

 そこにはもちろん国防軍も絡んでいる。彼らは異世界の技術を軍事転用しようと目論んでおり、すでに小型カメラ、なぜかこの世界には存在しなかったイヤホンの技術が陸軍に提供されているらしい。ただ、さすがにそれだけで「金のなる木」を手放すとは思えないのだが、ガーボル氏は明言こそしなかったものの「やっぱりお礼は見える形で、ね。」と濁していた。つまり賄賂だろう。シュナイダー氏にも言えることだが、この世界の学者は世渡りが上手くなければ成り立たないようだ。その点も元の世界との大きな違いである。

 ところで僕のスマートフォンはいつになったら返却されるのだろうか。ガーボル氏は「当分は無理」と言っていたが、彼らにどこまで使いこなせるのだろうか。アプリのゲームなどオフラインでは起動すらしないものもあるだろう。


 「オフラインでは起動しないアプリもあったと思いますが、よろしければお教えしましょうか。」


 もしガーボル氏がソーシャルゲームを開発してくれるならありがたい。帝国ではビデオゲームが普及しておらず、あってもオーソドックスなチェスやトランプゲームぐらいである。もっと綺麗なグラフィックに派手なエフェクトが付いたゲームをプレイしてみたい。欲を言えば MMORPG も欲しいものだが、開発に時間がかかりそうだ。


 「元の世界では、アプリを起動するとオンラインで接続できるゲームがありました。操作は簡単でアイコンをタップするだけなのですが、ボスなどを倒すためには強力なキャラクターやアイテムが必要になります。そのためには、アプリのダウンロードは無料なのですが、課金する必要があります。そうすることで誰でもプレイ体験ができるメリットがあり、提供側も課金で収益を得られるメリットがあるのです。」


 僕もそこまで詳しいわけではないが、そんな中途半端な知識でもガーボル氏の興味を惹くには充分だった。


 「単純な操作ならちょっとした待ち時間や移動時間の暇つぶしになるかもね。」


 「その通りです。僕も通学中や宿題の合間によくプレイしていました。」


 「そうなんだ。2人はどう思う。」


 ガーボル氏は姉妹に話題を振った。彼女たちはあまり熱心に聞いていない様子だったが、少し考える素振りを見せた後、口を揃えて言った。


 「戦うゲームなら別にいいかな。1人でやっても面白くないし。」


 「でも綺麗な男の子が出てくるなら別にいいかも。」


 彼女たちはいつも二言目には「男」である。女の子というと「可愛いお洋服」や「甘いお菓子」のことばかり考えているメルヘンの世界の生き物だとばかり思っていたのだが、彼女たちが特別に肉食系女子なのかお国柄の違いか僕の中の「女の子」に対する神聖なイメージは日に日に崩れている。


 「美男子を育てるゲームなんてどうかな。」


 なぜかガーボル氏は乗り気だった。彼独自のマーケティング理論によると、10代女性に支持を得ることが大ヒットの鍵らしい。彼らは美男子育成ゲームの構想で大いに盛り上がり、僕たちは「もう遅いから」と研究所で一泊することにした。

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