第25回 「デバイス」
「ガーボルです。初めまして。」
彼は僕とマルティナ、カタリナに握手し短く挨拶を終え、ダスラー中尉にも「ありがとう。後は大丈夫だから。」と退出を促した。中尉は彼に対しても気を遣うらしく、「何か御用がございましたらお気軽にお呼び下さいませ。」とやけに丁寧な口調で告げ、恭しく敬礼をしてから退出していった。ガーボル氏は一見すると人当たりが良く温和な人物だと思われるのだが、ダスラー中尉の態度からそれなりに権威のある人物であることが察せられた。
「わざわざ遠いところからごめんなさい。」
ガーボル氏はそう言うと、彼がシュナイダー博士と同じ大学の後輩であること、僕たちのテレポーテーションについての研究をシュナイダー博士から聞いたことを明かした。彼は国防軍からスマートフォンの分析を請け負っている最中だったためその未知のデバイスに「魔術師のための通信装置」を実装させることを思い付き、1週間足らずで完成させたそうだ。"Bildschirm" と名付けられたそれは確かにスマートフォンと同じサイズ、形状をしており、側面のボタンを押すとタッチパネルのディスプレーにアプリのようなアイコンが表示された。ガーボル氏曰く、スマートフォンは「プログラムが英語だから翻訳に苦労した」そうだが、再現度や操作性は非常に高いクオリティーのものだった。
マルティナとカタリナは初めて見るタッチパネルに大変驚き興味深々の様子だったが、用途については全くわかっておらず不思議そうに眺めていた。アプリをタップすると通話、メール、カメラなどがすでにインストールされ、商業化の暁にはテレビやラジオなども鑑賞できるようになるらしい。ただ通常のスマートフォンと比べ重量があり、リチウムイオン電池の開発が元の世界と比べて遅れているようでもあった。
「この端末にテレパシーを投影できるのですか。」
マルティナとカタリナはガーボル氏に尋ねた。
「そうだね、ちょっとやってみてよ。」
2人に何か頭の中で映像をイメージするよう促すと、ガーボル氏は端末をコンピューターに繋ぎ大掛かりな機械を操作しながらチューニングを行なった。端末の映像は後ろにあるモニターにキャプチャーされ、しばらくするとモノトーンの映像がぼんやり映し出された。映像の切り替わりは早く、建物かと思えば雪に覆われた山脈、男性の顔、自動車、湖に浮かぶボートなど次々と変わっていった。ガーボル氏曰くこれがマルティナの脳内イメージなのだという。
二進法でもいかなるファイル形式でもない彼女たちの電気信号を読み取る技術だそうで、それを実体化させるのは至難の業だったようだ。それが可能だったのは彼女たちや過去の被験体に関しての膨大なデータが収集されていたためであり「100年後の人類はタイムマシーンさえ乗りこなせる」などと言っていた。この端末さえあれば特別な能力がなくてもあらゆる場所の、少し前の過去や未来の出来事を知ることが出来るようになるらしい。
だがそれは同時に恐ろしいことでもあり、誰にも知られず誰かの弱みを握ることでいくらでも他人を陥れることができてしまうのだ。そうなれば各派閥が魔術師を抱き込もうと動くはずで、僕たちの意図しないところで抗争に巻き込まれることもあるだろう。
「この端末があればどこでも仕事ができそうね。」
「シュナイダー博士や教授も作戦に参加させられるわ。」
姉妹は嬉しそうに僕の背中をバシバシと叩き、当然のように同じデバイスの納品を課の人数分要求した。
「20台送るから、使ってよ。」
それだけあれば流出の可能性もあるのではないかと危惧したが、シュナイダー博士がしっかり管理してくれるのだろうと異議を唱えることはしなかった。




