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異世界に落ちてきた男  作者: 岡本沙織
第3部 「戦争」
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第22回 My Revolution

 戦争の放棄について、僕はもう誇らしく語ることはできなかった。なぜなら僕が正義だと教えられてきた社会と、悪だと教えられた社会がまるで双子のようにそっくりな、単なる言葉遊びに過ぎないことを散々に思い知らされたからである。しかしだからといって「戦争は悪だ」という考えは僕にとってどうしても覆すことのできない神聖なものであることには変わりはない。少し考えてみれば誰にでもわかるはずだ。僕の住む街が空襲によって焼け野原にされるなんてとても容認でないし、僕自身が機関銃を手に何の恨みもない誰かを殺すなんて絶対にしたくない。


 「教授、質問してもいいかしら。」


 それまで僕たちの聞くばかりだったマリアが表情もなく僕に尋ねた。


 「確かに戦争が出来の悪い紛争解決の方法だということには私も同感だわ。戦争放棄の理念も本当に素晴らしいことだと思うの。でも、君のいた世界にも戦争はあるのでしょう。」


 僕は「ある」としか答えられななかった。実際はよく知らないが。


 「それなら君が言っているのは戦争行為そのものを根絶する手段じゃなくて、飽くまで君の国だけが戦争を回避する手段よね。それなのに、どうも君の話を聞いていると戦争自体を否定しているように聞こえるのだけれど、やっていることは棄権による無効試合よ。でもトーナメント戦はまだ終わっていないわ。」


 「棄権でもいいじゃないか。毅然と反戦を訴え続ける僕たちの姿を見ていつか他の国々も後に続くかも知れない。そうやって少しずつ平和の輪を広げていくのさ。それは素晴らしいことだよ。」


 「その理屈がよくわからないのだけれど、棄権している立場でトローフィーは要求するだなんて厚かましいにも程があるわ。だってそうでしょう。紛争の根源を断つ努力はしないのに解決方法だけを取り上げようと言っているのよ、君の国は。」


 マリアは視線をまっすぐ僕に向けて、淀みのない静かな口調でそう言った。


 「それに戦争を放棄すれば戦争を回避できるなんて着想も本当に()()()()()わ。フランス、それにベルギーがどうして負けたかご存知かしら。彼らは帝国の再軍備を知っていて何の備えもなかったの。帝国を刺激して戦争になるのを恐れていたのね。でもその結果はご存知の通り、今やフランスもベルギーも帝国のただの地名でしかないわ。それなのに可笑しくて笑ってしまうのだけれど、彼らはなぜか本気で信じていたようね。『マジノ線があるから大丈夫』って。」


 僕はそれでもなお彼女たちに戦争放棄の素晴らしさを彼女たちに説く術を持ってはいなかった。革命は完全に失敗に終わったのだ。考えてみれば軍人である彼女たちが「戦争は悪い手段」であることを最もよく知っている当事者である。その中で彼女たちなりに折り合いを付けて戦っているのに、何も知らない部外者が「お前たちのやっていることは最低だ」と言ったところで受け入れられるわけがないのである。


 その後の講義は当たり障りのないものとなった。 IT 革命から PC やスマートフォンの普及、 SNS の発展や流行りの音楽、ファッションなど僕の身の回りで起きた出来事をなるべくわかりやすく解説した。この世界でも「ツーゼ」 呼ばれるコンピューターや携帯電話が存在しているため通信網の整備は進んでいるが、ウェブサイトや検索エンジンに関しては発想そのものがないようだ。あるいは、もしかするとアイディア自体はあったが情報統制の厳しい帝国内で開発できなかったのかも知れない。

 彼女たちはインターネットの概念に興味を持ったようで、ワールドワイドウェブやサーバー、ドメインなどについて熱心に学んでいた。どうやら彼女たちの「魔法」に関係するようで、そのノウハウを応用すれば瞬間移動やモノの複製もできるようになるらしい。僕も学校の授業で習った知識をなるべく詳細に教えられるよう最大限の努力を試みた。

 特に熱心だったのがヴィンデとクレアだった。ヴィンデは異次元へのゲートを開く能力を持ち、クレーは異次元からモノを取り出す能力を持っているらしい。彼女たちにかかればスプーンから戦艦まで好きなだけ好きな場所へ運ぶことができる。ただ生物は運べないらしく、僕が現在判明している限りの、異次元を移動した唯一の人間だそうだ。確かにインターネットによって情報の高速移動や複製は行うことができるが、物質のテレポートやコピーが可能となれば彼女たちの言葉を借りれば「大幅な戦略的前進」だろう。

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